第13話 見方を変えればチャンス

バッカスに認められ俺は作戦に参加することになりマーズとそれからバッカスと一緒に作戦を開始していた。

場所は襲われた砂漠の下にある場所だった。


砂漠の小さな穴から入ることが出来た洞窟、それがデスワームの巣と呼びれている場所だった。


「少数精鋭、というのも中々いいですな」


そう言いながらバッカスは歩きながら今回の作戦の話をする。

俺のことは見ずにマーズの方を見て説明をするわけだが。


「このデスワームの巣という場所の奥にデスワームが潜んでいるようですな。それでそこにクリスタルの原石もあるものかと思われます」


そう言いながら歩いていくバッカス。


「奴隷。ちゃんと荷物持ちをしているな?」


振り返ったバッカスに問われて俺は頷いた。


「きっちり奴隷としての役割を果たしているようだな」


こいつは差別主義者だ。

奴隷と自分達は違うものだという思想が強く奴隷の名前は覚えないし顔も覚えないからいつまで経っても奴隷呼ばわりだ。


まぁそのお陰でこの前の件で逃げ出したことをつつかれないのだが。


そうしながら奥に、奥に、と歩いていく。


「すまないなクロノ。荷物を持たせてしまって」

「気にしないでよ。これが俺の仕事さ。もっときつい事もやらされてたから。楽な方さ」


マーズの言葉に答える。

俺が持っているものなんてしょせんは三人分の荷物だけだ。

バッカスにこき使われていた時はもっと重いものをいくつも持っていた。


それに比べたら天国、とそう呼べる。

そうやって話しながらズンズン進んでいくバッカスに俺たちはついて行く。


その道中。


「うわっ!」

「だ、大丈夫か?クロノ」


薄暗いせいで何かにつまずいてしまった。

転けそうになった俺を支えてくれるマーズに礼を言う。


「な、何につまずいんだ」


俺は首を傾げながら通って来た道を目をこらしてみると、そこには


「ひ、人?!」

「そのようだな」


そうしてマーズはしゃがみこんでそれを確認した。

それは全身噛み砕かれた人だったものだった。


「この服装は奴隷か。しかもまだ新しい」


マーズがそう呟くとバッカスが鼻で笑った。


「そやつはこの前この上でデスワームに襲われた奴隷の者でしょうな」

「顔を確認してもらっていいか?バッカス」

「マーズさん。私が奴隷共の顔を覚えていないのはご存知でしょう?」

「だ、だが見れば思い出すかもしれない」


そう言うマーズにため息を吐いて答えるバッカス。


「いちいち薄汚いネズミの顔なんて覚えないんですよ、私は」


こいつはこういう奴だ。

奴隷の顔を覚えないことなんて俺がここにいて何も言ってこないことで実証済みだ。


しかし、拳を握り締めるマーズ。


怒りだろうか?震えていた。


「さぁ、行きましょうよマーズさん。ここでグズグズしていればした分だけ原石が無事な確率が下がっていく」


初めからそうだが完全に奴隷の死体など目に入らないとでも言いたげな様子で歩いていくバッカス。


たしかに言う通りだ。


この世界で奴隷の命なんて軽い。

使えなくなれば捨てる、それだけだ。


俺も一応手を合わせるだけ合わせてマーズを促す。


「行こう、マーズ」

「う、うん」


この洞窟の道中では特になにも出てこないようだ。

というよりゴブリンとかが迷い込んでもデスワームに食われるからだろう。


今も俺の視界の端にはゴブリンの死体が映っている。


だからデスワーム以外の生命体が存在しない。

そして、そのデスワームの完全に食料がなくなれば共食いをするそうだ。


「臭いな。モンスター共の死体は」


バッカスはそう言いながら意地悪げに笑う。


「いや、奴隷のにおいも混じって余計臭いのかね?」


俺を見てそう言ってくるバッカス。

悪意に満ちていた。


「バッカス。やめてくれ」


それに答えるマーズ。


「マーズさん?私はただ事実を述べただけですよ。奴隷は臭いというね」


笑いながら歩いていくバッカス。


「帝国は腐っている……こんなんだから剣聖が出ないのだろう……」


そう言い残して歩いていくマーズを俺も追いかけるが、その時バッカスも口を開く。


「マーズさん?言葉には気を付けた方がいい。ここにはその腐敗した帝国に飼われている腐り犬がいますからなぁ、はははははは」


狂気じみたような笑いをするバッカス。

それからマーズを見た。


「あなたがいくら貴族とは言えこの事を上層部が知ったらどうお思われになられますかな?」


暗にこれ以上の陰口は許さんと口にするバッカスに圧されて押し黙るマーズ。

何も言えないのだろう。


「あなたの身は直ぐにでもこのバッカスの犬に成り下がりますぞ?あまり私を困らせないでくださいな。お嬢さん?」


そう言いながら歩いていくバッカスは言葉を漏らし始める。


「それから我が帝国からもそろそろ剣聖が生まれる頃合でしょう」


その言葉に俺は不思議に思い聞いてみた。


「この帝国は数百年もの間剣聖が出ていない。何を根拠にそんなことを?」

「お前が知ることでは無いぞ奴隷。だが、私には見えているインドラ帝国にひれ伏す周りのカス国共がな」


ぬははははと笑って歩いていくバッカス。

やがてこの洞窟の最奥にたどり着いた。


「着きましたな。ここがデスワームの巣の奥地でしょう」


俺達の前には広大な空間と数匹のデスワームが砂の中を泳ぎ回っている光景が目に入る。

ここが……デスワームの巣の奥地か。


そして、そのフロアの奥に、俺の目を奪うものがあった。


「死体か?」


奴隷が奥のエリアで寝かされていた。

ここからでは生死は分からないが、


「ほう、デスワームは奴隷共を直ぐに食うわけではないようですな。この貯蔵室のような場所に貯める、という訳でしょうか」


そう言いながらバッカスが歩いていく。

俺達もそれに続くが、突如としてデスワーム達が俺達に道を開けるように左右の方に泳いでいき道を作った。


「私の圧に押されましたかな?イモムシ共」

「バッカス。もう少し慎重に進もう」

「何をビビっておられるのですか?マーズさん?もし襲われてもデスワーム如き我が剣技で蹴散らしましょう」


マーズの言葉を嘲笑う様にして、歩いていくバッカスだが。


違う。

これはあいつの圧に押されたとかではない。


その時ゴゴゴゴゴゴゴゴゴと俺達の下の地面が振動する。


「何か来る」


そう言った瞬間だった。


「ぎ、ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!」


バッカスの体は宙にあった。

魔法を使った訳では無い。


あいつは


「た、助けてくれ!!!」


地面から出てきた真っ赤で巨大なデスワームに噛みつかれて浮いていたのだ。


「う、ウギャァァァァァアァァァァァ!!!!!!!いだいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


その様子を見て固まるマーズに告げる。


「マーズたたみかけよう。チャンスだ」


バッカスが噛まれている、ということはデスワームの注意は俺たちからいくらから逸れていると考えていい。


ならこれは、紛れもないチャンスだ。


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