第11話

翌日も俺は剣を振った。

ピッケルを振っていたからか、かなりの回数振っても特に問題なく振り続けることが出来たが、


「やっぱ当てるときの感覚がかなり違うか」


ピッケルと剣では形が違うしインパクトのタイミングも違うようだ。

まずはそこの調整が必要なようだ。


それを示すように


「ワラすら満足に切れないか」


マーズに用意されたワラすら切れないでいた。

ピッケルはその形状の都合上剣よりも先に物に当たっていた。

だからそれと同じように剣を振ると


「癖って抜けないなほんとに」


俺の剣はワラに当たる直前でその勢いを完全に殺していた。


頭では剣を振っているのは理解出来ているのだが、体はピッケルを振るように剣を振るから、ちゃんと振り抜けないでいた。


(これから剣を振るのであればやはり振りぬけるように慣らしていかないとな)


そう認識をして俺は剣を振る。

とにかく振り抜くことから始めないとな。


そうして数時間練習をしてやっとピッケルの感覚が抜けてきた。

いつも剣を振る時は意識して振り向いてきたが、無意識に振り抜くという行為がここまで難しいとは思わなかったな。


「ふぅ、ワラも切れたしこんなところでいいか」


そう思って俺はマーズ達に声をかけに行く。


そうして別荘に帰ってきたのだが、別荘の門のところにバッカスが立っていた。


(なんでこんなところに?悪運の強さでここまで辿り着いたのか?)


そのバッカスが俺達に目を向けたが、それも一瞬でマーズに目を向けた。


あいつは俺達の顔も名前もなにひとつ覚えていない。

奴隷なんて星の数いるからだ。


「マーズさん。保護してくださってありがとうございます」

「崖崩れが生きのびてここまで這いずってくるなんて悪運の強い人だ」


どうやらあの後ゴキブリ並の生命力でここまで這いずって来たらしい。

そこを保護された、ということか。


「そりゃまぁ自分はインドラ帝国を背負って立つ者なので神も見放さないんですよ」


そう言って今度は俺たちに目を向けるバッカス。


「そちらの子供は?」

「買った奴隷だ」


どうやら買った、という事にしてくれるらしい。


「ほう。なるほど」


相変わらず俺達の顔を見ても何も思い出さないらしい。

まぁ、しかし今はその記憶力の悪さが助かる。


だが結局、孤児も格下と思っているらしく俺達のことを見下している視線をバッカスは隠し切れていない。


そんな様子で俺たちに挨拶してくるバッカス、


「よろしく頼むよ。私もこの村でしばらく世話になるから会うこともあるだろう、紋付?」


そう言ってバッカスは村の方に向かっていったのを見てマーズが口を開いた。


「あの男。顔すら覚えていないのだな」

「監視なんてそんなもんだよ」


俺はそう答えてマーズと一緒に別荘の中へと入っていく。



深夜。

俺は別荘の庭でひたすら剣を振った。


(今はとにかくこの剣を振る感覚を体に馴染ませる)


1,2,3,4,5,6,7,8,9。


回数を重ねていく。

何回も何十回も何百回も。


とにかく、振っていく。

剣を振り抜く。


それを意識して体に馴染ませる。

ピッケルとは違う感覚に手の皮がめくれているが気にせずに振り続ける。


こんなものどうせ治るのだから。


それよりも優先すべきことが、この感覚を身につけること、これが本当に最優先だと思えたからだ。


「……今日はこの辺りにするか」


俺はその場で軽く礼をしてその場を後にした。



日が登ったので起きて今日も庭で待っているとマーズが出てきた。


「朝は早いんだね。もしかして自主練してた?」

「うん。あの剣聖の人の剣技が忘れられなくて、俺も早くあんな風になりたいって」


今はまだまだだしあの人みたいに炎の剣なんて使えない。

でも気持ちじゃ負けないつもりだ。


「今日もよろしく」

「あぁ。ルゼルはまだ寝ているようだが先に始めようか」


そう言われて俺は先に始めることにした。

機能と同じようにワラを用意されて。


斬った。


パサリと落ちるワラを見てマーズが眉をひそめた。


「ど、どうかした?俺なんか間違えたかな?」

「いや、そういう事じゃなくて。もうピッケルの感覚が抜けたんだなって思って。分かるんだよねそういうの。完全に剣を振る時の動作になってたから」


そう言われて嬉しくなった。

自分の努力が練習が認められたようで。


「やっぱり筋はいいね。もうここまで振れるようになるなんて」


そう言って頷くマーズに聞いてみる。


「今日は何を教えてもらえるの?」

「そうだね。今日は魔法について、少し説明しようかな」


そう言ってマーズは右手の手のひらを上にして俺に見せてくる。


「いいかい?よく見てて欲しい」


俺が頷くと彼女は


「ファイアボール」


と呟いてその手のひらに火の玉を出してきた。

よく漫画とかゲームで見かけるあのファイアボールだった。


「おぉ……」


パチパチパチと拍手。

すごい!魔法なんて初めて見たや!


俺はずっとカースト最底辺の奴隷として過ごしてきたからこんなもの見た事がなかった。


「ははっ。ファイアボールでそんなに喜ばれるなんてね」


そう言って笑って今度は俺に教えてくれるマーズ。


「魔法はイメージが大事なんだ」

「そ、そうなの?」

「うん。火の玉を出すっていうイメージがね。で、そのイメージという作業が転生者と呼ばれる人達は得意みたいでね。多分クロノも得意だと思う」


と口にするマーズ。

そうしてそれ以上俺になにか言うことはなく、やってみてと言われたので俺は全身全霊で手のひらにファイアボールが出てくるのをイメージした。


すると、ポンという音と共にファイアボールが手のひらに出現した。


「で、できた!」

「やっぱり転生者は得意みたいだね魔法」


魔法が使えて喜ぶ俺を見て自分の事のように喜んでくれるマーズに礼を言う。


「大したことじゃないよ。それにここからだからね、大変なのは。次は手に持っている剣に炎をまとわせてみよう」


とそう言ってくるマーズに頷いて俺は前に剣聖に見せてもらった火をまとう剣をイメージしてみた。

燃え盛る剣。


「あ、あつっ!」


剣を落としてしまった。

その様子を見てふふふと笑うマーズ。


「初めはそんなものだよ。持ち手のところにも火を出してしまったようだね」


俺が頷くとマーズは説明してくれた。


「本当に刀身にだけ火がまとうようなイメージが大事なんだ」


そう告げられて俺は今度は慎重にイメージをしてみた。

するとボォォォォォっと、音が鳴って剣に火がまとわりついた。


「で、できた!」

「成長が早いね。流石転生者だ。でも残念ながらここまでが基礎魔法だからね。言わば出来て当たり前なんだ」

「そ、そうなんだ」


そんな会話をしていた時だった。


「失礼。マーズさん」


バッカスの声が聞こえたのは。

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