第4話 考えることは同じだが
「今日の採掘は中止だ」
雨が降った。
そのため今日の採掘は中止になる。
「雨天演習を行う」
バッカスはそう言って俺達に別のことをやらせる。
雨が降ったから休みとはならないのが奴隷である。
剣とレインコートを手に取る。
正直雨の日は嫌いだ。
これなら鉱石採掘の方が万倍マシだ。
「はぁ、はぁ、」
息を荒らげながら山の中を走り回る。
雨のせいでぬかるんだ地面に足を取られそうになりながらも走る。
「ギイィィィィィィィィ!!!!!!」
横の茂みから飛び出してきたゴブリンとの戦闘が始まる。
「フッ!」
ゴブリンを斬り殺す。
初めは人と同じ形をしたものを斬り殺すのに、それどころか攻撃することにすら抵抗があったが、今では随分と慣れたものだ。
「チンたらすんなよ!紋付!!もっと走り回ってモンスターを倒せよ!」
俺と行動していたディーノが口を開いた。
この演習は四人一組になって行われる。
俺と組むのはディーノとその取り巻きの二人だった。
悲しい話だがいつものメンバーと呼べるほどになっていた。
「ゲハハハ。昨日の今日でまたお前と組めるなんてな?!!お前も嬉しいだろ?!親友の俺様と二日連続で会えてな!」
最悪だ。
しかし口に出せば殴られるので俺は今日もディーノと共に走ってモンスターを倒す。
この演習ではモンスターを倒したら倒した分だけポイントがもらえ、そのポイントで奴隷をやめたりすることができるが、そこまで溜める間に大体の人間は死ぬ。
現実的では無いため、そのポイントで食事を買ったりする奴が大半だ。
ちなみに俺のポイントの使い道はディーノに貢ぐことだった。
そのためディーノだけは奴隷をやめることが現実的だったりする。
「俺のために走り回れよクロノー。嬉しいよな俺の役に立てて」
そう急かされて俺はどんどんとモンスターを倒していく。
ディーノと2日連続で顔を合わせることになるなんて最悪だ。
声には出さないが内心でそう思いながらどんどんモンスターを撃破していく。
あと6日。
6日でこの生活が終わると思えば自然と頑張れる。
「はぁ……はぁ……」
「頑張ったじゃねぇかよ紋付。とりあえずのノルマは達成だな。その横穴でサボろうや」
取り巻きとディーノは横穴に向かっていった。
「何してんだよ紋付。お前も来いよ」
「ポイントを稼ごうかなって」
俺がここまで稼いだポイントは全てディーノに渡すことになっている。
だから追加で自分のためのポイントを稼ぎたかったのだが。
「休ませてやるってのが聞こえなかったかよ?紋付」
「……」
無言で拳を握りしめた。
ここで、揉め事を起こすのは得策ではない、か。
残り6日だ。それでこいつとおさらばできるんだからそれまで俺が我慢しておけばいいだけの話。
6日立てばもう会うことはなくなるんだから。
「はい」
頷いてディーノの待つ横穴に入ると
「おいおい、紋付」
ディーノが話しかけてくる。
下手に俺から口を開くと何を言われるか分からないし続きの言葉を待つことにする。
「バッカスの野郎がこの前話していたんだが六日後に俺達の移送があるんだってな」
な、何でその話を?
こいつが知ってる。
「バッカスの野郎が口にしてたんだよ。俺達を新たな採掘場に移送するってさ。紋付のお前は知らんだろうがな」
ディーノの次の言葉を待つ。
「それでよ。俺らはその時にどこかのタイミングで逃げ出そうと思ってる」
考えることは同じらしい。
でも、マーズからの詳しい話は聞かされていないことはこの会話で分かった。
当日の詳細は俺だけが知っている。
「そこでお前当日は暴れてバッカス含む監視の目を欺いてくれよ。その間に俺達は悠々と逃走するわ」
俺を見下しながらそう言ってくるディーノ。
「せいぜい怯えながら監視の目を引き付けてくれや。紋付君?お前に出来ることなんてせいぜいその程度、だもんな?」
「俺はどうすれば?」
俺の計画に勘づかれても面倒だ。
適当に話を合わせておこう。
一番最悪なのが俺も脱走することを悟られてバッカスに告げ口される、というパターン。
それだけは避けなくてはならない。
「そうだなぁ。それはお前が考えておいてくれや。適当に監視の目を引きつける方法を考えておけ」
頷いた。
とりあえず表面上は従うフリをしよう。
それにしても楽しみだな。
こいつが俺の裏切りに気付かないまま、自分たちだけ取り残される姿が。
今までの仕返しをたっぷりとしてやろう。
「と、言うわけだ。当日は俺のために死んでくれよな紋付君」
マヌケが。
死ぬのはお前だよ、と心の中で思いながら頷いた。
俺の企みに気付かないで、取り巻き達もクスクスと笑っていた。
「ありがたく思えよ?紋付。ここの奴隷の中で最強のディーノ様のお役に立てるなんて光栄なことだぞ?」
一般奴隷にすらこうやって下に見られるのが紋付、という存在だ。
でもこいつらはそのバカにしている紋付に全ての計画をご破算にされる。
それを俺だけが知っていた。
横穴の外に目をやる。
まだ雨は降っていたが
「紋付。そろそろ行くぞ」
ウキウキのディーノにそう言われ俺は立ち上がり横穴を出る。
そのままディーノを先頭に雨の降る中俺達は山を降りて行った。
◇
数日が経過して、その日の仕事を終えた俺達奴隷は男女含めて同じ場所に呼び出されていた。
こうやって男女一緒に呼び出されるのは珍しい。
というより、本当に初めてのことじゃないかなって思うくらいだ。
呼び出したバッカスが俺達奴隷全員の視線を受けながら大声で叫ぶ。
「薄汚い貴様らに連絡がある。これより数日後、貴様らの移送が行われる」
と、俺はあらかじめ知っていたことをバッカスの口から聞いた。
そうして説明をしていくバッカス。
知っていた内容なのであくびをしていると隣にいたルゼルがつついてきて、小声で話しかけてくる。
「ほんとうだったんだね。あの話」
ルゼルにはこれからの事を話してあるから知っている。
やがてバッカスの話は終わり解散を指示された。
その時誰かに見られてる気がして、視線を感じる方に目をやると、ディーノが俺を見てニヤッと口を歪めていた。
ちゃんとやれよな?と目線で訴えてきているのだろうか。
そう思っていたら近付いてきてルゼルに目をやったディーノ。
「可愛い子連れてるな紋付のくせに」
「紋付って呼ばないで」
ディーノの言葉に返すルゼル。
俺が明らかな蔑称で呼ばれて怒ってくれているらしい。
「同じ奴隷なんだから奴隷紋があってもなくても変わらないよ」
「はっ、そうかな?紋付はしょせん紋付だぜ?」
鼻で笑ってディーノは俺を殴り付ける。
いきなりの事でその場に尻餅をついた。
「ほら、紋付なんてこんなにも弱いんだぜ?」
「ひ、卑怯者……」
ルゼルの握りしめた拳が僅かに震えていた。
俺のために怒っているらしいが、
「やめてくれ、ルゼル」
「で、でも」
そう言ってくるルゼルを見てディーノは笑った。
「ははは、紋付が一番分かってるみてぇだぜ?自分は使えない紋付だっていうことをさぁ?」
笑って去っていったディーノ。
それを見送ってから俺も立ち上がると帰ることにする。
「ちょ、ちょっと……いいの?あんなに言わせて」
「どうせあと少しであいつとは一生会わなくなるんだ。我慢するさ。だからルゼルも余計な事はしないでくれ」
「う、うん……」
納得していなさそうなルゼルだが、納得してもらうしかない。
言わせておけばいいさ。
最後に盛大に裏切るのは俺なんだから。
それを考えたらあの程度の言動気にならないどころか気の毒になるくらいだ。
それにしてもどうやって裏切ってやろうか。
襲撃ポイントに入ったら大声でバッカスにディーノの計画のことでも教えてやろうか。
それで余計に状況を混乱させてやる、それも面白そうだ。
当日が今から楽しみだ。
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