第4話 デスゲームに巻き込まれました。
「...............。」
「...............。」
両者、沈黙。……完全なる静寂である。空調の風の音が静かな部屋の中に響く。
アキバがゆっくりと口を開く。
「な、なあ今のって......」
「システム起動。これより、この室内にいる2名をプレイヤーと認定し、デスゲームを開始します」
アキバが質問を言い終わる前に、単調な合成音が彼女の代わりに答えを返した。
ウィーーン、という音と共に天井から降りてきたアームがアキバと女に首輪をつける。ガチャン!という金属音が、この首輪がちょっとやそっとじゃ取れない代物であることを物語る。
「あ、あの…えっ…とこれって……?」
俺が彼女に話しかけようとした瞬間、ヴン!という音とともに、部屋の前方のモニターがパッと明るくなった。モニターには、遊園地にいそうな小柄なマスコットキャラクターが映っている。
キャラクターが喋り出した。
「こんにちは~!今日は来てくれてありがとう!それじゃあ、これからデスゲームを始めるよ!」
キャラクターは、わざとらしいほど、明るい声で話している。だが、この声に安心感どころか、どこか不気味な感覚を覚えるのは、この部屋の空気のせいだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると、画面のキャラクターが再び話し出した。
「さあ、それじゃあルールを説明するよ。ルールは簡単!これから出題するクイズに、1から4の4択で答えるだけ!」
な、なんだ、ただのクイズか。よかった……やっぱりデスゲームでもなんでもないじゃないか。ビビって損した。
アキバはとりあえず、現実逃避をした。
そうだよ!これからやるのは単なるクイズだ。さっき「デスゲーム」みたいな単語が聞こえたけど、気のせいだな。うん、キノセイキノセイ。
アキバは薄々この現状に勘づきながらも、必死に現実から目を逸らす。アキバは自分の勘の良さを恨んだ。
そんなアキバの心の葛藤を知らずに、キャラクターは話し続ける。
「解答は、部屋の中央にある2つの台の4つのボタンで行ってね。ちなみに、プレイヤー1は『1』の台、プレイヤー2は『2』の台で解答してね!」
「プレイヤー1?プレイヤー2?そんなのどこでわかるんだ?」
俺が独り言をつぶやくと、
「首輪よ。首輪の横に書いているわ。ちなみに私が1、あなたが2ね。」
と、彼女が答えた。俺は彼女の声に振り返った後、彼女の顔に向いていた視線を下に下げ、首のあたりを見た。本当だ。彼女の首輪に、大きく「1」の字が書かれている。
「クイズに正解できればオッケー!次の問題に進むよ!でも、不正解だと、そのプレイヤーの首輪はドッカーン!ズゴゴゴ.......になるから気をつけてね。このルールで、プレイヤーが残り1人になるまでクイズを行うよ。」
キャラクターは、爆発の効果音のところをやけに磨きがかかった、鬼気迫る声で表現した。
え。ドッカーン!ズゴゴゴ……って?え?もしかしてバ、バクハツってこと?あ、あれ?クイズするだけじゃないの?
あ、いや多分あれだな。間違った時の効果音だな。よくブブーッ、って鳴るやつ。へ、へぇ~最近のクイズの効果音は変わってんのな。
アキバが心の中で、超早口で自分自身を無理やり納得させる理由を言い聞かせているのとは裏腹に、キャラクターは相も変わらず元気はつらつな声で説明を続ける。
「ちなみに、プレイヤーが2人とも不正解だった場合、2人とも爆発するよ。あ、あと、プレイヤー同士の相談はオッケー!それに、部屋の中にいれば、プレイヤーは自由に動いて大丈夫だよ。ただし、部屋の外に出ると、問答無用で2人とも爆発するよ!首輪を無理に外そうとしたり、首輪を破壊しようとして強い衝撃を加えてもダメだからね!」
あっ……ハッキリと言われちゃった。「爆発」って……いまハッキリと聞こえた……。ああ、そんな……。じゃ、じゃあやっぱりこの首輪、単なるオシャレなんかじゃなくて、モノホンの爆弾か……。
今までの必死の現実逃避の甲斐もなく、アキバは首に爆弾を括り付けられ、今まさに自分が「プレイヤー」としてデスゲームの真っ只中にいるという、どうしようもない状況を理解せざるを得なかった。
ああ、そんなぁ……まさか俺がデスゲームするなんて……俺、デスゲームのスタッフとしてここにきたのに……。
アキバは、酒に酔った勢いでこのバイトを引き受けてしまったことを今更ながらに後悔した。
……ん?ちょっと待てよ?今、「爆発」の言葉に注意してたからあんまり気にしてなかったけど、変なこと言ってなかったか?
マスコットの説明が一区切りしたところで、俺は説明の中で一つ引っかかることを口にした。
「なあ、相談していいって……それじゃあ2人が協力してもいいってこと?それってゲームとして成り立つのか?今回のデスゲームは勝ち残りを決めるんだろ?」
俺が首を傾げていると、彼女が俺に振り向いて、
「普通のゲームなら成立しないわ。ただし、デスゲームとしてなら成り立つ。」
と説明した。
「どう言うことだ?」
彼女は続けて話す。
「このデスゲームの肝は、いくら2人で協力してクイズに正解したところで、デスゲームは終わらない、ということよ。このゲームのプレイヤーの勝利条件はクイズに正解することではなく、いかに相手を蹴落として自分だけが生き残るか。相手にデマを流したり、一緒の答えを選ぶふりをして自分だけ抜け駆けしたり、ひいては相手をぶん殴って気絶させて、ボタンを押させない、もしくはあえて相手側の台で不正解のボタンを自分で押す……。あらゆる手段を利用して相手を陥れることが必要になってくる。そしてこの運営は、その人が足を引っ張り合う様子をモニターして、娯楽として提供しているのよ。」
彼女は部屋の四隅の角のモニターを指差す。
「それらの駆け引きを行わせるためのルール。それ故にあえてこんなガバガバなルールにしてるんでしょうね。」
「なんというか……えげつないな……」
「そりゃそうでしょ。デスゲームなんだもん。」
そうだった。これ、デスゲームだった。……でも、他人の口から改めてその事実を聞くと、やっぱりショックだなぁ……。
もしかしたら自分の聞き間違いかも、という僅かな可能性すら握りつぶされたアキバは、その心のうちの絶望感をさらに高めた。
「よし!ゲームのセッティング完了!それじゃあ、ルール説明も終わったし、デスゲームをはっじめるよ~!」
さっきまで黙り込んでいたキャラクターが喋り出した。
ああ、いよいよ本当に始まってしまうのか……。アキバはまだ受け入れ難いこの状況への困惑の気持ちと、不安と、焦りと絶望がごちゃごちゃになった複雑な心境で、デスゲームに挑んだ。
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