第5話 そうだ、管理者権限を使おう!

「よし!ゲームのセッティング完了!それじゃあ、ルール説明も終わったし、デスゲームをはっじめるよ~!」

さっきまで黙り込んでいたマスコットが喋り出した。


「……な、なあ、これまずいんじゃないのか?このままじゃ俺たち……」

俺は焦りのあまり彼女に話しかけた。……というか、コイツなんかやけに落ち着いてないか?とてもこれからデスゲームに巻き込まれる者の顔に見えない。やけに余裕げな顔だ。もしかして、この状況を打破できる策があるのか!?

「まあまあ、落ち着きなさい。」

ゆったりとした声で、彼女は言う。

「大丈夫よ。そんな心配しないで。」

「で、でも……」

デデン!というやっすい効果音がモニターから鳴る。

「それじゃあ、第1問!」

しまった!始まってしまった!……くそっ!こうなったらとにかく問題文を聞かないと!

「たかしくんは、おやつを買うために、汗の滲む手で500円を握りしめ、コンビニにいきました。」

「あ、汗の滲む手?」

問題文がちょっと癖があるな……。

「そしてコンビニにて、たかしくんは悩みに悩んだ末、断腸の思いでチョコレートを諦め、クッキーを選びました。さて、チョコレートが150円、クッキーが230円の時、レジに佇んでいるコンビニバイト歴5年の長谷川さんの心情として、最も適切なものは、次のうちどれ?

1、「5年前に不景気で会社をリストラになって以来、ずっとこのコンビニバイトかぁ……ああ、仕事は一向に見つかんないし、家賃も滞納してるし、このままじゃ電気も止められちまう……。ああ、俺は一体どうすれば……」

という絶望の気持ち。

2、「コンビニバイトを週5で5時間やっても月収は20万たらず。この後のピザ配達のバイトの収入を足しても、借金のせいで手元に残る金は10万もない……。そっから家賃と水道代と光熱費引いたら……。今月のご飯も、うまい棒3本かな……。」

という金欠を嘆く、真っ暗な気持ち。

3、「この間はおでんをお客さんにぶちまけちまってお客さんと店長に怒鳴られるわ、年下の高校生のバイトどもに笑われるわ、もう散々だ……。ああ、ここもそろそろクビかなぁ……新しいバイト探さないと……」

というバイト先でもいいことがなく、職を失いかけている己の現状に絶望している気持ち。

4、「もう俺も歳だな。若い頃はこんなバイトぐらいじゃへばりもしなかったのに。今じゃ足腰は湿布だらけ、もう体もボロボロだ。ああ、学生時代はそこそこたのしかったのにな……俺ってどこで道を間違えたんだろう……」

と、過去といまとのギャップに打ち痺れ、塞ぎ込んでいる気持ち。

さあ、どれでしょう?」


「......重っ。」

何この選択肢。全部暗いんだけど....。というかたかしくん関係ないじゃん。あの最初の説明なんだったんだよ。

「さあ、制限時間は20分!頑張って考えてねー。」

と言い放つと、キャラクターは黙り込んだ。

「冗談じゃない。こんな理不尽な問題、解けるわけないじゃん!……」

俺ががっくりと項垂れていると、彼女が自信に満ち溢れているような声で俺に語りかけた。

「大丈夫よ。なんとかなるっていったでしょ。」

「そういったって……」

「問題ないわ。あんなゴミ問題、解く必要もない。運営はこう言う時のための対策をちゃんと用意してあるわ。ほら、IDカードを出しなさい。」

「IDカード?なんだそれ?」

「なんだそれって……ほら、配られたでしょ?この島に来た一番最初の時に。」

ああ、そういえばそんなカードを施設に入ってすぐにもらったな。両面が黒色で塗装されていて、表面に『ID CARD FOR STAFF 』って書いてある、クレジットカードぐらいの大きさのカードだ。

「でも、それがどうしたんだよ?」

「それをこの首輪に差し込めば、すぐに首輪が外れて、デスゲームも強制終了させることができるわ。」

「なるほど、デスゲームの管理員専用のカードってわけか。便利なカードだな。」

「そうよ。だからさっさと出しなさいって。」

彼女は俺に手を出し、さっさとカード出せ、と催促する。

「持ってないぞ。」

「……………え?」

「だから、持ってないって」

「え?なんで?貰わなかったの?」

彼女は目を丸くして尋ねた。

「いや、貰った。だけど、ホールに行く前に自分のロッカーに置いてきた」

「な、なんでそんなことしたの!」

彼女は大声で尋ねてきた。

「いや、渡された時に『何がなんでも絶対に無くすな!』って言われたから財布に入れたんだよ。で、その財布ごとロッカーに入れちゃってさ。」

俺が事実を話していくうちに、みるみる彼女の顔は青ざめていった。

「で、でも先輩もいるし、今日初仕事でどうせ研修だし、ま、いっか!って思ってさ……いや、すまん!」

そこまで聞くと、彼女はがっくりと膝を落とした。

「ああ、嘘でしょ……。」

「で、でもお前のカード使えばいいじゃん!俺も忘れたのは悪かった。すまん!だが、とりあえずはそうしようぜ!」

「………ナイ」

「え?」

あまりにもか細い声で聞き取れず、俺はもう一度聞き返した。

「なんて?」

「持ってない、私も………私も持ってないのよ……」

彼女の顔からはすっかり血の気がひいていた。

「え?じゃ、じゃあ、まさか………。」

俺の顔からもサッと血の気がひいていくのがわかる。俺は、彼女の言葉を、今この身に起きている事実を、聞きたくなかった。だが、彼女は口を開き、

「………そう、デスゲームは終了できない。私たちは、この問題を解かないと首が吹っ飛んで死んじゃう……」

と、言い放った。



………オウ、ノウ…………。

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