第3話 逃げるんだよぉ!

突然現れた、小柄な、短髪の女性。彼女に手を引かれたまま、俺たちはホールから出て、廊下を走っている。

「どこへ行くんだよ!」

「黙ってついてきて!」

廊下は、俺たちと同じようにホールから逃げてきた大勢の黒服で騒がしくなっていた。

「急げ!早く応援を呼ぶんだ!」

「港、港に駆け込め!ボートで逃げるんだ!」

「落ち着け!冷静に対処しろ!」

「うわぁぁぁっ!」

悲鳴や仲間に呼びかける声、怯える声で音が錯綜している中、彼女は他の黒服たちを押し退けながら、黒服たちの流れとは真逆に走っていく。

「なんでこっち行くんだよ!みんな真逆の方向行ってるぞ!?」

俺は息切れした声で彼女に呼びかける。

「あっちは港とか、司令室がある『#御弁棟__おべんとう__#』よ!」

「じゃあそっちに行ったほうがいいじゃん!」

俺は彼女の手を逆にグイッと引き寄せようとする。だが、彼女は頑なに俺を引っ張った。

「バカね!そんないかにも逃げ出しそうなところはもう包囲され始めてるに決まってるでしょ!もっと頭使いなさいよ!」

#包囲され始めてる__・__#?一体どういうことだ?

「敵はホールにいるアイツらだけだろ!?」

「違う!多分、アイツらは一部隊にすぎない!アイツらは囮よ!」

「どういうことだ?」

「とにかく、こっちきて!」

彼女はそういうと、より一層俺を引っ張る力を強めて、走り出す。状況がイマイチ飲み込めていない俺は彼女に引っ張られたまま、もたもたと走ることしかできなかった。






「……ここなら、大丈夫ね」

彼女はようやく足を止め、周りを見回す。辺りには誰もいない。さっきとは打って変わってしん、と静まり返っている。

「追手もいないみたいね。ここにしましょう」

そういうと、彼女は近くにあった自動ドアのロックを素早く解除し、ドアを開けて中に入った。俺も彼女に続いて部屋の中に入って行った。

部屋は学校の教室ほどの広さで、床と壁は不気味なほど白い。部屋には中央に2つの腰の高さほどの台があるだけで、それ以外には、中央の台から見て正面方向に壁に据付されているモニターがあるだけだ。

「なんか、こう……単調な部屋だ……ですね」

さっきは焦ってタメ口で話しかけてしまったが、初対面の人に対して失礼だったな……

などとアキバが思っていると、

「敬語じゃなくていいわ」

と彼女が話しかけてきた。……なんか、気にして損した。っと、そんなことを気にしている場合ではない。俺は彼女に一番気になっていることを質問した。

「何カップですか?」

「……死にたいのね」

懐から銃を取り出し、俺に向けた。その目はまるで生ゴミを見る目である。

「じょうだんですすいませんでした」

俺は咄嗟に両手を上げて、早口で命乞いをした。

「…………次はないわよ」

彼女は銃をゆっくりと下ろした。………しまった、つい緊張で本当に気になっていた方の質問が出てしまった。

いや、今聞くべきはそれじゃない。俺は咳払いをして、もう一度銃をしまっている彼女に問いかける。

「で、ここは一体どこなんだ?」

「ここはデスゲームルーム棟の、第18デスゲーム室よ」

ううむ……ここの島の構造が全くわからないのでピンと来ない。だが、これだけはわかる。

「ってことはここ、デスゲームをするとこなんだよな?そんなとこに入って大丈夫なのか?」

彼女は余裕の表情で答える。

「大丈夫よ。指定のスイッチさえ押さなければ装置は起動しないわ」

「そ、そうか……。なあ、もう1つ聞いていいか?」

「なに?」

俺は、もう一つ、心の中で引っかかっていることを聞いた。

「なんで俺を助けたんだ?」

そう、この女にとって俺を助けるメリットなどどこにもないのだ。それなのに、一体なぜ……?

「......別に何か見返りを求めているわけじゃないわ。ただ、なんとなく助けようと思っただけ」

......ぽつりぽつりと、自分の発言を確かめるように話す彼女の言葉に少し違和感を覚えた。だけど、そんなことは気にしていられないので、心の中で無理矢理納得させた。

「そんなことより、さっさといくわよ」彼女は部屋の奥に向かって歩き出そうと、足を一歩出した。

「この部屋の先に......」

カチッ☆、と軽快な音と共に#何かのスイッチ__・__#が踏まれたような音がした。

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