3

大きなぼた雪がどんどんと降りつもる中、外を歩いているのは私だけだ。

学校から駅までの道を、足を滑らせないようにしっかりと踏みしめて歩く。

その間も静かに、しかし確実に積もっていく雪に辟易として思わず天を仰いだ。

眼前に広がるのは灰色の空で、確認するまでもなく目に雪の塊が落ちてくるためすぐに足元へと目線を戻した。


どんよりと鈍い色をしていた空から明るさが去り、道に沿って建つ街灯がオレンジに灯る頃には雪で全身が真っ白になっていた。

雪の勢いは止まることを知らないようで視界は最悪だ。

足場の悪さに比例して息遣いが荒くなる。

口から吐き出された蒸気は氷点下の世界で、水から氷へと姿を変え私のまつげに溜まっていった。

ずいぶんと歩いた。

しかし一向に駅が現れずやきもきとする。

思わず目の前のカーテンのような雪の連なりを手でかき分けた。

手に当たってぱらぱらと地面に落ちた白い塊はその分、目線の高さに空間を作り見通しを良くしてくれた。


時間が止まっている。


世界を埋め尽くしていた雪が、私の体にぶつかる度に地面に落ち新しい空間を作り出していく。

真っ白になっていたコートもいつの間にか元の黒に戻っており、刺すような気温も凪いだものになっていた。

白に埋め尽くされた世界を進むと小さな背中が見えた。


国後。


黒い彼女の背を見つけたとたんに空中に留まっていた雪が落ち始め時間が動き出したことに気づいた。


声をかけないと。


そう思ったのは何も不自然なことではない。

街灯が灯っているとは言え、夜の雪道。

女の子が一人で立止まっていて安全とは言い切れない状況だった。


「国後」


まだまだ離れた場所にいたが思わず声をかけた。

しかし彼女には届かなかったようで尚も佇んでいる。


「国後」


雪の落ちるスピードが速まり、彼女の背がより一層見えなくなっていく。

視界を遮られる中、かろうじて姿を捉えつづけている状態だった。

しかしとうとう、雪が膝の上まで積もってしまいこれ以上彼女に近づくことが出来なくなってしまった。


「国後」


最後にもう一度声をかけてみるも、彼女が振り向くことは無かった。

そしてはたと、この雪のカーテンは彼女を隠しているのではないかと思い至った。

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