第6話 夜景に浮かぶゆりかご
地下ドックで銃を構えていたあの日からもう1週間が経ったが、何も変わっていない。生活はいつも通り、月終わりに更新されるシフト通りに現場を転々とするルーティンだった。
ロシアとの取引は、、あのおっちゃんと話したこの会社のビジネスの事は。。
心のどこかには残っていたが、普段と変わらない毎日に上書きされて、次第に熱意が失せて行った。漠然とした興味は、それを覆う無力感に鎮められたようだ。僕がなにかアクションしたところで、僕の周囲に軽い波紋が広がってやがて僕の方が波に呑まれる。自分の感情ベースで行動を起こしたその瞬間から、もう誰も僕を放っておいてはくれなくなる。
そうなれば、この凪な時間も落ち着いてはいられなくなる。今はマイルーム。深緑のラグの上に座り込んで、スコッチをちびちびと飲んでいた。21時に帰宅してから今日はもうタスクがない。明日の現場は午後からなので、その時までこのゆりかごから出るつもりはない。
音楽プレイヤーを手にとってメニューを開く。すると、過去の青春を乗せたタイトルがいっぱい並んでいる。メドレーは嫌いだから一曲を選ばなきゃいけない。とりあえず凪な気持ちを取り乱さない曲を選びたい。
スコッチでのどを焼いていると、身体の芯から暖まってきた。なんとなくカーソル上で止まった所で再生を押した。
T.a.T.uのAll The Things She Said
懐かしい。。ちょっと凪ではないけど。
夕方を思わせるメロディが感傷に満ちた少年時代へと引き込む。この曲を初めて聞いた時の心情がそのまま還ってくる。
窓の外には、いつも変わらないリズムでネオンを放つガラスの街が見える。綺麗すぎるこの街は、この曲とはマッチしない感じがあるけど、ラグに囲まれたこの空間は彼女たちの歌声で染まりきっていた。
この街と「ここ」は違うのだ。自分とこの街との距離が、そのとき明確に可視化されたような気がした。
その時、窓際の机の上には職場から貸与されたハンドガンがあった。金色の弾丸は本体から抜き取られて、デスク上に散乱していた。この仕事は嫌いじゃないんだ。ただ、、、
このままで、ずっと生きていけるんだろうか。。
思春期の頃の感情に引き戻されていた僕はふと我に返り、漠然とした不安を無視しながら生き続けようとする今の自分の姿を浮き彫りにした。
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