第5話 決闘

闘技場では既に多くの人が集まっていた。

噂の広まりは恐ろしく早く、入試最下位と首席が戦うのだ、結果は火を見るよりも明らかかもしれないが、首席であるグランの強さを見るために来ているものが多い。


アリサ「…ではこれより、グラン·デストリカ対レイブ·エンポリオの決闘を行います。二人共、準備はよろしいですね。」

レイブ「はい!」

グラン「問題ありません。」

アリサ「では、双方。構えて!」


レイブは背中に携えた剣を構える。

対してグランは腰を落とし左手で拳をつくり腰のあたりに置き、右手を少し開いて胸の高さまで上げてる独特の構えだ。


レイブ「君…武器は?」

グラン「俺は武器は使わない主義だ。」

レイブ「そう…」チャキ


当然殺人は許可されていないが、基本的に決闘は武器は自由である。

しかし、これまで剣術や槍術などをやったことのないグランにとってそれは不要のものである。


観客席

ヘレン(レイブ…)


ヘレン·ワーグナー

彼女は俗に言う幼馴染ポジションのヒロインである。

レイブは彼女の使用人の子だった。

それ故に幼い頃から互いを知っている。

無属性の烙印を押された日、彼は言った。


レイブ『僕、強くなるよ!ヘレンを守れる強い人になるよ!』

ヘレン『うん!』


幼い頃に交わした約束、そのために彼が頑張ってきたのだ。

だから彼女は祈る。彼の努力が報われることを。


ユーナ「どう思いますか?」


横からそんなにか話が聞こえてきて横を見るとリーク達が座って観戦していた。

対戦相手のグランの知り合いという事で聞き耳を立てる。


リーク「さあな、セリア姫はどう思ってるんだ?」

セリア「セリアで結構ですよ。一つ言うと、絶対に彼には勝てませんよ。レイブさんの事はよく知りませんが、それだけは確かです。」


淡々と彼女は言った。

それを聞いてヘレンは声を荒げる。


ヘレン「なんでそんなことわかるのよ!!」


しかし、相手が王族であったので彼女は直ぐに口に手を当てる。


セリア「…あなたは?」

ヘレン「へ、ヘレンです。すみませんいきなり。」

セリア「いえ、こちらこそ。彼の知り合いなのですね。失礼しました。」

ヘレン「いえ…私も大声出して申し訳ありません、殿下。」

セリア「気にしないでください。…あなたはレイブさんが勝てると思っていますか?」

ヘレン「それは、やってみないとわからないじゃないですか!」


セリアは「ふむ」と顎に指を置く。


セリア「彼は無属性でしたね。なら、尚更彼には勝てませんよ。」

ヘレン「ぞ、属性が全てだって言いたいんですか!!無属性だからって!」

セリア「だからこそですよ。彼も同じ無属性だからわかるんです。グラン君には絶対に勝てない。」


そう言って、戦いに目を向ける。


武舞台

レイブ(この人、まったく隙がない!)

グラン「…」


グランとレイブは互いに睨み合っていた。

レイブは隙を伺っているが、グランは全く隙を見せない。


レイブ(しかも、この威圧感!攻撃に…踏み出せない!)

グラン「…来ないなら、俺から行くぞ!」


グランは一気にレイブとの距離を詰める。


レイブ(速い!!)

レイブも剣を振り降ろすが。


グラン「遅い!!」ドゴォ!

レイブ「グオぇ!!」

グランのボディーブローが刺さる。


レイブ(避けるのでも防ぐのでもなく、剣を振り下ろすより速く攻撃を!?)


グランは攻撃の手を緩めない。

更に顔を蹴り上げ、頭を掴み武舞台に叩きつける。


グラン「どうした。俺に挑んでおきながらそれが全力か?」

レイブ「クソ!はぁぁぁぁ!!」


レイブは身体強化でなんとか抜け出す。

そして剣に魔力を込める。


レイブ「魔斬衝まざんしょう!」

斬撃がグランに迫ってくる。


レイブ「どうだ!!」


リーク(魔力を剣に纏わせて、撃ち出すか。グランの龍拳や俺の雷虎討拳に似た技か…だが。)


斬撃はグランより少し離れた場所で散る。


レイブ「え?そんな、距離が遠い?いや、ここなら射程範囲内の筈…」


ヘレン「な、何が?結界術でも貼っていた?」

セリア「そんな大層な事はしていませんよ。単純にグラン君の体から出ている魔力が壁となってかき消しただけです。そもそも魔力量から圧倒的に差がありすぎます。それを超えないことには彼にはそもそも攻撃が当たりません。」


レイブ「くっ!」


攻撃がかき消されたが、諦めず何発も撃っていくが、全てグランに当たる前に消えていく。

痺れを切らしたグランが言う。


グラン「もう少しぐらいできるのかと思ったが、少し残念だよ。あんまり時間をかけるのは良くないし、終わらせるか…」シュン

レイブ「な、何を。」


そう言ってグランの姿が消えた瞬間、レイブは気絶し倒れた。

体には無数の拳を叩き込まれた跡があった。

それを見てアリサはレイブに脈があるかを確認する。


アリサ「生きていますね。勝者!グラン·デストリカ!」


パチパチパチパチ

会場にセリアの拍手だけが響く。

他の観客は何が起こったのか理解できず、ただ唖然とするだけだった。

リークは既に興味がなかったのか、ユーナを連れて帰っていた。


ヘレン「何が、起こったの?なにかの魔法?」

セリア「いいえ、彼はこの戦いで魔法は使っていませんよ。ただ、ほんの少し本気を出して殴っただけです。」


この場でグランが何をしたのか理解できたのは。同等の実力を持つリーク、グランとリークを鍛えた師であるルティファとアリサ、数年だがグランと修行したセリアとリークの傍らで強くなったユーナもギリギリだがグランの姿を捉えていた。

彼はただ猛スピードで接近し、超高速ラッシュを叩き込んだだけである。

ここまでの動作は全てグランの純粋な身体能力だけで起こったことだ。

レイブは担架で医務室まで運ばれる。

それを見届けたグランは武舞台を後にする、


グラン「待ってたのか。」

セリア「一緒に帰りたかったですから。」

グラン「リーク達は?」

セリア「先に帰ってしまいました。それよりどうだったんですか?」

グラン「どうとは?」

セリア「彼ですよ。同じ無属性として何か思うことはあったのかと。」

グラン「まあ、弱いとしか言えないな。ただ、ここから彼がどうするかは俺もわからない。このまま落ちぶれていくか、ここから強くなっていくかどちらかだろ。俺だって強くなってここまで来たんだ。同じ無属性のあいつもできないわけじゃない。」

セリア「何か期待しているような口ぶりですね。」

グラン「そうか?まあ、帰ろうや。腹減ったし。」

グラン(主人公君よ、最初が弱いのは当然だ。勇者になる人間はそっから逆境を超えるんだろ?頑張ってくれよ。一応これはお前の物語なんだから。)


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はい、お久しぶりです。

まず一言、コロナでした。

ここ数日、かなり咳や熱で苦しんでおりました。

大分マシになってきたのですが、まだペースはかなり遅くなりそうです。

本当に申し訳ない。

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