第3話 壁との距離
時間は進んで、半成人式。
リーク(グランの奴、3年前より更に力をつけていやがる。クソ!このままでは…)
ユーナ「あ、あのリーク様…」
リーク「…なんだ。」
ユーナ「先程の方々はどなたでしょうか。」
リーク「…俺の知り合いだ、これから貴様とも付き合いがあるだろうから顔と名前を覚えておけ。」
ユーナ「はい、わかりました…」
リーク(相変わらず何を考えているのかわからん女だ。気持ち悪い。)
リークはユーナが苦手だった。婚約者である以上彼女の事を嫌いになるわけにはいかない。
しかし、語尾は聴こえづらい、常に俯いていて何を考えているのか分からない彼女はリークからしたら不気味でしょうがなかった。それ故に心ない言葉をかけてしまうのだ。
グランがナルタと戦っている間、彼は会場の魔物の駆除に徹していた。
そして、グランは魔力活性状態になったとき、彼もそれを感じていた。
リーク(なんだ!?グランの力が急激に高まった!?なんだ!奴に何が起こった!)
事件の後、事の顛末を聞いたリークは表情には出さなかったが血が出るほど拳を握りしめていた。
リーク(魔力活性に目覚め、魔人を倒しただと!?また、この俺との距離を離しやがって!!くそぉぉぉぉ!!)
これが切っ掛けで彼は普段の修行でも焦りが出始めていた。
アリサ「今日はここまでとしましょう。お疲れ様です。」
リーク「ま、待て!!俺はまだできる!続けるぞ!」
アリサ「いけません。これ以上は体を壊します!」
リーク「そんなことは無い!奴に追いつくには今以上にやらなければならないんだ!!」
アリサ「駄目なものは駄目です!休むことも修行なのです!」
リーク「くっ…」
その時は渋々休んでいたが。
ある日…
リーク「ハァ…ハァ…」
アリサ「どうしました!まだ普段の半分も終わっていませんよ!その程度なのですか!あなたの矜持は!」
リーク「うるさい!この程度なんとも!」
しかし彼の様子は明らかにおかしかった。
目の焦点があわず、足取りもおぼつかない。
遂に彼はその場に倒れ込み激しく嘔吐する。
アリサ「大丈夫ですか!?」
リーク「う、うるさい…うぐっ!おぇぇぇぇ!!」
アリサ(おかしい、普段ならこの程度でこの疲労なんて…まさか!?)
アリサ「…あなた、私が帰った後も修行してますね。」
リークは答えず目を逸らす。
アリサ「その様子だと図星ですね。…何時からです。見たところ、2日3日ではないでしょう。何日も前からずっと。昨日はどれだけ寝たんですか!」
リーク「…」
アリサ「答えなさい!!さもなくばもう修行はしませんよ!」
リーク「…4時間だ。」
アリサ「!!…そうですか。なら一旦修行は禁止します!」
リーク「な、何だと!?どういうつもりだ!!」
アリサ「そのままです。そんな疲労一杯の体では本来の成長速度で強くなれませんよ。今だって眠たくしょうがないのでしょう?罰として暫く修行を禁じます。わかったなら戻って休みなさい!」
そう言われてリークはフラフラと屋敷に戻る。
部屋に戻ってリークは言われた通りベッドに入るが、彼は眠る気になれなかった。
やがて寝室の扉を誰がノックする。
リーク「…誰だ。」
「わ、私です。ユーナです。」
リーク「…入れ。」
ユーナ「あの…リーク様。」
リーク「…なんだ?」
寝室に来たのはユーナだった。
婚約者である彼女は時々こうして屋敷に来ている。
ユーナ「その…大丈夫ですか?」
リーク「ああ…わかったら出ていけ。今は一人になりたい。」
ユーナ「でも、お体のほうは…」
リーク「出ていけと言っているんだ!!!」ドン!
ユーナ「ヒッ!」
リーク「いつもいつも俯いていて何を考えているのか分からない!!お前のような不気味なやつに今の俺の何がわかる!!!」
苛立ちのあまり壁を強く叩く。その音にユーナも驚く。
やがてユーナは何も喋らずに部屋を後にする。
リーク「スマン…」ボソ
一人になった部屋で彼は…
ポタポタ…
彼は、泣いていた。
自分の情けなさに。焦りと不安に。何より本来ならなんの責任もない彼女に当たってしまったことの不甲斐なさに。
リーク「…うっううう…クソ…ヂグジョウ…」ポタポタ
やがて強く握った手からは血が流れ出し。
涙と血でシーツを濡らした。
ようやく見つけた壁。しかし、その距離はあまりにも遠すぎた。
ユーナ「リーク様…」
扉越しに彼女は何を想うのだろうか。
それから数日後、彼は前のように深夜まで修行をすることは無くなったが。
焦りが消えることは無かった。
リーク「クソ…これでは…この程度では駄目だ!」
アリサ「落ち着いてください。一旦休憩にしましょう。」
リーク(グランの魔力活性…どうすればあの領域に至れる…一体どうすれば。)
アリサ(そろそろ魔力量的には目覚めてもおかしくなさそうですが…何か切っ掛けが必要ですね。教えてもいいですが、それは彼自身の力でやってもらわないと。)
そして、事は起きた。
ユーナが魔皇教に誘拐されたことによって
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