アナザープロローグ 彼の始まり
第1話 彼の指導者
最初は取るに足らない奴だと思っていた…
グラン「俺と友達にならないか?」
そう言った奴の手を俺は取らなかった。
グラン「なら、勝負しようぜ!」
適当に捻り潰してやれば良いと…そう思っていた。
リークの誕生日会から数日、彼はこれまでしてこなかった修行をしていた。
だが…
リーク「ハァ…ハァ…違う!!こんなのじゃ駄目だ!もっと魔力の量を増やす方法を考えなくては!あいつには勝てない!」
当然ながら、ただ体を鍛えるだけではグランに追いつく事は出来ない。
魔力量の底上げは決して楽なものでは無いのだ。
リーク「…指導者が必要だ。いくら奴とてすぐに魔力を増やす方法を思いついた訳では無いはず。きっと誰かから教わったに違いない。」
その推理はあながち間違いでは無い。彼は前世のゲーム知識があったからこの方法を編み出せたのだが。この世界にもあれは一部でも知られている特訓法である。誰も彼もが知っているわけではない。
リーク「…父上に頼んでみるしかないな。」
「それで、私にどうして欲しいのです?」
リーク「決まっている。魔力量の増やした方と魔法を俺に教えろ。」
そうして父親が連れてきたのは、魔法学研究家の若きルーキー 雷属性専門 アリサ·ルクスレイだった。
視点 アリサ
鋭く、傲慢さを感じる目つきと綺麗な金髪の髪。
見た目だけでわかる。
彼らと同じ、私が大嫌いな才能に溢れる男。
彼、リーク·サンダリオの第一印象はこうだった。
ことの発端は数日前。
アリサ「私に指導者をしろと?」
研究室の室長からある侯爵家の長男の魔法の指導をしてほしいと連絡が来た。まだ、若く新入りの私に白羽の矢が立ったのだ。
「ああ、侯爵家からの頼みでな。そこの現当主は俺の古い知り合いなんだ。君は魔法の技術は若くして素晴らしい。これも良い経験になるだろうと思ってな。」
よく言う、本当は面倒な癖に。
アリサ「お断りします。私は研究に忙しいので。」
「侯爵家からは、受けてくれたら研究費も出すと言われているが?」
アリサ「…良いでしょう。」(貴族のボンボンなんて面倒ですね…適当に相手すれば良いでしょう。)
リーク「あんたが父上の言っていた指導者か。思ったより若いが、まあ良い。で、何をすれば良い?」
アリサ「…取り敢えず、試しに魔法を何か使ってみてください。それで判断いたします。」
リーク「わかった。」
そして会ってみれば、歳不相応な膨大な魔力量と魔法のセンス。
試しに魔法を使わせれば、流石天才児。あっぱれな魔法ですね。本物の天才は良いですね。産まれながらになんでも持ってて。
リーク「で、どうなんだ。」
アリサ「素晴らしいですよ。教えることなんて何もございません。」
リーク「…貴様、巫山戯ているのか?」
アリサ「とんでもない!やはり天才は違うと思っただけですよ。」
リーク「…俺は世辞を言ってもらうために貴様を呼んだんじゃないぞ。教えろ!どうすれば魔力量を増やせる!そしてもっと多くの魔法を知りたい!」
アリサ「…別に良いではないですか。貴方は十分に素晴らしい実力を持っています。これから自然に強くなれますよ。」
リーク「知るか!俺は今強くなりたんだ!さっさと教えろ!」
なんなのよ、別に良いじゃない。貴女は天才なんだから。どうせ勝手に強くなって、勝手に人を追い抜いて行くんだから。
アリサ「…何故なのですか?そこまでしてどうなりたいのです?英雄ですか?それとも王様にでもなりたいんですか?」
リーク「何を訳のわからないことを言っている。俺は…数日前に負けたんだ。ある男に。そいつを超える!それだけだ!だからさっさと教えろ!」
…負けた?これだけの才能のある子が?
アリサ「誰です?一体誰が貴方を。」
リーク「グラン…グラン·デストリカだ。聞いたことぐらいあるだろう。」
たしか…デストリカ伯爵家の無属性の長男。
彼が?そんな馬鹿な。
リーク「無属性だからと侮るな。奴は自力で強さを手に入れ天才だったこの俺を抜いたんだ!必ずこの屈辱を晴らしてやる。だから俺は強くならなければならないんだ!さあ、俺の修行を手伝ってもらおうか。」
天才は一度敗北を味わうともう立ち直れない筈…何故この子は…折れていない?
アリサ「単純にその子の方が才能があっただけでしょう。上には上がいます。諦めましょう。」
リーク「黙れ!それがどうした!産まれ時の才能は確実に俺のほうが上だ!だが、奴はそれを努力で超えたんだ!俺にできないはずがない!」
…何故…折れない…あなたも打ち砕かれた天才なのでしょう?私と同じ…
アリサも嘗ては天才と呼ばれた少女だった。優れた容姿、優秀な成績、魔力量、高い魔力操作センス。どれをとっても一流だ。
ただし、一番では無かった。
彼女は実はグランの師であるルティファとは同級生だった。
自分よりも年下で入ってきたルティファ。
彼女は入試でもアリサより上の成績を取り、入学後も彼女に勝てたことは一度も無かった。
天才ともてはやされ、プライドの高い彼女にとってそれは許し難いことだった。
努力した、何度も秘策を練って戦いを挑んだ。
結果は全て惨敗。
やがて彼女は自身の限界を感じ始めた。
無理だ…勝てない…どうすることも出来ない。
彼女にとってそれは人生で最大の挫折であり、立ち直ることは無かった。
リーク·サンダリオの事は彼女も耳にしていた。サンダリオ家に産まれた天才。
彼もどうせルティファと同じなのだろうと思っていた。
だが、その境遇は自分と同じだった。
一つ違うとすればその目にはまだ諦めがないことだ。
アリサ(わからない…私には、わからない…)
アリサ「…良いでしょう。方法はあります。確実に効果が出る方法が。」
リーク「何!そいつを教えろ!」
アリサ「ええ、もしこの修行を耐え抜けたら。私があなたの専属指導者になってあげます。」
嘲るように言う。
方法を教えるとリークは笑みを浮かべる。
リーク「なるほど…良いだろう耐えてやる。それであいつに追いつけるなら。」
アリサ「ご自由に。半年後また様子を見に来ましょう。」
彼女は思う。無理だと、甘やかされて、チヤホヤされて育っただろう貴族の息子が耐えられるわけが無いと。
そして半年後、その結果は彼女の予想を大きく覆すこととなる。
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