第29話 ウルカヌス村

 馬車に揺られて半日ほど旅をしていた俺たちは、ウルカヌス村に到着した。


 ウルカヌス村は人口100人ほどの村で石造りの家が並んでいる。俺たちは馬車に乗ってきた人たちと別れてから、依頼の到着報告をするために冒険者ギルドウルカヌス支部へやってきた。


「王都のギルドと比べて随分とこじんまりしてるな」


「当たり前じゃない、人口が違うんだから」


 思ったことをポツンと呟いたらルナからツッコミが飛んできた。当たり前か。王都ほどの大きなギルドが村にあっても持て余すだけだもんな。


「それもそうだな」


「早く、到着報告しにいくわよ」


 ルナに急かされて俺たちはギルドの扉を開けて入っていった。


「いらっしゃい!」


 中に入ると恰幅のいいおばさんが受付から声をかけてきた。俺たちはそのおばさんの座っているところまで歩いていく。


「炎龍討伐依頼を受注したルフレだ」


「炎龍討伐かい。ちょっと待ってな」


 おばさんは炎龍討伐と聞いて椅子から立ち上がり奥へ消えていった。しばらくして男性と一緒に戻ってくる。


「初めまして、冒険者ギルドウルカヌス支部の支部長をしているジンバだ」


「ルフレだ。よろしく頼む」


「炎龍討伐の依頼でいいか?」


「ああ、これがギルドマスターから預かった書類だ」


「確認する」


 支部長はギルドマスターから預かった封筒を開封し確認している。


「確認できた。こいつはたまげたな。まさかルーキーが来るとは俺も予想していなかった。早速で悪いが、村長のところへ報告をしにいってくる。君たちは宿に行って休んでおいてくれ」


「わかった。よろしく頼む」


 すぐに支部長は村長宅にいくためにギルドを出ていった。俺たちも宿へと移動する。


「王都とは、風景がだいぶ違うな」


「そうだね! 王都は高い建物が多かったけど、この村は一軒家が多いね!」


「こっちの方がちょっと落ち着くわ。王都は人が多すぎてちょっと疲れるのよね」


「わかる、少し田舎の方が暮らしやすい気がするよな」


 俺たちは宿へ向けて歩いていく。通りの向こうには大きな火山、ウルカヌスが聳え立っている。


「あれが火山か、でかいな。あそこにいくのか」


「そうね、熱いところ苦手なのよね」


「そうだねー、集中力が鈍くなりそう」


「そこは大丈夫、ルフレが使うホーリーフィールドはパーティメンバーが常に戦いやすい状況を作り出すバフ。暑くなる心配はいらない」


「おい! ヴィヴィこんな通りで出てくるなよ!」


「人がいないところで出た。それにルフレたち以外には見えないようになってるから安心」


「そうか。ならいいか」


「ん、ヴィヴィだってたまにはみんなと外を歩きたい」


「そうか。いつもすまない」


「そう、いつもヴィヴィ出れない。寂しかった」


 ヴィヴィがムッとした表情になる。


「ごめんね! 今度からもっと一緒にいろんなところにいこ!」


「そうね、ごめんなさい。私たちも配慮が足りなかったわ」


「ん、いいよ。シェスカもルナもいつもありがと」


 これからは、休みの時とかはみんなでもっと出歩かないとな。宿が見えてきた。俺たちは宿に入り、四人部屋を取ってチェックインを済ませた。パーティメンバーを見て受付の女将さんがあらまぁみたいな表情をしたのは気にしないでおこう。何もしてません僕は何もしてませんから。


「おー! 広い!」


「4人部屋だからな」


「ほんとに広いね! くつろげそうだよ!」


「そうね、みんなベッドで寝れるわ」


 四つのベッドが並べてあり、もちろんトイレと大きな浴槽が完備されていた。


「お風呂溜めとくな」


「ありがと、よろしくね」


 俺は浴室に入り、お風呂を溜める。


「溜まるまでどうする?」


「またゲームでもするか?」


「そうだね! やりたい!」


 お風呂が溜まるまでの間、俺たちはボードゲームをしていた。大体1時間くらいだろうか3つくらいボードゲームを消費したところでお風呂が沸いた。ルナが何やらシェスカに目配せをして立ち上がる。


「私はヴィヴィとお風呂先にお風呂に入ってくるわね」


「ああ、わかった。ヴィヴィをよろしく頼む」


「わかったわ」


 ヴィヴィとルナが浴室へと消えていった。


「ねぇ、ルフレ。ちょっとベランダでない?」


「ああ、いいぞ」


 外はもう陽が沈みかけていて、街全体が朱色に染まっている。


「綺麗だな」


「そうだね! 私たちが出会ってすぐの頃を思い出さない?」


「ああ、王都の丘の上か」


「そう! またいきたいね」


「そうだな、今回の依頼が終わったらまた行こうか」


「うん! けどその前に王都に帰ったら勲章授与式だよ!」


「そうだった。忘れてた」


「礼服買わないとね! 選んであげる!」


「よろしく頼むよ」


「うん! 楽しみだな! ルフレかっこいいからなんでも似合うよ!」


「ありがとう。面と向かってそんなかっこいいとか言われると、照れるな」


「え! あ! うん。だってかっこいいから」


「嬉しいよ」


「ねぇ、ルフレはさ。私のことどう思ってるの」


 俺はその質問をされて、心臓が跳ねた。俺はシェスカをどう思っているのか。ここはゲームだ。いくらリアルに近いとはいえ、あくまでもゲームでシェスカはそこに出てくる高度な頭脳を持ったNPC。たまにリアルすぎると思うくらい高度なAIを積んでいるはずだ。俺が彼女をどう思ってるか、それは自分の存在意義を尋ねるかのような『想い』が込められた発言だった。しかし、俺は言葉が詰まり離すことができない。


「そう、だよね。こんなこと急に言われても困るよね。あはは。ごめん」


 彼女は、俺がなかなか答えないために引き下がってしまった。俺は、いまだに悩んでいて言葉にすることができない。ゲームなのだから、大切であると伝えるロールプレイをすればいいじゃないかという意見もあるだろう。シェスカのことが大切、そういえたらどれほどいいだろうか。しかし、自分のこれはゲームだと思うと同時に、あまりにもこの世界をリアルだと捉えてしまう自分の心が軽はずみに答えを出すことを躊躇わせた。


「ごめん、今その質問に答えることができない。シェスカはこの世界で俺のことを初めて見出してくれて、今はパーティメンバーだ」


「そうだね。……うん。大丈夫、いきなり変な質問してごめんね」


「大丈夫、こちらこそ本当にごめん」


 二人の間を夕方の少し冷え始めた風が通り過ぎる。シェスカの黄金の髪が風に揺られ、夕日に照らされてキラキラと輝く。綺麗だ、素直に心からそう思うことができた。しかし、その表情は少し悲しげな雰囲気が漂っている。俺とシェスカは二人で何も話さずベランダで景色を見ていた。


「私はね、ルフレのことが好きなんだ」


 シェスカが急に話し始めた。


「初めて王都出会ったときは純粋にインテリジェンス・ウエポンの所持者ってことに興味を持っただけだったの。けど、剣術の鍛錬に頑張ってついてくる姿は今まで教えてきた誰よりも誠実だったし、私たちの無茶振りも全部受け止めてくれて。あっという間に成長して一人でデュラハンを倒してる所とか見てかっこいいと思ってたら。いつの間にか好きになってた。私、誰かを好きになるなんて初めてだったの。王都に出てきて、マスターに見出されて必死に剣術の鍛錬をして、騎士団長になった。けど女の私が騎士団長になったら、周りにはそのおこぼれを貰おうと擦り寄ってくる男ばっかりだったの。けどルフレは違った。普通の女の子のように接してくれて、一緒にパーティとして過ごして、とても楽しかった」


「そうか、俺は……」


「いいの、答えは急がないから。これからまた一緒にパーティとして頑張ろ! 外に出てスッキリした、ゲームやろ! この間ヴィヴィとやってたスピードってやつやりたい!」


 俺がなんとか答えを出そうとするとシェスカが遮ってきた。彼女はさっきまでの表情が嘘だったかのようにいつもの明るさで話しかけてきた。空元気なのだろうが、今はその明るさが俺にはありがたかった。俺たちは部屋へと入った。

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