第28話 ワイバーン

俺は頭上を悠々と飛ぶワイバーンと対峙している。広げた翼はどれくらいの広さだろうか、成人男性二人を横に寝かせても余るくらいの横幅だ。全身は灰色の鱗に覆われており、真っ赤な瞳にスッと入った黒い縦の瞳孔からこちらを観察している。


「叩き落としてやる!」


 俺は縮地を発動し地面を蹴った。俺の体が重力に抗いワイバーンへと吹き飛んでいく。俺は勢いそのままにヴィヴィをワイバーンへと叩きつけた。


『グギャ!?』


 叩きつけたのだが。避けられてしまう。回避行動をとってワイバーンが少し姿勢を崩す。しかし、姿勢を崩した所へ飛び込んでくる影があった。


「はぁぁぁぁ!」


 シェスカだ。俺と同じ方法でワイバーンが姿勢を崩したところで死角から飛び込んできた。俺とシェスカに挟まれたワイバーンはさらに飛行姿勢を崩す。シェスカに切られたことにより、鱗が少しだけ剥がれる。下に落ちそうになったが俺たちから一度距離を取るためにさらに上空へ飛翔していく。


 だが、俺とルナには重縮地がある。すぐに追従して上へと跳んでいく。しかしながら、ワイバーンは突然振り向きこちらへと大きく口を開いた。何事かと思った瞬間。口元が光り炎がこちらへ吐き出される。


「「な!?」」


 俺とシェスカは突然のことに驚いた。しかし、すぐに体を横に倒しお互いの足の裏を蹴り、進行方向を変えることによってそれを避ける。


「あぶねぇなぁ! ルナ! 今からこいつを俺とシェスカで地面に叩き起こすからラッシュで弱らせてくれ!」


「わかったわ! 任せて!」

 

 ルナから返事が聞こえたため、俺とシェスカはまずはワイバーンの上を取ろうと移動を開始する。


「シェスカ! 同時に蹴りを入れて地面に叩き落とすから! いつでもできるように準備しといてくれ! 翼も切り落としといてくれ!」


「わかった! ルフレ右側よろしくね!」


「ああ!」


 俺は重縮地を使い空間を蹴る。俺とシェスカから両側をを挟まれているためワイバーンは身動きが取りずらそうだ。俺は、ワイバーンの翼の薄い皮の部分を切り刻んでいく。


 徐々に翼を切られることにより飛行能力が低下していく。


「シェスカ! 準備してくれ! カウント5で行くぞ!」


「了解!」


「5! 4! 3! 2! 1! ゼロ!」


 ゼロを数える瞬間、俺とシェスカは渾身の蹴りをワイバーンの背中に叩き込んだ。やつは俺らの蹴りと重力による加速により異常な速度で、地面に叩きつけられる。


「ルナァ!」


「うん!」


 ルナが叩きつけられたワイバーンへと縮地で近寄りラッシュを使いながら攻撃を始める。


『ルフレ! マジックスラッシュ、聖魔法使えるようになって強くなってる。込められる魔力の量が増えてるはず』


「了解!」


 俺は落下しながらマジックスラッシュを発動する。すると以前とは比べ物にならないくらい増幅された魔力が込められている。ヒリヒリするような圧力を感じる。


「ルナ! 翼を切り落とす! 避けてくれ!」


 その言葉を聞いてルナは即座にワイバーンから距離をとった。俺は片方の翼にマジックスラッシュを放ち、自分は落下のスピードを利用してもう片方の翼も切り落とした。


「ギャァァァァァ!」


「地に落ちたな! ワイバーン!」


 翼を落とされたことでついに理性が吹き飛んだのか、全く不規則に暴れ始める。


「まずい! シェスカ! ルナ! 馬車が危ない! 一気に片付けるぞ!」


「うん!」「わかった!」


 まずルナが縮地で急接近する。ワイバーンの下に滑り込み、腹に何度も殴打を加える。内臓に効いて動きが鈍くなる。そこに俺とシェスカが入り、剣戟を入れる。ワイバーンが炎を吐き出さんとして口を大きく開ける。


「口開けたな!」


 鱗が硬いから、なかなか剣戟も効きづらい。そこで格好の弱点となっていくのは口だ。鱗はなく、柔らかい。それに加えて体の制御を行う脳に最も近い。俺はすぐにやつの真正面に立ち口にヴィヴィを突き立てた。


「グッ……」


 やつは俺がヴィヴィを突き立てたあと、しばらくの間痙攣していたが息を引き取った。沈黙する。周りに静かな雰囲気が漂った。その空気を破ったのは、冒険者志望のあの子だ。


「す……すごい! すごいすごい! かっこいい!」


 大人たちもそれに続いて拍手をしてくれた。


「ありがとうございます。ルフレさんが乗っていなかったらどうなっていたか」


「うんも実力のうちだろう。よかったな」


「ルフレと言ったか」


 護衛の冒険者たちがこちらへきて話しかけてきた。


「すまなかった!」


 全員から頭を下げられる。


「いや、仕方のないことだ。俺たちこそ仕事をとってすまない」


「それはいいんだ、俺たちではワイバーンは倒すことができなかったからな。本当にありがとう。俺たちはいらないから、ワイバーンの素材はそちらで管理してくれてかまわない」


「本当か? 助かる」


 俺たちは護衛の冒険者から言われたとおりワイバーをアイテムボックスに収納した。その後、みんなで馬車に乗り旅を再開した。


「お兄ちゃん! ほんとにかっこよかった!」


「助けてくださり本当にありがとうございます。Aランう冒険者ってこんなにお強いんですね」


「そうじゃな、すごく強かったの。本当に助かったわい」


 馬車に乗ると次々に感謝を述べられた。


「いえいえ、倒すことができてよかったです」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんがやってた空跳ぶやつ! あれどうやってやるの!?」


「あれはね!」


 シェスカが説明をし始める。


「地面にいたお姉ちゃんがワイバーンの落下する時にすごい勢いで近づいてたでしょ?」


「うん!」


「それをね、さらに大きな魔力を使って体を強化すると空を跳べるようになるんだよ!」


「僕でもできるようになる?」


「うん! けどまだ年齢が若い時からやると体の成長を妨げるからやらないでね! 体の成長が止まってからするんだよ?」


「わかった!」


「お母さん、きちんとやらないように見ておいてあげてください」


「わかりました。重ねがさねありがとうございます」


「いえいえ! いつか、冒険者として会えるのを楽しみにしてるね!」


「うん! 頑張る!」


 こうしてまた馬車の中に和やかな雰囲気が流れ始め旅が進んでいった。景色は王都周辺からだいぶ離れ始め、農地が多くなってきた。牧場なども見える。


「みなさん! 見えてきましたよ! ウルカヌス村です!」


 俺たちは陽が頭上から西へ傾き始めた頃に目的地に到着した。

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