第27話 遠征
俺たちは遠征に行くために朝イチで乗合馬車の停留場に来ていた。
「ウルカヌス行きの馬車です! 乗る方はいらっしゃいませんか!」
御者さんが乗客の有無を確認している。その横には護衛だろうか、冒険者のような身なりをした中年の男性が2人いる。
「あれだな。────済まない。3人乗れるだろうか」
「3人ですね! まだ大丈夫ですよ。奥から詰めてご乗車ください!」
俺たちは3人で馬車へと乗り込んだ。中には夫婦だろうか、男女のご老人が1組と2人の子供を連れたご婦人が座っていた。
「横、失礼します」
「どうぞ」
一声かけて老夫婦の隣に腰を下ろした。少し詰めて席を広くしてくれる。
「お兄ちゃん達、冒険者?」
7歳くらいの男の子が話しかけてきた。
「ああ、そうだ」
「ちょっとルフレ、そっけなさすぎるんじゃない?」
「そんなつもりはなかったんだが、済まない」
そっけないのだろうか。そうか、そっけないのか。
『大丈夫だと思う。子供は怖がってない』
ヴィヴィが念話で励ましてくれる。そうだよな、大丈夫だよな。
「大丈夫! ねーねー! 何か聞かせてよ!」
「こら! あんまり困らせたらいけません! うちの子がすみません」
「いえいえ! 気にしないでください!」
シェスカが返事をする。面倒見良さそうだよな。いいお母さんになりそうだ。昨日の朝もルナを慣れた手つきで起こしてたし。
「ありがとうございます。この子、冒険者が憧れのようで。もしよろしければいろいろと話を聞かせてやってください」
「もちろんです!」
「お兄ちゃん達、冒険者なのかい? わたしたちにも話を聞かせておくれ」
隣に座っていた老夫婦も話に加わってきた。場に和やかな雰囲気が漂う。
「もちろん。もっとも俺たちはまだ駆け出しなので、ご期待に添えるお話ができるかどうかはわかりませんが」
俺はこの場にいつものような口調は似合わないだろうと思い。いつもの口調に戻す。すると横にいるシェスカとルナが驚いた顔でこちらを見てきた。
「なんだよ」
(ルフレって敬語使えるんだ)(ルフレって敬語使えるのね)
(俺だっていつもこんな口調な訳がないだろ。シェスカの騎士団長モードみたいなもんだ)
(ちょっ! それは言わないで!)
シェスカたちは俺が敬語を使ったことに驚いたらしかった。シェスカをからかうと頬を膨らまして抗議してきた。かわいい。
「それではみなさん! 出発します!」
馬車も出発するようだった。遠征スタートだ。
しばらくの間、馬車は俺たちがしてきた依頼などを話したり、子供の父親が村で衛士をしていることを男の子と女の子が自慢げに話してくれたりと和やかに進んでいった。
「お兄さん達は、何しにウルカヌス村へ?」
「俺たちは依頼を受注しに行くんです」
「そうなんかい! 確かに村長が火山にドラゴンが住み着いたとかなんとか言っとったの」
「そうですね」
「え!? ドラゴン!! お兄ちゃん達ドラゴン退治に行くの?」
男の子がここぞばかりに話に食いついてきた。これは言わないほうがよかったかな。
「そうだよ。ドラゴンだ。正直ちょっと緊張してるよ」
「そうなんだ! かっこいい!」
「ありがとう」
「ドラゴン退治でしたら、結構ランクが高いんでしょうか?」
「一応まだ公式ではありませんが、Aランクです」
「「「Aランク!」」」
とても驚かれた。
「そんなに驚きますか?」
俺のその返事を聞いてルナが呆れたような顔でこちらを見てくる。耳もゲンナリしている。そんな、耳まで使って表現しなくても……。
「あのねー、Aランクなんかほとんどいないのよ。その上のSランクなんかもっと少ないわ」
「そうですね。私はAランク冒険者の方は初めて会いました」
「そんな珍しいんだな」
「かっこいい! Aランクなんて!」
これまた、男の子が目をキラキラさせてこちらを見てきた。
「ありがとう」
「僕もなれるかな! Aランク冒険者!」
「そうだなー。なれると思うぞ。大事なのは諦めないことだ」
「僕頑張る!」
「ああ、可能性は無限大だからな。ただ危険なことはしちゃダメだからな。約束だ」
「うん! 危なくなったら逃げるよ! お母さんに会いたいし!」
「あらあら」
自分の息子の発言を聞いてお母さんが照れているようだった。親としてはとても嬉しいのだろう。
「そうか、お母さんが大好きなんだな」
「うん!」
元気がいっぱいだ。可愛らしいな。しかし、俺たちが会話をしていると突然。
『ギュァァァァァ!』
何かの叫び声が聞こえた。
「ワイバーンです! 絶対に外に出ないでください! 護衛の皆さんお願いします!」
「ワイバーンは無理だ! 俺たちはCランクだぞ! 無理だ!」
いきなり襲撃が来たらしい。それに護衛の冒険者が無理だと言っているようだった。現場が突然慌ただしくなり。冒険者は及び腰になり今にも逃げ出しそうな勢いだ。
「なんでこんなところにワイバーンが!」
馬車の中にも緊張が走っており、みんな肩を寄せあって震えている。
「普段はワイバーンは出ないのか?」
俺はシェスカに質問した。
「そうだね。こんなとこには出てこないかな」
「なんでそんなに落ち着いていられるんですか!」
俺とシェスカが話していると、御者の人が半分切れ気味でこちらへと話しかけてくる。
「このまま走ってても追いつかれるだろう」
「そうですね! 無理です! 絶対に逃げ切れません!」
「俺たちが対処する。馬車を止めてくれ」
「な!? 正気ですか! ワイバーンですよ!」
「これでもAランク冒険者だ。対処できる」
俺がそう発言した瞬間、張り詰めた馬車の中の空気が思い出したように弛緩した。唐突な出来事すぎてみんな俺たちが冒険者だということを忘れていたらしい。
「そ、そうだったんですか! わかりました。死なないでくださいね」
そう言って御者は馬車を停止させた。ワイバーンが馬車に飛びかかってくる前に俺は馬車から飛び出す。
「シェスカは援護を! ルナは馬車の護衛を頼む!」
「わかった!」「了解よ」
シェスカとルナに指示を飛ばしワイバーンと対峙する。相手はいきなり馬車から出てきた俺を警戒しているのか頭上を周回している。
「ホーリーフィールド!」
俺がそう唱えた瞬間、足元に白銀に光る魔力によって編まれた魔法陣が出現した。綺麗だ。これが聖騎士の魔法か、初めて使ったな。
「うわ!? 何これ!」
後ろでルナが驚いている。シェスカの方はこれと似たような系統の魔法を見たことがあるのだろう、俺と目が合うと微笑んできた。さぁ準備は整った。戦うとしよう。
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