第23話 ラッキー

 俺とルナは机の上に突っ伏している。シェスカとヴィルさんにしっかりと鍛えられて疲労困憊なためだ。一方でシェスカとヴィルさんはまだまだ元気なようで、昼食の準備をしてくれている。


「疲れたな」


「疲れたわね」


「あの二人はやはり本当に強いな」


「そうね、本当に元近衛騎士団長と近衛騎士団長は鍛え方が違うのね」


「仕方がない。ルフレとルナは二人とはそもそものレベルが違う」


 いつの間にかヴィヴィが擬人化していた。


「確かに間違いないな。やっぱりレベル差はでかいか」


「そうね。目標のLv20には近づいてきたといえどまだまだ二人には追いつけてないものね」


「ルナは午前中どうだったんだ?」


「私は、まず縮地を獲得したわ。これから強い敵と戦っていくには近接戦闘だと限界があるから戦闘スタイルをヒットアンドアウェイに変えようって話になって、ピュクスのラッシュの効果時間も加味した戦いの練習をひたすらしたわ。疲労があって集中力が低下した状態でも戦えるようにエンドレスでね」


「そうか、やはり理にかなってるな。常に危険のある実戦ではできない、いい鍛錬だ」


「そうね、近くにこんなにすごい人がいるってのはいいわね」


「ん、この国でここほどいい修練場所はない。シェスカが最年少で近衛騎士団長になったことにも納得がいく」


 俺たちは自分達の今のこの状況について感謝してもしきれないなぁと思った。


「ご飯できたよー!」


 キッチンの方からシェスカの元気な声が聞こえる。先ほどからずっとキッチンからは美味しそうな匂いがしていた。


「今日のお昼ご飯は雑炊!」


「ここにもお米があるのか!?」


「お米?」


「いやこの料理に使ってる穀物のことだ」


「これはジャバニカっていうの! トレーニング後に必要なタンパク質で鶏肉のささみ、それと卵を合わせた筋肉にいい食事なんだ! 私もいつも食べさせてもらってたの! あ! ルフレ聖騎士になって回復魔法使えるようになったと思うけど使わないでね! 筋肉が成長しないから!」


「しっかりとした根拠に基づいてるんだな。それと、そう思って回復魔法は使ってないよ」


「ん、ヴィヴィが教えた」


「おい! 言うな!」


「ふふっ……。ルフレカッコつけたかったの?」


「くっ……」


 俺はヴィヴィにさっき聞いたことをちょっとカッコつけたくて自分で考えたかのようにしゃべってしまった。しかもそれをヴィヴィにバラされ顔が熱くなってしまう。


「大丈夫だよ! ルフレそんなことしなくてもかっこいいから! 早く冷めないうちにご飯食べよ!」


「ん? 今なんて?」


「あ! いや……その。これはなんでもなくて! もういいから早く食べて!」


「そう、ルフレ。食事に失礼。早く食べる」


 シェスカがなんて言ったか確認することはできず、俺たちは食事を始める。


「「「いただきます!」」」


 美味しい雑炊に俺たちは舌鼓を打ち。午後からの練習に備えた。




「では、午後の練習を始めましょうか」


 ヴィルさんの掛け声で俺たちは修練場へと移動する。


「じゃあまた別れて練習しよっか!」


「そうね。ヴィルさん、よろしくお願いします」


「こちらこそ、最大限成長できるようサポートいたします」


 そうして、ルナとヴィルさんはまた隣の部屋へと移っていった。


「じゃあまた模擬戦形式で鍛錬していこうか!」


「そうしよう。よろしく頼む」


 俺とシェスカは互いに剣を構えて戦闘の準備をする。今度は午前中よりも縮地に込める魔力量を増やしてみるか。筋肉がはち切れるギリギリまでこめてみよう。


「じゃあこのコインが落ちた時にスタートね!」


「了解」


 俺は耳と目にも魔力をこめて、最速で動ける用意をする。


 キンッ


 シェスカがコインを弾いた。コインは回転しながら上昇し、重力によって地面へと落ちていく。そしてついに地面へと……。


 落ちた! と同時に俺は縮地を発動する。


「ひゃあ!」


 ドンッ!


 そんなシェスカの悲鳴を聞きながら、俺はシェスカとぶつかった。魔力を込めすぎたらしい。


「いててて」


 ん? なんだ? 何か手に柔らかいものが……


「ね……ねぇ。ルフレ、ちょっと重いよ……」


「あ……ああ。すまない」


 俺は、手に残る感触に別れを告げシェスカの上からすぐに退く。目の前には、自分の胸を抱え赤面しながらこちらを睨むシェスカがいた。


「ごめん! 縮地に魔力を込めすぎたんだ」


 俺は誠心誠意、シェスカへ謝った。不可抗力だったとはいえ、悪いのは自分だろう。


「もう! 驚いた……。いきなり早くなりすぎ。私が遅れを取るなんて考えもしなかった」


 いつものシェスカと比べると少し声音が冷たい気がする。


「けど、仕方ないよね。今回は許してあげる! 次からは気をつけてね!」


「ありがとう。気をつけるよ」


「じゃあ! すぐに再開するよ! もう油断しないから!」


 そうして俺とシェスカは再び修練を再開した。名残惜しかったなんてカケラも思っていない、そう、カケラも思ってなんかいない。



 修練が終わったと俺はついにLv20に到達していた。


 Information


 Lv20に到達したことにより聖騎士専用スキル:ホーリーフィールドが使用可能になりました。

 範囲内にいる仲間全員に防御力アップ及び攻撃力アップのバフをかけることができる。


 なんか、スキルを獲得したらしい。


「おつかれさま! ここまでよく頑張ったね!」


「レベル、20になったぞ」


「本当!? 早すぎなくらいだね! おめでと!」


「予定より大幅に早かったな」


「そうだね! ルナはどうだったんだろう」


「ルナさんも20に到達しましたよ」


 ヴィルさんがやってきた。背中には眠っているルナがいる。


「そうか。ありがとう」


「おや? 二人は何かありましたか?」


「な! 何にもないよ! 私先上がってるから!」


「そうですか。シャワー使っていいですよ」


「はーい!」


 シェスカがものすごいスピードで上へ消えていった。ヴィルさんが孫を見るような。そんな優しい表情になっている。


「ルフレ、彼女のことよろしくお願いします。彼女には私の後継になってもらうために幼少期からかなりきついことをさせてきましたから。ぜひ色々な経験をさせてあげてくださると嬉しいです」


「わかりました。俺のできる範囲でなら、いくらでも」


 俺は、自然と普段の丁寧な口調に戻っていた。彼女には、本当に日々助けられている。恩返しをしたいな。

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