第14話 シェスカからの呼び出し

「マスター、こんばんは」


「いらっしゃいませ、ルフレさん。お好きな席にお座りください」


 俺とルナは、ギルドで達成報告をしたのちに、シェスカと待ち合わせをしているヴィルネアスさんのカフェへとやってきた。やはり人通りが少ないところにあるため、店の中に人はあまりいない。窓際のテーブル席へと座る。


「本日はどういたしますか?」


「コーヒーでお願いするよ」


「かしこまりました。お連れ様はどういたしますか?」


「同じものをお願いするわ」


 ルナは少し緊張しているようだった。じっとヴィルネアスさんの方を見つめている


「どうしたんだ?」


「あのおじいさん何者なの? 隙がなさすぎるんだけど」


「あー、シェスカのお師匠さんらしいぞ」


「あの近衛騎士団長の?」


「そうらしい」


「だから彼女は短期間で近衛騎士団長にまでなったのね」


と、ルナは先ほどとは一変した、何か納得したような顔になった。

 確かに改めてみてみると、ヴィルネアスさんの背筋はピンと伸びており、歩いていても体の軸がぶれるような気配はない。確かに、隙がないな。そうしていると、入り口の扉が開いた。


「ルフレ! お待たせ! マスターもこんにちは」


 シェスカが入ってきた。ルナが先ほどと雰囲気が全然違うことに驚いたのか口を大きく開けている。


「俺たちもさっき来たところだ。勤務中は随分と雰囲気が違うんだな騎士団長様?」


「もう! いじらないで!」


シェスカは、頬を膨らませてこちらへと反抗してくる。


「いいじゃないか、騎士団長様もカッコよかったぞ」


「そ……そう? ならよかったかな?」


「いや、そこ乗せられちゃダメなんじゃないかしら」


「はっ! そうだよ。私だって好きであんなことしてるんじゃないんだから!」


「そうなのか?」


「だって、なんか周りが威厳がどうのこうのいうからああせざるをえないんだよ!」


「いいじゃないか、俺はどっちのシェスカも好きだぞ」


「「好き!?」」


 すると、いきなり剣が光だしてヴィヴィが飛び出してきた。


「ルフレ、ヴィヴィは?」


「もちろんヴィヴィも好きだぞ」


「ん」


 ヴィヴィは俺の返事を聞いて、大変満足そうな顔をして俺の膝の上に座った。そこに状況を飲み込めてない人が一人。


「え? ヴィヴィちゃんなの? どういうこと?」


「シェスカ、この間はルフレに稽古つけてくれてありがとう」


「本当にヴィヴィちゃんなの?」


「ん、あの日の後ルフレから魔力をもらって擬人化できるようになった」


「すごーい! 可愛すぎる!」


 シェスカは俺の隣へと座り、ヴィヴィのことを撫でにきた。ヴィヴィがシェスカに撫で回され、頬擦りまでされている。人状態のヴィヴィはシェスカのお気に召したらしかった。剣の状態でも、気に入られていたしこうなるのも当たり前な気がするな。


「それで、なんで今日俺たちは呼ばれたんだ?」


「そうだった! 説明しなくちゃいけないんだった! 本題に入る前にちょっと女の子だけで話したいんだけど、いいかな?」


「ああ、構わないが」


「ありがとう!」


 そうして俺はカウンターの方へとやってきた。


「どうされましたか?」


「どうも女性陣だけで話したいらしくてな、追い出されてしまったんだ」


「そうですか。苦労されますな」


「何を話してるんだろうな」


 彼女たちは顔を寄せ合って何かを話している。さすがにここまでは聞こえてこないが。


「では、先にこちらご注文のコーヒーです」


「ありがとう」


「ヴィヴィさんは擬人化ができたのですか」


「俺もいきなり少女が出てきた時は驚いたよ。剣が少女になるのは聞いてない」


「私も初めて出会いました。やはり彼女は素晴らしい剣ですね。是非大切になさってください」


「そうするよ。ヴィルネアスさんもインテリジェンス・ウエポンを持ってたのか?」


「そうですね、以前持っていました。今は……」


「すまない。嫌なことを思い出させてしまったか?」


「いえ、気にしないでください。彼女は私を助けてくれた恩人ですので」


「とてもいい関係だったんだな」


「そうですね、今でもたまに思い出します」


 その後しばらく、俺はヴィルネアスさんと話をしていた。すると、話終わったのかシェスカたちが俺をよんだ。


「なんの話をしていたんだ?」


「それは秘密だよ」

「そうよ、ガールズトークの内容を尋ねるものじゃないわ」

「ん、詮索はめっ!」


 三人から批判を受けてしまった。聞かれたくないらしかった。しかし出会った時はピリピリしていたシェスカとルナの距離も近くなっている。よかった。


「それで? 今日呼ばれた本題は?」


「そうそう。実はルフレたちに近衛騎士団に協力してもらいたくて」


「俺たちが? なんでだ?」


「実は、最近王都近辺で悪魔族の出没件数が上がってるの。そこでルフレたちにも討伐を手伝ってほしいの」


「俺たちはまだCランク冒険者だぞ?」


「そうよ。悪魔族なんか相手にできるわけないわ!」


「ルフレは大丈夫、それは私が保証する。ルナもここで鍛えたら間違いなく強くなる。次の襲撃予定は2週間後。それまでに二人にはレベル20を目指してもらいたいの」


「2週間でレベル20なんか無理よ! 私はともかくルフレはまだ10にも到達してないじゃない!」


「レベル20到達ってそんなにしんどいのか?」


「そうよ! レベル20になる頃には普通Bランク冒険者になってる!」


「ヴィヴィはどう思う?」


「ん? 余裕」


「嘘でしょ!?」


「この2週間私もルフレたちのパーティに参加してレベリングに協力する!」


「そうか、シェスカがいてくれたら確かに楽だな。今までよりも難度の高い依頼も受けれるな」


「私がギルドの方に申請すれば多分Bランク依頼を受けれるようになるはずだから。申請しとくね!」


「よろしく頼む。ルナもそれでいいか?」


「あーー! 私が嫌だって言ってもやるんでしょ! いいわよ! やってやろうじゃない!」


「じゃあ、正直悪魔族とかの内容がつかめてないんだが、説明してもらっていいか?」


「わかった!」


 そうしてシェスカは、この世界のことについて語り始めた。


 曰く、この世界の中心には宇宙樹ユグドラシルがある。そのユグドラシルを中心として、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人が生活していた。4者の関係はとても良好で平和だった。しかし、現在から50年ほど前、突然ヒューマンの国のユグドラシルとは反対の方向に隕石が落ちてきた。その時期からか、急に新たな種族が出現しヒューマンの国を責め始めた。その新たな種族を、ヒューマンはいつからか悪魔と呼ぶようになり悪魔族が誕生した。昔は、侵攻の周期は2〜3年に1度であったのが、近年になり周期が確実に上がってきており、それに対する対策として戦力の増強をしている。


「ということなの」


「なるほどな、そんな歴史があったのか」


「そう、今日はもう宿に戻るよね。明日、このカフェに朝集合でいいかな? 依頼は私が受注してくるよ!」


「了解、お願いするよ」


「じゃあ今日は、休んで! 3人とも疲れたでしょ! 私は少しマスターと話してくから!」


「そうか、じゃあ俺たちは先に帰らしてもらう。明日よろしくな」


「シェスカ、またね」


「うん! (ルナ、抜け駆けは禁止だからね!)」


「わかってるわよ。心配しないでもヴィヴィがいるのにできるわけないじゃない」


「ん、見張っておく」


「なんの話だ?」


「んーん気にしないで! また明日!」


「ああ」


 俺たちは、カフェを離れ宿へと戻ってきた。各々寝る準備を済ませ、布団へと入った。すると、ルナが話しかけてきた。


「ねぇ、ルフレ。さっきシェスカに言ってたの、どういうこと」


「ん? どれのことだ」


「それはっ……シェスカのことがす、好きってやつのことよ」


「ああ、友人としてたが?」


「そ、そうよね。じゃあ私は?」


「もちろん好きだぞ」


「そう。ありがと。じゃあ! おやすみ!」


「おう? おやすみ」


 なんでそんなことを質問してくるんだか。


 さすがにこちらで三日間も過ごすと、現実でももう相当時間が過ぎている。俺はここでいったんログアウトして、現実の世界へと戻ることにして、ログアウトボタンを押した。すると、途端に睡魔が襲ってきて俺は抗えずベットへと横になる。


「ーールフレ、どうーー難を乗り越えーー私をーーーーてください。ーーーーお待ちしてーーます」


 瞼の裏が突然白く包まれ、俺の目の前にプラチナの髪をした女性が立っていて、こちらへと話しかけてきているような、そんな映像を見た。はっきりと見ることはできず、俺はそのまま現実へと戻っていくのだった。

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