第13話 遭遇
俺とルナは、クルルの森 中部にあるコボルトの集落を、近くに潜んで観察している。数はだいたい20匹くらいだろうか。コボルトたちは崖の近くで物見やぐらや簡易的な小屋などを作り生活しているらしかった。だが、いくら知能レベルが高いと言えど、すぐに仕掛けても今の俺とルナならば殲滅することができるだろう。
「ルナ、行けるか?」
「ええ、いつでも大丈夫」
「じゃあいくぞ!」
俺たちは一気に隠れていた所から飛び出して集落へと走り出した。ルナは獣人であることから、明らかに俺より走るのが速い。先陣を切って突っ込んでいく。直後、一匹のゴブリンが派手に吹き飛んでいった。ワンパンだったらしい。
「ルフレ! このガントレットすごい!」
ルナがこちらを振り向いてガントレットの感想を言ってきた。一瞬目が星に見えたような。それくらい目がキラキラしている。よほど嬉しいんだな。プレゼントした甲斐があった。
「そらよかった。ほら! 目逸らすな! 次来るぞ!」
仲間が吹き飛ばされたことで少しの間停止していたコボルトたちが俺らを排除しようと動き始める。俺もヴィヴィを構えて戦闘体勢に移行する。
「お前ら、俺の成長の糧になれ!」
コボルトたちが一瞬怯んだ。そこに付け入るように攻撃を仕掛ける。その横では、もうすでにルナが2匹目を吹き飛ばしていた。満遍の笑みで。楽しそうに。しかし1匹ずつ倒していくのは効率が悪いな。
『ルフレ、ヴィヴに魔力をこめて振ってみて』
「ん? こうか?」
俺はヴィヴィに魔力をこめる。すると刀身が光り始めたのでそれを横向きに振るった。すると、斬撃が飛んでいき、その先にいた2匹のコボルトを屠った。
「おー! これはすごいな!」
『これがマジックスラッシュ』
「名前はまんまなんだな」
『ん、魔力を斬撃として飛ばす技。単純だけど効果的』
「楽になる! このまま残りも殲滅してしまおう!」
それから一気にコボルトを殲滅していった。すぐに敵はいなくなり、終わった頃にはルナの横にはおそらく全てワンパンで吹き飛ばされたであろうコボルトが山積みになっていた。俺の横にもあるが。
「お疲れ」
「お疲れ様、いつもより断然早く終わったわ。パーティだったのもあるし、このガントレットが大きいわね。自分の実力が上がったように錯覚しちゃう」
「気をつけないといけないよな。俺もヴィヴィを持ってからひしひしと感じるよ」
「そうね、気をつけるわ」
「これからどうする?」
「まだお昼前だしお昼ご飯も買ってきちゃってるからとりあえずお昼までは他のコボルトを討伐しにいく?」
「そうだなそうするか」
そうして俺とルナはそのまま近くにあるコボルトの集団を二つほど殲滅していった。そこで昼になったのでいったん切り上げて、今は少し見晴らしのいい丘の上に来ている。
「昼飯にするか」
「そうしましょう!」
アイテムボックスから朝、市場で買った肉串とパンを取り出す。それの他に野菜等も一緒に取り出した。
「何するの?」
「サンドイッチを作ろうと思ってな」
「そうなの! いい案ね!」
「だろ? いつも同じ飯じゃつまらないからな。ちょっと工夫をするだけで飽きることもない」
パンをちぎりレタスと肉を挟んだ。アイテムボックスの中だと入れているものの状態は変化しないため、肉もパンも出来立ての状態だ。美味しそうな匂いが鼻口をくすぐる。ルナが俺がサンドイッチ作ってるのをものすごく近くから覗いてきた。眼前で耳がぴょこぴょこと細かく動いている。気になったので、耳に息を吹きかけてみた。
(ふぅ〜)
「うひゃぁ!」
俺からものすごい勢いで離れる。耳を抑え、顔を赤くしてこちらを睨んできた。
「何するのよ!」
「いや、そこに耳があったから」
「どういうこと!? 不意打ちはずるいわ! ほんとなんなの!?」
「そんな怒るなよ。耳に息を吹きかけただけじゃないか」
「それが問題だって言ってるの!」
俺は笑いを堪えながらルナにそういった。出来上がったサンドイッチも渡す。ルナはそれをまだ警戒しながら俺から受け取る。
「次からはやる直前に申告しようか」
「次やったら吹き飛ばすから」
有無を言わせない声音で彼女は俺に警告をしてきた。吹き飛ばされないくらいのレベルになってからやることにしよう。俺はそう心に誓った。それから俺は自分の分のサンドイッチを作り、丘の上からクルルの森を見ながらそれを頬張る。うまい。隣でルナもちゃんと食べているようだ。食べ終わってから、再び俺とルナはコボルトをひたすら討伐し続けた。こんだけ討伐してたら生態系が崩れそうだな。
「ふう。もうそろそろいいんじゃないかしら。もう夕方だし、達成報告をしに行きましょう」
「そうしようか」
討伐を終えた時、俺のレベルは8へとなっており、剣術のレベルも6になっていた。明らかに上がりすぎなのでは、という考えが一瞬頭をよぎったがいつものことなので考えないことにする。コボルトをアイテムボックスへと収納し、俺とルナは帰路へとついたのだった。
「レベルが上がったわ。こんなに早く次のレベルに行けたのは初めてよ。一人でやってたらあと三週間はかかるくらいの量の経験値が必要だったのに」
「やっぱパーティだと何か違いがあるのかもな」
「それにしても経験値の入り方が異常だと思うのだけれど」
『ルフレと組んでるんだから当然』
なぜ君が誇らしげなんだヴィヴィ
『一人でやってたら1日でこんなに多くのコボルトを狩ることはできていない』
「そうね。やっぱりそうなのよね。1日でコボルトの集落を五つ壊滅させるとか普通に考えてありえないわ」
「そうなのか」
「当たり前じゃない! まず集落がどこにあるのかを探すのですら苦労するのに、ポンポン見つかるんだもの」
「運が良かったってことだな」
「そういうことにしておいてあげるわ」
目は口ほどにものを言うとはよく言ったもので、明らかに疑いを込めた目をこちらへと向けてきたのであしらっておく。ちょうどそこでクルルの森から街道へと出てきた。街道に魔物が出てることはないのでとりあえず一安心だ。街道へと出ると後ろの方から、鎧を着た集団が歩いてきた。
「近衛騎士団よ」
近衛騎士団というと、シェスカが団長をしているところか。騎士団の集団を見ると、先頭に馬に乗ったシェスカが見える。前見た時とは違って騎士らしい鎧を纏っている。本人がスピードを生かした戦闘スタイルであるため、重そうな感じはしないが。そうこうしているうちにこちらへと近づいてきた。
「よう。シェスカ」
「貴様! 団長に対してなんて口のきき方をするんだ! 慎みたまえ!」
「いやいい、下がれ。彼は私の友人だ」
「しかし!」
「下がれと言っている!」
おう。この前、会った時とは雰囲気がだいぶ違うな。威厳たっぷりな感じだ。
「部下がすまない」
「いや気にしないでくれ」
「寛大な気遣い感謝する。ここ数日どうだ?」
「いい感じだよ、さっきまで依頼をこなしていたところだ」
「そうか、それでそちらの女性は?」
「パーティを組むことになったルナだ」
「そうか、初めまして。近衛騎士団長を務めているシェスカ・ハプスブルグという」
「こちらこそ、初めまして。ルナよ。ルフレとはパーティを組ましてもらってるわ」
シェスカとルナは、お互いに自己紹介をして握手をした。なんか周りの気温が少し差が多様な気がしないでもないが。気のせいだろう。
「この後すぐに王城の方に帰らないといけなくてな。今日夜、前のカフェで会えないだろうか。ルナも一緒で構わない」
「ああ、いいぞ。ギルドに依頼達成の報告をしたら向かう」
「ありがとう」
そう言ってシェスカはまた馬へと跨り、アルブンガルドの方へと向かっていった。ルナはその様子をずっと目で追っている。
「どうした?」
「別に、なんでもないわ。私たちもギルドに戻りましょう」
そうして俺たちも王都アルブンガルドの方へと歩き出した。
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