第9話 指名依頼
俺は、ギルドの近くにある露店で、肉の串を数本買い、頬張りながらクルルの森側の城壁まで歩いている。
「エンシェント・エイプってどんな魔物なんだ?」
『猿のような魔物。知能が結構高い。だから森の中だとあっという間に追い詰められたりする。たまに道具を使ったりする個体もいると聞く』
「なるほど、それはCランク依頼になるはずだ」
その後もヴィヴィと雑談をしながら、城壁まで歩いてきた。
そこで背後にふと視線を感じ、すぐに振り返る。何か物陰で動いた気がしないでもないがーー
『ヴィヴィ、誰かこっちをみてるやついなかったか?』
『ん、誰かこっちをみてた。けどこちらに危害を加えようとしてるわけじゃないと思う。とりあえずは安心していい』
ヴィヴィがそういうなら大丈夫なんだろう。俺はとりあえず、そのことについては思考の外へ追いやることにした。
「兄ちゃん、また外に行くのか?」
「ああ、今度はクルルの森の深部にな」
「兄ちゃんこの前薬草採取してただろ!? 大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
「そうか、ならいいんだが。死ぬんじゃねえぞ」
「ああ、すぐまたここに戻ってくるさ」
俺は門番のおじさんにギルドリングを見せて城壁に外に出て、クルルの森の入り口まで行く。
「サーチ、エンシェント・エイプ」
視界の左上のマップに赤色で位置が表示される。表示された瞬間にマップの表示範囲が通常の4倍ほど、拡大された。
「だいぶ離れたところにいるな。依頼場所もクルルの森 深部になってたし」
『ん、けどルフレならすぐ着く。身体強化すればいい』
「確かに」
ん? エンシェント・エイプ変な動きしてないか? 結構なスピードで森の中を移動している。
「エンシェント・エイプ、なんか追ってるんじゃないか?」
『わからない。けど、変な動きしてるなら早く行ったほうがいいかも』
「そうだな。じゃあいくか!」
俺は体の中の魔力を自分の足に集中させると走り出した。はっっっっや!? 想定よりも速いスピードで走り出してしまった。
『おー、ルフレはやい』
「ヴィヴィから見ても速いのか」
『ん、ものすごくはやい。あと、多分門で私たちのことを見てた人がついてきてる。一応警戒しておいて』
「ああ、わかった。森の中で俺についてこれるのか。それは、相当な実力者だな」
おそらく普通の人の2倍のスピードで走っている。一応、後ろにも注意をしておくか。まあ、おそらくギルドマスターが監視をつけたんだろうと思うが、一応マップにマークしておくか。エンシェント・エイプまでの距離は3キロくらい。今のスピードだと、向こうが動いてることを考えて7分もあればたどり着くことができるだろう。
普段ならありえないスピードで通り過ぎていく木々を横目に見ながらしばらく走ると、赤色のドットがマップ上で停止した。
「やばい、エンシェント・エイプが停止した」
『ルフレ、急いで。もし人だった場合危ない』
「そうだな、急ごう」
その時にはもう、エンシェント・エイプまであと1分かかるかどうか場所まで来ていた。
「見えた!」
通常の人の二倍ほどの大きさのエンシェント・エイプが鳴き声をあげながら何かの周りを回っているのが見えた。
「あれは……。人だ! まずい!」
『ルフレ、とりあえず人の救助が優先』
「了解、この世界に来て初めての本格的な戦闘だ。スライムの時は作業だったからな。張り切っていこう。まずは、このスピードのままあいつに蹴りをお見舞いしてやる!!」
そうして俺はエンシェント・エイプに向かって跳躍、そのまま慣性に従ってスピードを落とさず蹴りを入れた。
不意をつかれたエンシェント・エイプは防御することができず、ものすごい勢いで吹き飛んでいった。それを確認し、俺はすぐに襲われていた人の元へ駆け寄る。
「大丈夫か!」
そこには、藍色の綺麗な髪に大きな二つの耳があり、腰あたりから髪と同じ藍色のふさふさした尻尾を持った女の子がへたり込んでいた。
「だ……大丈夫みたい」
「そうか、間に合ったみたいでよかった。動けるか?」
「うん、動ける。助けてくれてありがとう」
「いいさ、あいつあれじゃ死なないよな」
「そうね、私はろくなダメージを入れることができてなかったし。死んでるなんてことはないと思うわ」
そう言い終わった直後、エンシェント・エイプが頭を振って立ち上がった。
「そりゃ立ち上がるか。あいつ、俺が倒してしまってもいいか?」
「お願いしてもいいかしら。私では多分何もできないと思うから」
「了解。俺はルフレだ。君は?」
「私はルナ」
「そうかじゃあ倒すまで安全なところで身を隠しておいてくれ」
「わかった」
そう言った後、俺たちを追ってすぐ近くまで来ていた誰かのほうへ目配せをした。ルナが物陰へと消えていったのを確認し、エンシェント・エイプの方へ視線を向ける。あー。相当怒ってんなあれ。そりゃ獲物を仕留める直前に邪魔された上に、吹き飛ばされたらキレもするか。
「おい、クソ猿。こっちに来て初めてのまともな戦闘だ。楽しませてくれよ?」
「キーーーー! キャキャキャキャ!」
さすがは知能のある動物か。いきなりはかかってこないな。
『ヴィヴィ、いけるか』
『もちろん、いつでもおーけー』
ヴィヴィの声は気が抜けるな。俺はヴィヴィを構える。すると向こうも背負っていた剣を構えていた。他の冒険者から奪ったか?
「いくぞ!」
俺は全身に均等に身体強化をかけた状態でエンシェント・エイプに肉薄しようと地面を蹴った。
直後、奴にたどり着く前に斜め上から剣が振り下ろされる。
「くそ! 腕長すぎるだろ!」
俺はその剣を跳躍によって躱した。そのまま落下するタイミングでヴィヴィを振り抜き、エンシェント・エイプの左腕を切り落とす。
「……ギャァぁぁぁぁぁ」
切り落とされたことに気づかなかったのだろうか。一瞬の沈黙の後、奴は叫び声を上げる。叫びながら俺のことを射殺さんばかりの眼光で睨んでくる。
「おい、そんなもんかよ! 遅すぎるんじゃな」
全てを言い終わる前に、奴は剣を振り回しながらこちらへと襲いかかってくる。俺はそれを、躱し、剣でパリィしながら反撃の機会を窺う。
腕が長いな。これじゃあろくなダメージが与えられない。
『どうすればいいと思う?』
『簡単。パリィした瞬間にあいつの懐に入り込む。リーチが長い敵は懐に入り込まれたら最後、何もできなくなる』
『なるほど、あいつ今左腕ないし。なおさらだな。次のパリィで一気に畳みかける!』
『ん!』
直後、チャンスがやってきた。そこを逃さずしっかりと完璧なパリィを決める。奴は剣を弾かれ大きくのけぞった。俺は、身体強化を脚に集中させ一気に肉薄する。
「ーーッッ!」
案の定、奴は何もなす術はない。近づいた勢いのまま俺は奴を斬りつけ、後ろへと回り込む。そして、振り向く前に両足の腱を切断。跳躍して今度は剣を持っている右腕を落とす。
「ギャァァァアアああああああああ!?」
腱を切られたため立っていることができず、奴は地面へと突っ伏した。
「なんだお前、大したことなかったな」
そう言い切った瞬間、奴の心臓へとヴィヴィを突き刺した。
俺とエンシェント・エイプとの戦いが、今終わった。
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