はじめての男③



 乾いた服に着替えたフレッドは荷物袋を確認し、オイルランプを取り出す。

「苔の光を使うランプも残しておくべきだったか」

 火を入れたランプで周囲を照らす。

 フレッドの前に広がる光景は少し先でぷつんと途切れた地面。その先からごうごうと水音が響いている。

「あそこから、きたのか?」

 動きを止め、しばし立ち尽くすフレッド。

 動き出したフレッドは流れの縁に寄り、流れのもとを確認する。すこしは流れを辿れるが、すぐに壁に行き当たるし、流れは明らかに早い。

「さすがにここからは帰れないか」

 さくさくと動ける範囲を確認し、荷物袋から取り出したなにかをフレッドは齧る。

「見える範囲に魔法陣も確認できなかったな」

 飲みくだしにくそうに齧ったものを嚥下したフレッドが息を吐く。

 周囲を見渡す目は真剣そのもの。

 慎重に壁のそばまで歩き、それにそうように歩き出した。


『ああ、フレッドくんは軽い栄養補給後に迷宮探索をはじめることにしたようですね。現状確認をした彼にはサクサク鑑定ギフトなどの便利ギフトセットを贈ろうと思います! だってフレッドくん、天水ちゃんのはじめての男ですから。……さぁ。祝。初バトルぅ! 頑張って逝ってみよー』


 ちぅ!!


 鑑定を持つ警備員シロネズミがフレッドを襲う。

 立ち上がればフレッドの腰ほどもあるシロネズミにフレッドの腰がひける。

「でけぇ」


『猪さんよりちょっぴり戦闘力は低い魔物、シロネズミくん戦闘経験なし。単独討伐できるのか!?』


 フレッドはすこしばかり動揺したあと、呼吸を整えて槍を取り出す。視線はシロネズミを警戒したまま。


『お互いに致命傷を与えることなく戦闘中ですねぇ。もう少し弱い魔物か強い魔物の方がサクッと終わったんでしょうか? 双方頑張ってますねぇ。天水ちゃん、均衡の取れた魔物送りこみカンペキですね! 飽きましたよ』


ちぅ!


ひと声鳴いてシロネズミが撤退する。

フレッドは警戒しつつも壁に近づき、槍を支えに息を吐く。

「いき、てる」


『あれー、撤退合図って思っちゃった? シロネズミくん。まぁ次リベンジかなぁ。天水ちゃん、ちょっとごふまんー』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷宮世界の欠片 金谷さとる @Tomcat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る