ホワイトボードと大学ノート

「じゃあ、まずはルールについて軽く説明しておこうかな?」

「お願いします!」


 瑠璃川先輩は、部室の端にあったホワイトボードを引っ張り出してきた。少しホコリの被ったそれを、優しく撫でる彼の眉はハの字になっている。


「瑠璃川先輩……」

「あ、真言まことはそのへんにある椅子持ってきて〜!」


 あの困り顔は見間違いだったのかもしれない、そう思わせるほどに瑠璃川先輩は明るい。


 あたりを見渡すと、教室に置いてあるような椅子が入り口付近に転がっていた。椅子にもホコリが溜まっている。


 そんな椅子の上には大学ノートが乱雑に置かれていた。それだけはホコリも被らず比較的キレイな状態だった。


 表紙には「サイキック部訓練ノート」とマジックで大雑把に書かれている。中身が気になり開こうとした。


「見ないで」

「ひっ?!」


 急に背後から声がし、みっともない声が出てしまった。俺の手の中にあったノートは、瑠璃川先輩に奪われ、カバンの中に入れられてしまった。


「すみません、確認もせずに見ようとして……」

「いや、僕も今まで自分しか使ってなかったから、部室が私物化しちゃってた……。急に声かけてごめんね」

「大丈夫です」


 誰だって見られたくないものはある。俺だってスマホを覗かれたりしたら嫌だ。それときっと同じような感じだったんだと思う。

 

 もし何かあったら、きっと教えてくれるはずだ。


「それより、驚いた時の声可愛すぎでしょ、女の子みたいだったよ」


 クスクスと笑う先輩の方が、どう見ても女の子みたいだが、言えない。それにさっきの声は、自分で思い出しても恥ずかしい。


「そ、そんなことはいいんです! サイキックについて教えてください……!」

「はは、そうだったね、ごめんごめん」


 全然反省してなさそうな言い方だ。


「うーんと、真言まことはサイキックをやったことないって言ってたけど、ルールを調べたりはしてた?」

「初歩的なルールだけはネットで調べたんですが、細かいところはあんまり分かっていないかもしれないです」

「りょうかい。まぁ細かいところは実際にやりながら、その都度覚えてもらうとして、今日は基本的なところの復習をしようか」


 先輩はそう話しながらホワイトボードに、比較的整った字で「ゴールついて」と書き出した。


「サイキックの大きな特徴としては、なんと言ってもゴールの数! ゴールは1〜3個の中から数をチームで決められる。前半と後半でゴールの数を変更しても良い。前半はゴール1個、後半は3個なんてこともできる。このゴールの数が変更できることによって、戦略の数もかなりある」


 サイキックの話になると、さっきより目がキラキラしてとても楽しそうに話す。この顔はあの河川敷で見た顔そのものだ。


「それは俺もネットで見ました。ゴールの数によって、失点と得点も変わるんでしたっけ?」

「そう! よく勉強してきたね。サイキックもサッカーやバスケと同じように、相手の守るゴールにボールを入れると得点になるんだけど……」


 そう言いながら彼はホワイトボードに文字を書く。キュッキュッとペンとか擦れる音が鳴り響く。


(自陣のゴール数×得点回数)−(自陣のゴール数×失点回数)=チームの得点

※これを前後半行い、それぞれ求めた点数を足す。


「な、なるほど……?」

「あんまり分かってない顔してるね……。例えば、前半の自陣のコートが3つで、得点2、失点1の場合、3×2−3×1=3点。後半がコート1つで、得点1、失点1の場合、1×1−1×1=0点。前後半を合計すると3点と言うことになる」


 コート数と得点・失点が比例する形なのか……。他のスポーツもそうだけど、沢山の点を取り、そして何よりも失点しないことも大切になってくることが分かった。


諸刃もろはつるぎという事ですね」

「そういう事。リスクを取るか、安定を取るか……。もちろん、チームの点数がマイナスなることも少なくない。ゴールの数が試合を大きく左右することも、よくあることなんだ」


「あと今聞いていて思ったんですが、相手のコートの数も重要じゃないですか?」

「鋭いね。そこが戦略と作戦になってくる。結果は前後半の合計点の大きい方が勝ちだからね。いろんな戦法があるんだけど、これはまた後々だね」


 彼は満足げに微笑みながら、スカイブルーの髪を耳にかけた。

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異次元スポーツ「サイキック」の魅力に取り憑かれたので、廃部寸前ですが全国大会目指して頑張ります 梅雨日和 @tsuyuhiyori

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