幸先悪いスタートダッシュ


 俺は、あの河川敷の天才のようになりたいと思い、彼の着ていた制服やスクールバックを盗み見して、高校を突き止めた。幸いにも同じ県内で比較的家から近い高校だった。どおりで見たことのある制服だったわけだ。


 俺は偏差値的にも射程圏内だったその高校に、進路を変更することにした。もちろん親や先生には反対された。理由としては、本当は大学や将来のことを考えて、もう少し偏差値が上の高校に行く予定だったからだ。


 しかし俺の好奇心とサイキックへの憧れはそれを許さなかった。偏差値や進学のことを考えると、偏差値が高い方がいいのかもしれないが、その瞬間にしかできない体験を俺は選んだ。


 それに偏差値が少し高い高校に入ったからと言って、必ずしもいい大学に入れるとは限らない。そして今の時代、いい大学を出たからと言って、将来が安泰だとも限らない。その旨を二人に伝え、なんとか希望する高校を受けることができた。


 市立九条高等学校。この春から俺が通う学校だ。そして、憧れのあの人が通っている学校でもある。期待に胸を膨らませ、入学式後すぐに入部届を握りしめて職員室へ向かった。が、事件は起こった。


「えぇ!?」


 職員室にいた全員が振り返ったかもしれない。それぐらい大きな声が出てしまった。静かなタイミングだったから余計に際立っていたことだろう。

 

「いや、何度聞かれてもサイキック部はもうすぐ廃部だよ……」

「なんでですか!?」

「ん~、そう言われてもね……。サイキックしたかったなら、強い学校に入学すればよかったのに、どうしてうちなんかに……」

「うっ、それは……」


 それは、名前も知らないあの人に出会ったからだ。きっとあの偶然がなければ、俺はサイキックをやりたいとも思わなかったし、この高校を受けようとも思わなかったはずだ。


 「サイキック」という、けったいな名前のスポーツがあることは知っていた。数十年前に超能力者が出現したことにより、作られたサッカーに似た球技。

 

 その頃から少しずつ普及していき、人気スポーツになりつつあった。しかし危険も伴う為、日本の高校の部活動として導入されるのは他のスポーツと比べても遅かったようだ(ネット情報だけど)。


 他のスポーツでは存在するプロ選手も、最近になってようやく出始め、テレビでも取り上げられるようになった。だからなのか、自分にはなんだか遠いものな気がしていた。


 サイキックをするのはテレビの中にいるような、産まれ持った才能のある人のみ。そう思っていたのかもしれない。


「最近、サイキックをやりたくなったんです……」

「……そうか。まぁ僕が何か言うより、君が行って確かめてみた方が早いんじゃない?」


 魔法研究部いわゆる魔法研の顧問は、引きつった笑みを向けた。


「そう、ですね……」


 俺がそう返事をすると、先生は部室棟の場所を口頭で教えてくれた。


 部室棟への行き方や目印などを一通り聞き、俺は職員室を飛び出した。


 俺はサイキックをあの人としたい。


 そう考えると廃部寸前なのにも関わらず、何故か胸が躍っていたのを、今でも覚えている。

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