5-5.いつも君がそう言ってくれるから、わたしは胸を張れるのだ。
目を閉じ、ふーっと大きく深呼吸をする。
『状況を、大尉』
今は呪いにかかった情けない姿であろうと、せめてふるまいだけは隊長らしくあろう。
弱音はしまいだ。
表情を引き締め――て見えたかどうかはわからないが――ノーザレイに問う。
周囲に感じる魔界のものの混じった魔力からいって、ここは黒森の中のはず。完全な撤退を選択していない、ということは、作戦は継続中だ。
ロアの雰囲気が変わったことに気づいたノーザレイも姿勢を正す。
『現在本隊は黒森内で待機中。「三本の竜の腕」やアダミスには補足されていません。隊員には交代で休息をとらせています。なお、本部へはハームの件を含めて現状を報告済みです』
『本部の指示は』
『作戦は続行。作戦指示項目にハームの殲滅が追加されました。国境付近での陽動については戦闘に発展せずに継続中。ワーズ大尉、ライディア大尉双方あと数日は現状を維持できるとのことです。本隊については、少佐の復帰次第一度現状報告を求められています』
『まあ、うん、そうなるよね』
ぐーっと大きく伸びをすると、頭の中でこれからやるべきこと書き出していく。
先ほどノーザレイはロアが八時間昏倒していた、と言っていた。つまり、現在は深夜と呼んでもいい時間帯になっているはずだ。
『本部への報告後、会議を開く。班長たちを集めておいて』
『わかりました』
深夜だろうと本部の通信室には宿直の者がいるはずだし、「飛竜」が動く案件の責任者はメリアだ。大概のことはロアの現場判断で動けるようにしておいてくれているはず。
『会議次第ではあるけど、行動再開は翌日早朝――夜明け前を予定とする』
『……大丈夫ですか?』
疑うような目で見られ、ロアは苦笑する。
『会議の後にしっかり休ませてもらうから』
少し迷ってから、まだ手の届くところにあったノーザレイの指先をねずみの非力な腕でパンチした。ノーザレイは特にびくつくこともなく、ただ何ごとかといぶかしげに目を瞬かせた。
『君こそしっかり休むんだよ。明日の朝もそのくたびれた見た目だったら置いていくから』
本当は、彼がロアのことを心配して休むことなく付き添ってくれていたことくらい、わかっている。でも、こうでも言っておかないと、彼はロアが休んでからも何かと働きかねない。
『……了解です』
気まずそうに髪をなでつけているのは、今の自分の状態に自覚がなかったからか。
自分のことを後回しにしがちなのは君もいっしょだね、と笑えば、どこか照れくさそうな顔で睨みつけられた。
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