第135話 オークの王座



「…………ほう、我を豚と称すか」


オークの王様がそういった瞬間、俺は威圧で押しつぶされそうになった。


耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!

この程度の威圧、何回受けてきたと思っている……!

こんな威圧より、地龍の威圧の方が何倍も強かった!


「………………!!!」


「……ほう、まだ立つか。これでも俺の最大の威圧なんだがな」


ハッ、お前の威圧なんかより地龍の方が、ケインの方が、エレンの方が何倍も強かった。


「もう一回言うぞ。俺の手下になれ。豚のおっさん」


俺はもう一度、王に喧嘩を売った。


…………俺が喧嘩を売った時、が動きだした。


なんだ?


「調子に乗るなよ、小僧」


俺の耳元でふと、そんな言葉が聞こえた。


そして俺の首の横には……鋭いナイフがあった。


思考加速

高速演算

感覚領域拡張 発動っ!!


かきィィィィィィィィィィィィン ………………!!!!


この豪華な部屋で、金属と金属が激しくぶつかる音がした。


「…………ほう、これを弾くか」


「ハァハァハァハァ…………」


今のは本当に危なかった。

気づいた頃にはもう、首元にナイフがあった。


……全く気配が分からなかった。

もしかしたアサシンの類か?


けど、警戒するに越したことはない。


俺は目の前の敵を威嚇した。


「……俺の不意打ちが人間に弾かれたのは初めてだ。もっと楽しませてくれ」


そういってアサシンは攻撃を始めた。


…………クッ、こいつの攻撃には、重さはないが、スピードがある。

一回でも攻撃を食らったら相手の術中にハマり、死ぬ。

それぐらい相手の攻撃は素早い。


チッ、こうなったらルークを………………


俺は、召喚魔法を発動しかけたが、すぐに中断した。


別に、ルークが村を守っているから中断したわけではない。

俺が、すぐに人を頼ろうとしたことに対して腹が立ったのだ。


…………俺は、数ヶ月の間人とのコミュニケーションを取らなかった。

だから久しぶりに会えた奴等の事を信用し、仲間になり……そして依存した。


こんな俺は弱かったのかと、恥ずかしくなった。

あんな大量の精神力は飾りなのか?

いや、そんな事はない。


この精神力は、前世俺が虐待を受けていた痕でもあり、前前世で俺が仲間と一生懸命に努力した印なのだから。


そりゃあ、ルークと一緒に戦った方が安全だし、確実だろうよ。


安全?

確実?


はっ、そんなもん…………クソくらえだ。

こんな雑魚に俺が負けるはずがない。

だって俺は…………元人類最強だぞ?


俺は、相手の床に大量の魔法陣を出現さえ、大量の火柱を出現させた。


「――――――ッ!!!!…………空気が変わった?」


そりゃあそうだ。

俺が本気になったのだから。

こいつのステータスは……大体5万ぐらいだろう。

対して俺のステータスは1万ちょっと。

そんな俺が相手に勝てたら…………かっこいいだろう?


今、俺の魔法技術は世界最高峰のレベルがある。

それぐらい前前世の知識と経験はとてつもなかった。

…………いや、最高峰じゃないな。

世界最強だ。


けど、俺はどの分野に置いても1番にはなれなかった。

どこまでいっても秀才だった俺が、本物の天才に勝てる訳ではないのだ。


だから俺は全てを磨いた。

一つの分野で1番に成れないなら、全ての分野で2番手を。

一つの分野で2番に成れないなら、全ての分野で3番手を。


俺はそう頑張ってきた。

だから人類最強になれたんだな。


けど、俺は人類最強。

世界最強ではない。

それはが………………


いや、こんな話はやめよう。

今は相手について考えないと……


俺はそう思っていると、すでに相手は死にかけていた。


どこまでいってもアサシンは耐久がない。

だから一撃でも食らうと死に繋がりかねない。

そんな最高峰の魔法の前で当たらないとか不可能だ。

前世の俺が弱かったのは…………


「…………ほう、あれほどの事を言ったのもうなずける。そうじゃあ、我と戦って勝ったら国民全員がお前の配下になろう」


そう、こいつみたいな戦士タイプに対して。


「…………いいぜ。でも、流石に俺がルールを決めてもいいだろう?ステータスがとてつもなく離れているんだ」


相手のステータスは地龍級。

対して俺のステータスは1万ちょっと。

地龍に対して、片手、そして魔法無しで戦うようなもんだ。


流石に俺がルールを決めないと絶対負ける。


「……いいだろう。それじゃあ、闘技場で」


…………ん?闘技場?





ーーーーー





「さ〜あ、始まりました!ココ最近全然開催していなかった、挑戦者VS王様!勝ったら国を一気取り!負けたら死!さぁ!戦士の登場だ!!!準備は良いかい皆!」


「「「「「「いぇええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」」」」」」」」


「おい、ビドル。絶対こうなることを予測してただろ」


だって開催されましたって言ってるんだから過去にも絶対あったよな?

多分公式であるよな?

国全員を配下に収めるってこの方法しかないんだよな!ビドル!


「な、何のことやら…………」


うん。この戦いが終わったら絶対殺す。


まぁ、俺が死ぬ可能性はめちゃくちゃ高いんだけど。


「それじゃあ始めようか。人間」


「ああ、豚の王」


「それでは!レディィィファイト!」


そう言って、俺の戦いが始まった。


オークの王は、開始早々、攻撃をしかけてきた。


「――――――クゥゥ!!!!」


その巨体に似合わぬ速さ、そしてとてつもない威力の攻撃で、俺は押しつぶされそうになった。


けど、俺は相手の攻撃を全て捌かなければならない。

だって一回食らったら終わりなのだから。


俺は、ルールとして、1撃相手に当てたら終了というルールにした。

それは、相手の方が耐久力があるのと、長期戦になったら不利だと思ったからだ。

別にこのルールは俺の方が有利になるわけではないので、許可された。

むしろまだ、相手の方が断然有利だ。


相手のオークは、その巨大な斧を、まるで軽量の剣の様に振り回している。

やはり筋力が大量にあるのは有利だ。


これは早く決着を付けないと…………


俺は、オークに向かって突進を始めた。


けど、相手がそれを許すわけがない。

相手の集中攻撃が始まった。


俺は弾く。

弾いて弾いて弾いて弾いて弾きまくる。


まともに防御すると、俺が吹き飛ばされて一撃扱いにされる。


だから、早く攻撃をしないと、死ぬ……!


攻撃のスキは、相手が斧を振りかざした瞬間!!!




…………今だ!!!


けど、それは相手の罠だった。


オークの顔が少しだけ、ニヤついた。


ヤバい!!

俺がそう気づいた時にはもう遅い。


相手の斧が…………俺の体を深く切り裂いていた。


「クソが………………」


「勝者………………






























レオン」


オークの王が、血を吐いた。


そして、その後ろには、雷の槍が何本も刺さっていた。


王の攻撃より先に、俺の攻撃が通っていたのだ。


「見事…………」


「そちらこそ。オークの王」


そうして二人は意識を失った。

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