第91話 タロ・ピーチ



〜タロさん視点〜


おでは昔、結構なイジメを受けてきたんだべ……


『ば〜か!オマエ見たいなのろまオーガはこのまま野垂れ死んでいくんだよ!』


『全く……どうしてオマエはこんな事も出来ないかね』


『オイ、ゴミ。そこどけよ』


『チッ……子供もそうなるんだな』


…………そう、おでの両親は、

母は元々持病を持ってて、病弱なひとだったべ。

父は……平和主義者。

全然戦いなんかしておらず、いっつも、『こんなに戦いを望むのは間違ってる』って言ってたなぁ…………


おでは、親父の事を……元々嫌ってたんだべ…………


なんでこんなにイジメを受けなくちゃいけない?

なんでただこの親父の息子なだけで差別を受けなくちゃいけない?


元々……そう考えていたんだべ…………


けれどそんなおかしな考えはすぐに消えたべ。

突然、父が死にかけているとの連絡が入った。


『とっさん!!どうしたんだべ!?』


『……おお…………タロか』


そこには、何時も豪快に笑っていた親父の姿は欠片もなく、ただ、床に伏せているだけの、病弱な親父だけが…………そこにあった。


『……ちょっと……へましてしまってな』


親父はなんで自分が死にかけているのかについて……口を開いた。


『……何時もみたいに………戦争はだめだ!…こんなの間違ってるって町中で講義、署名活動をしていたら……チンピラに目ぇ付けられてな………そしたら……この通りよ………ハハッ、笑っちまうぜ』


『……なんで』


『ん?』


『なんでそんな状態になるまで辞めなかったんだよ!!そんな事を言ってこなかったら今頃……とっさんだって、おでだって!もっと楽しく暮らせたはずなのに!!』


おではついに言ってしまった。

親父の今までの努力を汚してしまう一言を……


けれども親父は……


『……ごめんなぁ』


『―――――ッ!!』


『……辛かったろうなぁ。父さん、オマエに気を使ってあげられなくてごめんなぁ。父さんがもっと賢かったらこうはならかなったんだろうなぁ。でも俺、オマエが大人になったら戦争なんか忘れて、楽しく暮らせる。そんな世の中にしたくてなぁ……でも、それでオマエらに苦労かけたら意味がないよな……ホント、ごめんなぁ』


親父は、俺の言葉に怒る事も、悲しむ事もせず、ただただ、おでに謝った。


親父は、俺たちの為に、戦争を止めようとしていたのだと、おではこの時初めて気づいた。


『…………なぁ、とっさん?』


『………………』


『……とっさん!?』


『………………』


『とっさん!!とっさん!!とっさん!!』


親父は、息を引き取った……


『……それで死んだら……元も子もないだべ…………』


親父の葬式は、明日、開かれる事となった。


『……かぁさん。もしかして、とっさんの事知ってたと?』


『……ああ、知ってたよ』


『じゃあ何故言わなかっ『言った所で、なにかあった?』―――――ッ!!!』


『アンタは、父さんの事、嫌いだったでしょ?その状態で、アンタはその事信じれた?』


その言葉は、おでを納得させるには充分な理由だった。


そうだ。おでは親父の事を嫌ってたんだ……ただ、親父の息子のせいでいじめられると言う理由で。


ただおでが、強かったら良いだけなのに…………



……そして翌日、親父の葬式をした。


おでは、墓の前に立った。


『……とっさん。アンタは凄かったべ…………見てみろ。とっさんの葬式に……こんだけの人が集まったんだべ』


普通、オーガの葬式は、家族と、友人の数人で行う。

オーガに、仲間意識は少ないからだ。


けれど……父さんの葬式には、数十人の人たちが駆けつけた。


『……とっさん。昨日、意味がないって言ってたな…………意味はあったんだよ……だって、こんだけの人が集まってくれたんだべ?意味が……無いわけ無いべ!!!』


おでは、なんて無力なんだろう。おではなんて無知なんだろう。


おでは、親父の意思を継ごうとした。


けれど、おでにはそんな度胸は無かった……


それに対して、おでへのイジメは、どんどん酷くなっていった。


かつて居た数少ない友人は離れ、

好きだった女の子からは軽蔑され、

さらに…………母が死んだ。


そしておでは追い出されだんだ…………


行く宛もなく、彷徨う日々……そこでおでは出会ったんだべ。洞窟の先で見つけた、酷く荒れ果てた土地を。


おでは、この土地を自分と重ねんだべ……


『オマエも……外れものなんだべな…………』


そしておでは、ここに住んだ。


そしておでは、各地で花を大量に探し、荒れた土地さ咲かし、川を作り、畑までも作った。


ただおでに足りなかったのは…………仲間だった。


『……でもいいんだべ……変に争うよりかは一人の方が……断然いいべ…………』


そんな中でおでは出会ったんだ。

レオンくんに。


最初はおでの事を警戒していたレオンくんだが、次第に、その警戒は解けていった。


レオンくんはおでに、人とはどういう者か。魔法とはどうゆうものかを教えてもらった。

そして、温もりも。


おでは、その日から家に居るのが楽しくなった。

毎日毎日、レオンくんが居るから。


そして起こったんだべ。この最悪な出来事が。


家に帰る時から、嫌な予感はしていた。


家から数キロ離れた場所で……


ゴォォォォォォォォォォォォ……………………!!!!


大きな音が鳴った。


「何だべ!?」


おでは走ってその場に行った。


「―――――――ッ!!!」


そこには……


壁に叩きつけられたレオンくんと、あの強大な、地龍が居た。


そして地龍が、レオンくんに対して、トドメの一撃を食らわそうとしていた。


やばいやばい!!早く助けねぇと!!


おでは、レオンくんの前に立った。


「――――――グハッ!!」


地龍の強烈な一撃が、おでの体に響き渡った……


早く……………レオンを助けねぇと……


だってレオンくんは……この世界で…たった一つの………特別な友人だから!!





ーーーーー





〜レオン視点〜


「……うぅ………ここは?」


俺は確か……地龍と戦っていて…………


「そうだ!地龍は!?」


「……大丈夫…………家まで逃げてきたべ…………」


俺の隣から、タロさんの声が聞こえてきた。


「タロさん!大丈夫だったk―――――ッ!!!!」


マジ……かよ……!!


「どうしたんだ、レオンくん?そんなに涙を浮かべて……」


「だってよぉ……タロさん…………アンタ……」


ホント……なんでなんだ!?


「…………体が!!!!」


タロさんの体は……


左足はちぎれて、左腕は取れかけ……顔の右の部分は……見るに堪えない状態になっていた。


「なぁ〜に、これぐらい!へっちゃらだべ!!」


「なにが……へっちゃらだよ…………!!」


タロさん今にも……死にそうじゃねぇか!!


タロさんが……俺を助けなければ…………!!


「……レオンくん。こうなったのは、レオンくんのせいじゃねぇ。おでが、おでの意思でやった事だ。だから……そんなに苦しそうな顔はしないでけれ」


「だめだよ……タロさん。死んだら…………」


「大丈夫だぁ。俺は、ずっと……レオンくんと一緒に居るから」


「生きて……一緒に居ろよ……!!」


「……ハハッ、それはちょっと……無理かもなぁ…………」


なんで……だよ…………!!


「……レオンくんと……一緒に………人間の街……行きたかったな……」


「ああ、いくらでも行ってやる!!行ってやるから!!!」


だから……!!


「レオンくんは……優しいなぁ…………」


「…………タロさん?」


「………………」


「……タロさん!?」


「………………」


「死んじゃやだよ……まぁいっぱい話したいことあったんだ。なぁ、タロさん……聞いてくれよ…………ほら、これ昔、タロさんから貰った薬だよ。タロさんこれでさ……元気になってよ………なぁ、タロさん……」


「感謝も言えずに…………死ぬなよ!!!」


その日、一日中ドラゴンの悲しい鳴き声が響き渡ったという…………

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