第85話 タロさん



「…………っと。これで大丈夫だべよ」


「……すっごいな。お前」


さっきまで沢山の血が出てきた傷がみるみる治っていく。

……まぁ、常識の範囲内でのスピードだが。


けれども、こんな文明もクソもない魔物だらけの場所で、存在しているのは完全に常識外だ。


「……おらもたまに怪我する時もあってよぉ。そのために作ってたんだが……役に立って良かったべ!」


「え、手作りなのか?」


鬼がこんな薬を作ってるだなんて……考えられない。


「ドラゴン?おめぇ、住処はちゃんとあるんか?」


「住処?…………無いなぁ……」


流石にあの洞窟を住処というのは気が引ける。


「そっか!それじゃあ、おらの家にくるだべか?そっちの方が快適だべ」


「家!?……お前、家持っていたのか?」


オーガが家か……いや、不思議じゃないか。

集落でも家なんていっぱいあったしな。

でも、こんな所で家を作れるなんてすごいな。


……俺が作ったら数日で破壊されそうだ。


「アンタ、名前はなんて言うだ?」


「……俺の名前はレオン・ドラg…………レオン。ただのレオンさ」


なんで俺が名字を言わなかったかはわからない。

ただ、面倒くさかっただけなのか、

それとも、今ぐらいは英雄の息子という事を忘れたかっただけなのか。


「そうか、そか!おめぇ、レオンって言うんだな!…………レオンくんは……面白いなぁ」


「ん?面白い?」


「だって……こんなに良いドラゴン、はじめてだぁ……」


「…………はぁ?俺が良いドラゴン?」


いやいや、俺が良いドラゴンだなんて……そんな事言いだしたら世界中の人たちが良い奴になるぞ?


「だってこんなにおらと真面目に接してくれる者は……レオンくんがはじめてだぁ」


目の前のオーガが、涙を流しながら、笑顔でそう言った。


「―――――ッ!!…………俺が初めてとか……そりゃぁ、ただ周りの奴等が冷たかっただけだ。別に俺が良い奴な訳ではない」


ハハッ、さっきまでアンタに火の玉をぶつけていたんだぞ?

コイツ……本当にオーガなのか?あの悪名高い?


「ハハッ……やっぱりレオンくんは面白いドラゴンだなぁ………………おでの名前は『タロ・ピーチ』って言うんだべ。よろしぐな」


「……ああ、よろしく。タロさん」


コイツ、本当にオーガなのか?

まるでオーガと話している事を感じさせないような奴だ。


セラや、アテネと話をしている時みたいに心地よい。

それは、俺に媚を売りながら話してくる奴や、俺の事を英雄から産まれたハズレの息子とかなんとか言ってくる奴よりかはずっと。


これが、俺とタロさんとの出会い。

……そして、別れでもあった。





ーーーーー





「……ほら、レオンくん。もうちょっとで着くべ」


「ん?もしかして洞穴の先に家があるのか?」


今、俺たちの前にはオーガのタロさんが入れるか、入れないか程度の大きさの洞穴があった。


……本当に家があるのか?


「いやぁ〜、意外とこの先は広いんだべよ!……ささ、中に入ってけれ」


「本当に広いの―――――ッ!!!!!…………こりゃあ、ヤバいな」


俺の目の前には……まるで、おとぎ話の中に入ったかのような。とても美しい景色が広がっていた。


オーガが作っているとは思えない、きれいな家。

迷宮に存在していいわけがない、きれいなお花畑。

魚さえも泳いでいる、きれいな川。

新鮮な野菜が取れるであろう、きれいな畑。


まさに、絵に描いたような光景だ。


「ささ、家の中に入ってけれ」


「お、お邪魔します……」


流石はオーガの家。人間の家の2倍ぐらいの大きさがある。

なんか小人になった気分だな。


「タロさんは一人でここを管理しているのか?」


「ああ、おで一人で頑張って作ったんだべよ!いや〜、最初は荒れ果てていて、たいへんだったんだべ……それを3年間。頑張ってお花を植え、川を作り、魚を放ち、そして家を作り、しまいには畑までつくったんだぁ」


……すごいな。

普通、オーガがこんな事するか?いいや、しないだろう。

いや、出来ないだろう。

オーガはせいぜい、数十人で作るか、強奪するかの二択だ。


「……タロさんには、仲間のオーガは居ないのか?」


「…………おら、こんな性格だから、仲間に入れて貰えなくてなぁ。『戦えもしないやつは要らない』って言われて、追い出されたんだべ……」


「そうか…………」


確かに、こんな優しいタロさんが敵を倒せる訳がない。

まぁ、流石に肉を食べないと生きていけないので、狩りぐらいはしているのだろうが。


「……全く、レオンくんは面白いなぁ。おでに優しくしてくれて、同情もしてくれて、しかもタロ『さん』って……そんな事言ってくれる者なんて初めてだぁ」


「……別に、オレは普通だよ。さん付けだって、絶対年上だし、それに…………タロさん。アンタ強いだろ?」



名前 タロ・ピーチ

種族 オーガ

レベル 53


HP  2■0■■/■3■■4

MP  1■■10/1■0■0

筋力  28■■4

耐久  273■■

魔力  ■3■0

速さ  1■40■

知力  ■3■0■

精神力 1■■■0



これがタロさんのステータスだ。

HP、筋力、耐久は2万超えは確定。そして筋力と耐久はもうちょっとで3万に届きそうだ。

なぁ、これで進化してないんだぜ?

しかも、ステータスが見えない奴なんて初めてだ。


「ハハッ、冗談はよしてくれだぁ。おでが強いだなんて……」


多分、鬼の間では、鑑定を持っている奴なんて居ないんだろうな……

才能なら、誰よりも有るはずだ。


「……でもタロっか…………へへっ意外と良いべ……おら、飯でもつくってくらぁ!!」


そしてタロさんは台所へと向かった。


……うわ〜、台所の物もでかいな…………


あのク◯ウドが持っている大剣よりでかいぞ。包丁が。

もうまな板なんて一種の壁じゃねぇか。


さ〜て、タロさんはそれを使ってどんな料理を作るのか?


「はっ!!」


は、速い!?もう、速すぎて林だね(?)


……それ、戦いで使えたら誰も捉えらんないよな……ほんと、無自覚系なろう主人公かバカヤロー。


……それにしても…………家の外も凄かったが、家の中もすごいな…………


特にこれ。イヤリングや、きれいな彫刻もある。


「お、レオンくん!それはな、たまに見つける宝石や、大きい岩を削って作ってるんだべ!」


ほ〜、すごいな…………鑑定しよ。



鬼魂の炎のイヤリング


■■の■■が作ったイヤリング。

鬼系のスキルの強化

火魔法の威力向上

装備者の魔法、一種強化(未決定)

任意で見えなくすることが可能。


非常にレアな物。これ一個で安い都市ぐらいは買えるかも…………



はぁぁぁぁぁ!?やばすぎるだろこれ!?

強化する魔法を自分で選べるのもそうだし、なにより都市が買えるかも!?

なんでそんな物をタロさんが作ってるんだよ!!


「あ、レオンくん。それが欲しいだべか?良け良け!!貰っていいべ!!」


「いや……それはちょっと…………」


流石にこれをもらうのは気が引ける……


「そうか……おでの物はしょぼいだべね…………」


「いや!そういう事では無くて……」


その大反対で、世界最高峰の技術が詰まった一品だろう。


「いや、そんな励ましは要らないだべよ…………」


「そんな事ではなくて…………ああ、もらう!!もらう!!あ〜あ、こんなすごいイアリングをもらえたらな〜」


そんな事を言うと、タロさんの顔が一気に明るくなった。


「貰ってけれ!貰ってけれ!!……ささ、他の物も見ていってくれだ!!」


そしてタロさんは鼻歌交じりで料理を作っていた。

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