第4話 新宿

職場を出て新鮮な外の空気を吸うと、自然に気分が楽になり、息苦しさも解消された。バス停に行くと2人の女性が立っていた。1人は背が高くスタイルの良い女性で体のラインが出た美人である。ヒップにうっすらと下着の形が現れている。

思わず見とれていると、ちらっとこちらを見て、直ぐに携帯の画面を触りだしながら向こうへ行ってしまった。バスはまだ来ていないのにどこに行くのだろう。不思議に思っていると、もう一人の女性がバスに並んできた。こちらは学生だろうか。誰かと電話をしている。愛嬌のある顔でこちらを見ると、向こうを向いて何か話しだした。小声で内容は良く聞き取れないが、楽しそうである。バスに乗ると、彼女は座席に座り、僕はつり革を持って立った。時折彼女の方を見る。薄手のシャツに、屈むと胸の谷間が見えそうだ。ふと目があった、少し見過ぎだ。電話をしながら、彼女は笑顔で気にしないそぶりである。少し変な気分になってきたぞ。

バスを降りると彼女は足早に歩き出す。声をかけようかと後を追ってみる。横断歩道を渡り路地を抜けて右に曲がったところで彼女は立ち止まった。コンビニの前である。また誰かと電話をしている。電話を終えたら声をかけてみよう。暫くウロウロとしていると彼女が電話を終えた。するとコンビニの中から友達の女性が現れた。二人は楽しく談笑し、どこかに行ってしまった。

何だか食欲がないな。コンビニでバームクーヘンを買い、家に帰ろうとした時、またあの声が響いてきた。女性の会話のような、すごく早口な声が聞こえてくる。何だか大勢いるような気配がする。ピコピコと電子音の用でもある。町のスピーカーから聞こえているのか?何だか頭が痛くなってきたし、少し熱を帯びているようだ。意識も薄くなってきた。僕は歩きながら何が起こっているのか考える。ベクトルはもはや必要なし。火事に水鉄砲のようなものだ。家とは反対方向の河川敷へ向けて歩く。河川敷ならばスピーカーはないし、音は小さくなるはずだ。

河川敷のベンチに座った。いつもは水の流れを見て気分を落ち着けるのだが、今は天気が悪い。川面は水というよりもコールタールが流れているように見える。何だか気分が悪い。カップルが仲良くベンチに座っている。学生だろうか。高級な服を着た育ちの良い若いカップルだ。何だか惨めな気分になり、今にでも叫びだしそうな自分がいる。その時、一人の男性がランニングをして目の前を横切った。年齢的には自分より10歳ぐらい上だろうか。タイツを着てサングラスをかけたカッコ良いおじさんである。よく見ると向こう岸にも、女性もいる。何人もランニングをしている人たちがいる。何だか元気をもらった気分になり、食欲も回復してきたようだ。暫く寝不足の目をこすりながら、コールタールの川面に映るビルの影を眺めていた。

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