海辺に客の来たのを見た。魑魅魍魎の跋扈する都会から、癒しを求めて来たふたりの女性。ふと、携帯端末は音楽を鳴らす。連絡を疎ましく思った片方の女性は、やんごとなく携帯端末をポケットから無作為に抜き取った。面接に行った会社から不採用の通知だった。

「明日地球に隕石が落ちて人間が亡べばいいのに。そんでもって人口が十分の一になって、剣士と魔法使いとで冒険に出掛ける」

「ちょっと、何言ってるの。そんなの前衛職が大体修羅場潜るんだから。恐ろしい場所へ行こう」

 女性は小首を傾げた。MP足りてないじゃない?

 こっちは覇気の在る人間なんだ。体育会系は、いつも私に「覇気のない……」と、言う。

 以前の私とは、訳が違う。

 天使みたいな無邪気さが売りの友だちは、全身全霊で生きてる。

「獰猛な猟犬と猟銃。熊さんこちら、掌の鳴る方へ」

「熊の反撃だよ、性根が腐ったら熊の餌、なんて魔物の囁きが聴こえたら、直ぐ様音楽で防御だ。次いでに女とのフラグもへし折っちまえ」

 友だちは、くすくす笑った。

「人間の骨って何本あると思う。大体二七◯本くらい。葬式で骨を拾う時の箸ってちょっと普通より長いよね」

「それが何」と私は尋ねた。

「頭蓋骨を砕くときって、どうだろうね」

「そりゃ涙の一滴でも落ちるだろうよ」と、私は言った。

 臆説を言えば、火葬場の火葬炉から出てきた、一と時の再会程、美しく咲く悲しみはない。

「生き返った聖戦士は、敵は何処にいるかと尋ねた。御前に。魔女は静かにそう言った。聖戦士は涙を流した。この身を救ったおまえだけは、生かしておいてやる。と、聖戦士は言った」

「救ったのに恥知らずな聖戦士だな」

「そうでもなくない?」と、友だちは笑った。

「死んだはずの人間が姿形を作ったら、恐いよね」

「そうね……」

「実はわたし、反魂の術で生き返って欲しい人が居るんだ。死体が欲しい。そこで、あんたには死んで貰う」

「え?私を殺す気か?やってみろよ」

 ナイフをポケットから繰り出した友だちに対し、豪語した。

「猶予いたまえ、猶予いたまえ……」

 それでも少し怖かった。ナイフを持つ片腕を蹴り、空を切るナイフはくるくると回転し、地に刺さった。殺気も、失せた。

「私が勝ったからには、冗談にしてやるよ。そんな凶器で襲ってくるなんて、洒落じゃ済まないけどね。普通なら……。で、聖戦士は、魔女を殺さなかった。その後は?」

 空を仰ぐ友だちは、「旅に出るんだよ、飛竜を探しに。その飛竜の知性に、期待するのさ」

 帰りしな、遊歩道に犬の散歩をする人がいた。犬は、聖戦士の面影を探す魔女と、淋しい熱帯魚に似た女の二人の形相は、面妖な……、円らな瞳だった。

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