第13話  内緒話



「ホホジロザメって、マーレデアム王国では "カルカロドン・カルカリアス"って言うんだ。

怖いイメージしかなかったけど、シェリに乗せてもらった子はすごく大人しくて可愛かったなあ。


ナプティムウト様の戦闘鮫魚せんとうこうぎょはこれかな? 確か青いサメだったし。

"イスルス・オキシリンクス" ……


って、ニ匹とも絶滅危惧種?!」



今日の私は、騎兵団の人たちが走り書きした鮫の生態調査記録を文書に起こすという仕事をしている。



「リリアナ様、どうかされましたか?」


しかしまた、独り言をぶつぶつと口にしていたらしい私。



「ナプティムウト様、すみません。つい大きな声を出しちゃって」



今日はナプティムウトが書類仕事担当であり、ついでに私の護衛役も務めてくれている。



「ナプティムウト様の戦闘鮫魚は確かこのサメですよね? この子たちって絶滅危惧種に認定されてるんですけど……」


「私の愛鮫はもう彼で12代目なんですよ。彼の血筋は代々優秀で聡い子が多い。 


でもリリアナ様の言われる通り、この種は今急激に数が減り、絶滅の危機にひんしています。


あの子が引退すれば、イスルス・オキシリンクスを戦闘鮫魚にすることは、もう無理でしょうね」



ナプティムウトがどこか寂しそうに、私の手元にある資料を見ている。



私たち人間が犬や猫を可愛がるように、この海底王国では海獣や海ガメ等を家族に迎え入れている人たちも少なくない。


騎兵団所属の戦闘鮫魚たちは、普段はこの海で自由に生活をさせ、訓練や戦闘の際に魔笛とはまた違った専用笛を使って呼び戻すらしい。



それにしても、この王国で呼ばれている生き物の名前は長い。

チンアナゴですら"ヘテロコンガー・ハッシ"である。…… もう、チンアナゴで良くない?



生態調査資料と睨めっこをしていた私は、ふとあることに気付く。



(これはもしや……いやいや、いくらなんでも。いや、やっぱりあり得るかも?)



私は、共に資料を見やっていたナプティムウトの方をちらりと見上げた。



「あの、ナプティムウト様。ちょっとお尋ねしたいことがありまして。

このカルカロドン・カルカリアスの絵を描いた人って……」


「ああ。シェリですよ、リリアナ様」



ビンゴである。


前に騎兵団の人たちが皆口を揃えて、シェリの絵は壊滅的だと言っていた。


目の前にあるホホジロザメの絵は、きっと彼は愛鮫を参考にしたのかもしれないが、なるほど。あまりにもかけ離れている。


ホホジロザメはその姿も性格も迫力があるが、彼の描くそれは、何というか、とても可愛らしい。

小魚、とは言わないが、中魚くらいを思い浮かべてしまうような、そんな雰囲気に仕上がっている。



「シェリが気にしてたのって、こういうこと?」



私には絶対に見せまいと言っていた、あの時の彼の顔が脳裏に浮かぶ。

シェリは確か、私からの評価が下がることをとても気にしていた覚えがある。



「ふふっ、むしろ格段に上がったよ」



私はその画を指でなぞり、くすりと笑った。


すると、ナプティムウトがそんな私を見て、にっこりとした笑顔で言い放つ。



「リリアナ様、リリアナ様、

すでにシェリがお迎えに上がっているのですが」



ナプティムウトの言葉に顔を上げたが、隣に彼の姿はなく、代わりにすでに彼の前へと立っていたシェリと視線がぶつかった。


私がパタリと資料を閉じるよりも早く、シェリの大きな手が私の手首をつかみ取る。



「見ましたね、リリアナ様」


「ラドシェリム様、これは不可抗力です。

決してあなたの描いたものを探していたわけじゃありません」



文書をまとめていたのだ。仕方がない。



「……格段に上がったのは何ですか?私への劣等評価ですか?」



シェリがジトリとした目で私を見やる。

そして、はぁ、と、とても疲れた息を吐きながら手首を解いた。


私は資料たちをテキパキと片付け、机の上も綺麗に整頓し、ゆっくりとその場から立ち上がった。


そして未だ項垂うなだれている彼の手を取ると、まるで私がエスコートをするかのようにこの部屋の出入口へと誘導する。



「リ、リリアナ様?」


「あら?迎えに来て下さったとお聞きしたのですが違いましたか?


それではナプティムウト様、ネレオ、マルフェス、お先に失礼いたします。また明日」



ポカンとしているナプティムウトと、

別の仕事をしていて、話の一連をよく理解していないネレオとマルフェス。


そんな彼らに向けてにっこりと微笑むと、私はシェリの手を引いてその場を後にした。




「リリィ」


「なあに」


「壊滅的で幻滅したか?」


「全く。可愛すぎてグッときた」


「は?」



彼はとても複雑そうに自身の顳顬こめかみを抑えている。そして、



「其方の鮫の趣味は良く分からん……」


と、そう呟いた。



サメのことではないのだけれど。

シェリだって、十分に鈍い。





シェリの絵を偶然発見してしまってから少し経ち、私がこのマーレデアム王国に来て

三か月が過ぎようとしていた頃。



今日は国王との謁見のため、私はシェリに付き添われ、彼の執務室へと足を運んでいる。


謁見の内容はずばり、"バクナワ一族の処分" についてである。



「リヴァイアサンの件から随分と経ってしまいましたが、やっとシリスハムたちの処分が決まりました。


やはり、シリスハムとバリスハムは、女神の愛し子と全民ぜんたみの命を危機に晒したという大罪のため、死刑が決定いたしました。


アブサハムや他のバクナワ一族の者たちも、郊外にある離塔へとこの先永久に追放されます」



シェリの予想を聞いていた時から、その判決が王族や守護者である大臣たちの決定事項になるのだろうということを、私はもう確信していた。


カイリたち王国民を危険な目に遭わせたことは許されるものではないし、私だって今までの人生で一番だと胸を張って言えるほどの、恐ろしい体験をした。


何度も死を覚悟したし、身体もボロボロ、心も壊れそうだったのに、誰にもそれを伝えることが出来なくて本当に辛かった。


それでも。



「国王陛下、それはもう確定なのでしょうか。

確かに、シリスハム様たちの行いは許されるものではないと思います。


……でも、誰一人として死者は出ていません。

騎兵団の方々には、民の人たちに大きな被害は出ていなくて怪我人もいなかったと聞きました」


「……リリアナ様。

貴方様が大変に慈悲深く、慈愛に満ちた方であることを、深く、深く感謝いたします。


しかし、ここで彼らの行いを許せば、次に何か大きな大害が生じた際に、必ず王国に溝が生まれます。


私は国王として、それだけは退けなけばならないのです」


国王の言うことが正論すぎてぐうの音も出ない。だが。



「もちろん、何のとがめもないなんて甘い考えはありません。

民の人たちを危険に晒したことは、許されることではないと思っています。


ただ、私に関することは……」



「それが、民らが一番憤いきどおりに感じていることです」


「……ラドシェリム様」



私は、背側に控えるシェリの方を振り返った。



「リリアナ様、一番被害に遭われたのは他でもない、貴方様なのです。

民たちがどれほど女神の愛し子を大切に思っているのか、カイリと接した貴方様ならお分かりになるでしょう」


シェリのその言葉に思わず俯いてしまう。

それは、私が一番心苦しく思い、そして嫌と言うほどに理解してしまったことでもある。


まだ年端もいかない小さなカイリでさえ、私のために命を投げ出そうとしたのだから。



でも、そのことがあって初めて、私は女神の愛し子という立場を真剣に考えることとなった。



シリスハムたちを庇うわけではない。私だって本当に酷い目に合った。


ただ、黙って意見を受け入れるだけが、私の役目ではもうないと思っている。



私は座席を離れ、シェリと国王両者に向かい合うようにして立つ。



「ラドシェリム様のおっしゃることも、もちろん分かっています。私は本当に、女神の愛し子としての自覚が足りませんでした。


シリスハム様たちのことは、私の責任でもあります」


「……っ、何故そうなるのです」


「あの時、バリスハム様が客間を訪れて、ラドシェリム様からの命令で私を迎えに来たと言った時。

ちゃんと自分で正しい判断が出来ていれば、王宮の外には出ず、怪魚に攫われるといったことも防げていたのかもしれないと思って……


バリスハム様の行動に疑問を持ちながらも、強く推し返すことが出来ませんでしたから」



私は国王へと視線を移し、はっきりと言葉にする。



「シリスハム様とバリスハム様の処分を、どうか一族の方たちと同じ、離塔への永久追放にしていただきたいと思っています。


彼らの死罪はどうか考え直して下さい。私が責任を持って、この先も王国への浄化と祝福をとどこおりなく行います。女神の愛し子としての役割を、果たさせていただきます。


どうか、お願いします、国王陛下」



シェリも国王も、呆れているかもしれない。

甘い女だと、だから付け込まれるのだと、そう思うかもしれない。



「……リリアナ様。貴方様のご意志は十分に伝わって参りました。この件はもう一度、守護者たちと議論いたしましょう。 


貴方様からの御慈悲をいただける彼らに、どうか幸の在らんことを」


「……父上」



国王がそう述べて私に跪いたため、シェリはその後の言葉を噤んだようだった。



国王との謁見を終えた後、私はシェリに付き添ってもらい、王宮近くにある海森を訪れた。


あの陽光が差し込んでいるような美しい空間へたどり着くと、やはり心が落ち着く。


どこからともなく私の周りに現れる海水魚たちが、いつものように私の肌をちょんちょん、とキスをするようについばんでくる。



「其方は甘い」



私はシェリには背を向けた状態で、海水魚たちの方へと手を伸ばす。

シェリの表情は見えないけれど、声がいつもの彼のものより厳しいことは分かる。

 


「ほんと、その通りだね。

でもこんな綺麗な場所でのお説教はちょっと許してほしいな」


「シリスハムもバリスハムも、私欲のために王国を混乱させたのだぞ」


「……うん」


「其方も、あと一歩遅ければ、」


「シェリ」



思わず、彼の言葉をさえぎってしまった。



「ごめんなさい、シェリ。あなたが私のことを思ってそう言ってくれるのはすごく伝わってる。


でも、私に関わったせいで死罪になる人が現れてしまったら、私はこの先ずっと、マーレデアム王国に来たことを後悔し続けてしまう」



そう言って振り返ると、シェリの握る両手拳には血色がなかった。

私は視線を上げて、今度はその金の瞳をしかと捉えた。



「私はシェリたちに出会えたこと、後悔したくない」



初めてこの海底王国に来た時は、自分が急に一人ぼっちになったような気がして、寂しくてたまらなかった。


でも、もうそうは思わない。

たくさんの素敵な人たちに出会えて、私はこの王国が好きになったから。



「……そうなると、守人の俺にも責任があるな」


「えっ?シェリは関係ないでしょ」


「こら!関係ないとか言うな!」


(ええっ……急に怒り出しちゃった)



私が恐る恐るシェリを見やっていると、彼はまたいつものごとく、呆れたようにため息をつく。



「はぁ。其方は意外と頑固者だったのだな。これは先が思いやられるな」


「ご、ごめんなさい。愛し子のお仕事は、ちゃんとさせていただくつもりです」


「また何か勘違いしているな……

其方を口説くのは骨が折れそうだ、ということだぞ?」

 


シェリが苦笑しながら私の頭を撫でる。




彼が想いを告げてくれてから、もう一月ほど経つ。それなのに、私は未だ答えを出せないでいる。


ずっとシェリに揶揄われていると思っていたからあまり考えないようにしていたが、本当は彼のことを素敵だと思ったことが何度だってある。


告白を受ける以前も、もちろんその後も。


答えが出かかっているのに、どうしても想いを返せず思いとどまってしまうのは、私が自分に秘密を抱えているからだろう。


テティスとマリンクロードの秘密を知れば、シェリが離れて行ってしまうかもしれない。



「リリィ、どうした」



急に俯いてしまったからか、彼は少し心配そうに私の顔を覗き込む。



「……ううん、ごめんね。何でもないよ。

シェリ、今日は国王様との謁見に付き合ってくれてありがとう。


さ、そろそろ騎兵団の書庫に行かなくちゃ。今日はシェリが書類仕事の担当だよね?」



私はにっこりとシェリに向かって笑顔を作る。



「……ああ。では、そろそろ行こう」


ここ最近のシェリは、私の嘘の笑顔を見抜いている気がする。



(私は、ずるいな)



分かってる。

いつまでも隠し通して良い話ではない。

私にはいつも真剣な想いをぶつけてくれる、シェリにだけは絶対に。





海森を後にし、私とシェリが騎兵団の書類仕事部屋へと赴くと、何故か本日の内勤担当ではないナプティムウトが来ていた。



「ナプティムウト様!どうかされたんですか?」


「ああ、リリアナ様、副団長。

国王のと謁見が終わられたのですね、お疲れ様でした。


実は今日、書類仕事組にもう一人斡旋したい人物がいて連れてきたのですよ」



そう言ったナプティムウトの背後から、彼が連れてきたであろう人が、ひょっこりと顔を出した。




「こんにちは、女神様!

副団長、一昨日ぶりです」




ニコッと笑うその人を、私はこの騎兵団ではまだ見たことがなかった。

長槍部隊の人たちとは随分顔馴染みになっているので、もしかするとこの人はナプティムウトが指揮する長剣部隊に所属しているのかもしれない。


でも、気になることが……この人、女性?



「げ?!」


シェリがおもむろ怪訝けげんそうな声を上げた。



「兄上、これは一体?!

……リリアナ様、今日の書類仕事はお休みにしましょう。国王陛下との謁見でお疲れでしょう?」


「ええっ? きゅ、急にどうされたのですか、ラドシェリム様。私は大丈……」


「お疲れですよね? リリアナ様」


シェリがずいっと私の方へと顔を寄せてくる。



(か、顔が怖い……)



笑顔に見えるが、これは違う。

美人の怒り顔に迫力があるのはトリンティアで検証済みである。



「ではそういうわけで、本日は失礼いたします、団長」



ネレオとマルフェスがポカンとしている中、私はシェリに腕を引かれ、たった今歩いてきた道を、やや早足気味に戻っていくことになってしまった。





「シェリ、ちょ、ちょっと待って……!

私、今日はいつもより丈が長いロングドレス着せてもらってるから、そんなに早く歩かないで!」



と、言ったそばからである。

私は思いっきりドレスの裾を踏ん付けてしまい、前のめりになる。

間一髪でシェリに支えられたが、私の心臓はバクバクしている。



「すまんリリィ!大丈夫か?!」


「……大丈夫だよ。

シェリ、ほんとにどうしたの。どうしてそんなに慌ててるの?」


「……」



シェリは何も言わず、それでいて申し訳なさそうに、私の少し乱れた髪を直してくれる。



「シェリ、さっきの人は騎兵団の人なんでしょう?挨拶しなくて良かったの?」


「……リリィ、あいつには、」






「お怪我はありませんか? 女神様」



何かを言いかけたシェリの言葉を遮るように、不意に誰かが私へと声をかけた。



「副団長。女神様はドレスを召されてるんだから、そんな強く引っ張ったらこけちゃうでしょ。


ほーんと、シェリは昔から女の子に気が利かないんだから」



「……ユーリ」  



声の主は先程書類仕事部屋にいた、ナプティムウトが紹介しようとしていた人だった。


やはり、シェリも知っている人のようだ。



「でもシェリが女の子相手にそんな優しくしてる姿なんて見たことがなかったから、なんだか新鮮だね!」



その人は相変わらずニコニコとしている。


シェリは私を背側に隠すようにして立ち、彼へと向かい合った。



「あ、あのシェリ、この方は?」


「女神様、初めまして。

僕はユリウス・エーギル。王国守護者・左大臣の次男です。以後、お見知り置きを」



左大臣とは確か、あの宰相一族と敵対している勢力の人だったはずだ。以前に聞いた私の結婚話の中で、シェリがそんなことを言っていた気がする。


しかし、"次男"ということは……?



私はシェリの肩越しからその人をチラリと見てみる。



……いや、どう見ても可愛らしい "女性" である。背も小柄で私より少し高い程度だし、声も普通の男性よりずっと高い。


でも、訓練時ではないため鎧こそ身に付けてはいないが、"彼" はちゃんと騎兵団の制服を着用している。


美少女ならぬ、美少年という言葉がぴったりの人である。



「シェリ、幼馴染にその態度は酷くない?

それに、以前は "イイ仲" だったでしょ?」


「……貴様」



シェリの額に青筋が浮かび上がってくる。

このままユリウスと名乗る人物に飛びかかってしまいそうな雰囲気なので、私は慌てて彼の腕を引く。



「シェ、シェリ。うん、私やっぱり今日は女神の間で古書の続きを読むよ。


ユリウス様、初めまして。ちゃんとご挨拶が出来なくてごめんなさい。今日はこれで失礼しますね」


「そっか、残念です女神様。せっかく女神様と仲良くなれるチャンスだったのに。明日もここへ?」


「あ、はい!明日は午前中からこちらに参ります」



シェリの肩越しからユリウスと会話をしていると、今度はユリウスの後ろから、呆れ顔のナプティムウトがこちらに歩み寄って来る姿が目に入って来た。



「やっぱりやってるね。シェリ、いい加減に青筋を抑えなさい。

ユーリも、シェリをいちいち挑発するのは止めなさい。


見苦しいものをお見せして申し訳ありません、リリアナ様。

ユーリ、君はこれから長剣の訓練だよ」


「はーい団長」



上司であるナプティムウトに対してもこの態度……

なんというか、とてもフランクな人だ。


書類仕事部屋を出てまだ10分と経っていないはずなのに、なかなかにせわしなく時間を過ごした気がする。



訓練場へ向かうという二人を見送るため、私は通路を空けようとした。

ところが……



「わわわ!女神様、大丈夫?!」



ユリウスが横を通る際に、私の手首を何故だか不意に掴んできたのだ。

私はそのまま彼の方へと倒れ込みそうになったが、ユリウスがそれを抱き止める。



「貧血かな?急に倒れてきちゃうからびっくりしました」



一瞬の出来事で一体何が起きたのか分からなかった。


私って今、貧血で倒れかけたのだろうか。

思い切りこの人に腕を引かれなかった?



予想外の出来事に、皆が反応出来ないでいる。私も例外ではなく、ただただ瞬きを繰り返すしかなかった。


身動きが取れないでいる私が辛うじてユリウスの方を見上げると、



「女神様、さっきシェリに腕を引っ張られちゃった時も、今のヒンケツの時も、なんだか"足元がおぼつかなかった"けど大丈夫ですか?


今日はゆっくり休んで下さいね!

そんなふらふらなのに、仕事なんてしちゃダメですよ」



彼は少し眉を下げてそう言った。

そして、



「明日からよろしくお願いします。

あ、それと僕ね、以前書庫で気になる文献を見つけたんですよ。それはね、今の王国では忘れ去られた女神様の秘話だったんです。


良かったら明日二人で、ナイショの話でもしちゃいません?」



と、私の耳元で、まるでささやくように言葉を紡いだ。



私の身体が強張っていたのは、ユリウスに抱かれていたせいだろうか。

彼は私に視線を合わせたまま、ゆっくりと身体離していく。



「それではまた明日!

リリアナ・"マリンクロード" 様」




まさか彼は、私の秘密を知っている……?


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