第12話 愛し子と海人騎兵
(幕間)
「勝負に出たわね」
「ええ。我々に指摘されて戸惑っていたようには到底思えません」
「少し早急過ぎないかしら?」
「あのままだと色々こじれてしまいそうでしたし、ちょうど良かったのでは?」
「でもあの子、肝心の
「……やはりリリアナ様の力は絶大ですね。100年前のシェリならとても考えられなかった」
トリンティアとナプティムウトの目前では今、愛し子と海人騎兵の小バトルが繰り広げられている。
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「リリアナ様、厨房に一人で入るのはお止めくださいとあれほど申し上げたでしょう」
「だってラドシェリム様、部下の方に呼び止められてたじゃないですか。食堂前で。
早くランチを用意しないと、午後から海洋調査に行くネレオとマルフェスがお昼抜きになっちゃうでしょう」
「自覚してくださいと言っているのです。
騎兵団の者たちの中にも、あなたを狙う者が大勢いるのですから」
「大げさですよ!そんな素振りを見せられたこともないですし、みなさん良くして下さってます」
「シリスハムの一件をお忘れですか?」
「あの人のことは私だって最初から怪しいと思ってました!」
ちょっぴり強めに言い返してしまったせいか、私はほんの少し息が上がっている。
さて。ここはマーレデアム王宮の中庭。
先程から繰り広げられているのは、今日のお昼時に起きた些細なトラブルからの議論、というか言い争いである。
そんな私たちの目前に座るのは、トリンティアとナプティムウト。
彼女は優雅にお茶を仰ぎ、彼は穏やかにこちらを見やっている。
シェリと海森を訪れてから五日が経った今日。
私たち四人は、この中庭でお昼後のティータイムを過ごしているところだった。
私はあの海森訪問の後、侍女たちの勧めもあって騎兵団の書類仕事を数日間休んだ。
おかげですっかり食欲も戻り、体調も回復したのだが、どうやらその話がナプティムウトを通じてトリンティアの耳に入ったらしい。
彼女はそのことをとても心配してくれて、もし今日体調が許せば気分転換にどうかと、私をお茶会に誘ってくれたのだ。
ちなみに私も無事、昨日から書類仕事に復帰している。
……が、どうしてかこんなことに。
楽しいお茶会をするはずだったのだが、シェリとは午後からずっとこの調子だ。
「リリアナ様。貴方様には俺の心情をしかとつい先日にお伝えしたはずなのですが。
その俺の前で他の男に笑顔をばら撒くのは、もしや妬いてほしいからですか?」
「どうしてそうなるんですか!
あと、今はトリンティア様たちの前ですよ!」
「ええ、そうですね。でもそれは関係ありません」
余裕たっぷりの顔をしているシェリと、真っ赤になってふぬぬと口をきつく結んでいる私。すると。
「シェリ」
私たちの目前で優雅にお茶を飲んでいたトリンティアがゆっくりとカップを手元に下ろし、弟の名を呼ぶ。
「いい加減になさい、シェリ。
余裕のない男など、リリアナ様は選ばれませんことよ。
それと、あなたがほんの100年前まで女性に対してそれはそれは不誠実だったということは、ちゃんとリリアナ様にもお伝えしているの?
来る者拒まず、去る者追わず。
わたくしのお友達も何人かいて、彼女たちには随分と恨み言を言われましたわね」
「……姉上。リリアナ様には申し上げないで下さいとあれほど」
「甘くてよ。過去の愚行を隠して愛を伝えるなど、恥を知りなさい」
……さすがトリンティア。
シェリがこれ以上言い返せまいとでも言うかのように、ぐぬぬと口を
あと。
来る者拒まず、去る者追わず……?
また私の目がジトリと半眼になる。
「昔のラドシェリム様は、女性が大好きだったってことですか?」
「は?!」
「あ、えっと。ちょっと女性が苦手だと小耳に挟んだことがあるので」
「……そう言えば以前、リリアナ様にそのようなことを言われたことがありましたね。
別に苦手ではありませんが、決して得意なわけでもないですよ」
「リリアナ様。シェリの話を少し付け足すと、100年前にそれこそシェリを巡る女たちの血みどろの争いがあったのですよ。
それに懲りたのか彼はその後、彼女たちとの関係を全部綺麗に清算して、この100年は独り身を貫いていましてね。
ある意味、恋をしたことがなかったのですよ、シェリは」
ナプティムウトが少し眉を下げてシェリのフォローをする。
血みどろというキーワードは王家とは切り離せないものなのだろうか。
このマーレデアム王国が王家でも一夫一婦制というのは大賛成である。
「そのシェリが、リリアナ様には随分と早い段階で溺れていましたからね。
弟が女性のことでこんなに必死になっているのは初めてですから、兄としては感慨深いですし嬉しいものですよ」
ナプティムウトににっこりと微笑まれ、私は少し居た堪れなくなって視線を泳がす。
「リリアナ様、シェリに愛を告げられたからと言って、この子を無理に選ぶ必要などありませんわ。
貴方様が心から愛する殿方と生涯を連れ添われるのが一番なのですから」
トリンティアは優しく微笑んで、私にそのように言ってくれる。
「姉上、そろそろリリアナ様に色々と吹き込むのはお止めください」
「吹き込んでいるのではありません。リリアナ様に気を遣っていただきたくないだけよ」
「シェリは少し強引すぎるしね。もう少し余裕を持って優しく接しないと、リリアナ様が逃げてしまうよ」
姉兄に色々とつっこまれ、シェリが少々不機嫌になっている。
「……分かっています。俺とて初めてのことで勝手が分からず必死なのです」
少し拗ねるようにシェリがそう言う。
私だってもう、どうして良いのか本当に分からない。
でも、シェリの想いを受けてきる今は、彼には伝えなければいけないことがある。
「みなさま、お気遣いありがとうございます。
ラドシェリム様。
私のことをそのように想ってくださって……その、とても嬉しいです。
……でも、ごめんなさい。
私はラドシェリム様に限らず海人族の方に
連れ添うことは出来ません」
私を見つめるシェリの瞳が、少し揺れた。
「……リリアナ様。それは、貴方様が海人族の男を好きにはなれないということですか?
やはり、人間の男が良いからですか?」
驚きでも、悲しみでも、怒りでもないという表情。なのに、彼の視線は私に突き刺さっている。
「それは、違います。そういうことじゃないんです。
海人族と人間では、生きていく時間が違いすぎます。どんなに努力をしても、私は相手の方を残して先に、その、死んでしまうのは確実なんです」
「時間?」
三人が一斉にこちらを見やるので、私は少し気まずくなって俯いてしまう。
海人族の男性が嫌だとか、人間の男性が良いとか。それこそ、このまま質問をお返ししたいくらいだ。
私は皆とは肌の色も髪色も、身体の作りですら違う人間なのだ。
それに。私はあと100年も生きることが出来ない。
「リリアナ様、
女神の愛し子様が2000年に一度しかこの王国へ降臨されないのは何故なのか、お分かりになりまして?」
「それは、私も疑問に思っていたことです」
「愛し子様たちがそれ程の時を空けられるのは、彼女たちがこの地に参られた後、約2000年はご存命予定だからだと言われております」
私の目が、今までにないくらい極小の点になる。
「……え? ええっ! に、2000年もですか……?!」
「少なくとも、4000年前にこの地に参られた初代愛し子様は、2000年の時をこのマーレデアム王国でお過ごしになられたようですわ」
なんということだ。
女神の愛し子の寿命は、普通の人間のそれとは違うということだろうか。
それとも、テティスの思惑通りに降臨したからこそ、彼女によってこの海底では寿命が伸ばされる、とか?
どちらにせよ、トリンティアの発言に驚きすぎた私は、口をあんぐりと開けてしまっていた。が、何とか言葉を紡いでいく。
「ええっと、つまり、私はこの先2000年もここで生きるということですか?」
「2000年というのはこの王国では普通のことなのですよ、リリアナ様。
ちなみに先々代の国王は2300歳まで、
先代国王も2200年ご存命でしたよ」
ナプティムウトが私に追い討ちをかけてくる。
「リリアナ様は確かまだ17歳。
そのためか、初めて出会った時は私の年齢に少々驚かれていましたね。
あと、一瞬何か口走っておられました」
そう言って、チラリと私を見るシェリ。
(あ、おじいさんって言いかけたこと、今も根に持ってる?)
「だって……本当なら、私たち人間はそんなに長く生きることが出来ません。
一年前に亡くなった私の曾祖母が、99歳で大往生って言われてましたから」
「何だと?! 99歳など、海人族では成人にも満たないではないか!」
……99歳で、まだ成人していない?
2000歳って、人間でいう幾つの歳?
数字たちが頭の中をぐるぐると回り出す。
もう、色々と次元が違いすぎて思考がうまく追い付かないような、なんだかもう慣れてきてしまったような……
「リリアナ様は我々との寿命の差が気がかりだったのですか?」
シェリの言葉がトリンティアとナプティムウト仕様に戻っている。
ついでに、一瞬遠くに行きかけていた私もハッと、引き戻される。
「……それが一番でした。
私の方が先に逝ってしまうっていうことが分かった状態で恋愛をするのが怖かったというか、割り切れないなあなんて思ってしまって。
そんな想いをするくらいなら、初めから誰も好きにならない方がいいって」
次の女性に夢中になればすぐに忘れ去られるかもしれないとも思っていた。
そんな取っ替え引っ替えされたくない、とは今はさすがに言えないけれど。
「あと、ご覧の通り私は人間です。
海人族の男性は、こんなみなさんとは何もかも違うような女に、その……」
「欲情するか、ということですか?」
「??!」
隣に座るシェリは、ニヤリと笑いながら私のことを見据えてきた。
いや、シェリの言うことは分かるが、私が言いたいのはそういうことじゃない。
そういうことではないが、うまく言葉に出来ない。
「お黙りなさい、シェリ!」
そこへ、トリンティアの鋭い
彼は痛撃のせいか、片手で右足を抑えながら言葉を発せないでいる。
「あなたはどうして、もう少し言葉を選べないの!」
「17歳の乙女にそのようなことを露骨に言うのは止めなさい。
ほら、リリアナ様が桃色珊瑚のようになられているよ」
トリンティアに一撃された脛を抑えながら、シェリは、真っ赤になって俯く私をじっと見つめてくる。
うう……視線が痛い。
どうして彼はこう、もう少しオブラートに包むことが出来ないのだろうか。
いや、変な聞き方をしてしまった私も悪いのだが。
「……すみませんみなさま。この話はこれで終わりにしましょう……
って、もうこんな時間になってる!
ごめんなさい、そろそろお暇しないと。
今日は夕食を騎兵団の方たちに振る舞う約束をしているんです」
「まあ、リリアナ様。お身体の調子は大丈夫なのですか?無理はいけませんことよ!」
「ありがとうございます、トリンティア様。
今日トリンティア様たちにお会いできて、とても元気になりました!」
「本当にお可愛らしい方……
わたくしが男なら貴方様を紳士に口説いていたでしょうに。シェリなど近付けぬほどに」
「あはは!私もトリンティア様が大好きだから嬉しいです。
私も男性だったなら、頑張ってトリンティア様に尽くすのに」
私とトリンティアは冗談を言い合い、手を取って笑い合う。
私たちの横では、それぞれシェリとナプティムウトが生温かい目でこちらを見ていたようだが、私はそれに気付かない。
------
「シェリの最大のライバルは騎兵団の男たちではないよ。君の姉上様だ」
「……一番恐ろしく、手強い相手ですね」
シェリは深くため息をつき、顳顬をきつく抑える。
そして無邪気に笑うリリィの横顔を見つめながら、ナプティムウトにしか聞こえないよう声を抑えて言葉を紡ぐ。
「でもまぁ、今回ばかりは姉上が相手だろうが容赦なく行かせていただきます。
欲情するかしないかの疑問など、それこそ愚問だと思いませんか、兄上」
「……リリアナ様にはくれぐれも色々と事を急かないようにね。
この方は、君が100年前に関係を持っていたような女性たちとは全く違うのだから」
「当然です。ただ、早く彼女を俺の元に隠しておきたい。
リリアナ様は知らぬ間にも、海人族の者たちを虜にしてしまいますから。
男に慣れていない彼女が、何かあってからでは遅いのです」
そういう意味ではシェリが一番危ないのでは? と思いながらも、ナプティムウトは自身のカップを持ち上げた。
そして、少し
「さてと。次はその騎兵団に行かないと、だね」
------
地上の日は傾きかけ、時刻はすっかり夕方である。
私はシェリとナプティムウトと共に、現在騎兵団本拠地にある食堂へと赴いている。
「うおーっ、すごく美味そうです女神様!」
「こっ、この料理たちをリリアナ様が我々に?!」
騎兵団の人たちはそれはそれは嬉しそうに顔をキラキラとさせている。
今日の夕食時、本拠地の食堂テーブルには、私が腕によりをかけたたくさんの料理たちが並べられていた。
リヴァイアサン事件の際は騎兵団の人たちには本当にお世話になった。
怪我のこともあり、あれから随分と時間が経ってしまったが、これは彼らへのせめてものお礼のつもりだ。
「みなさま、怪魚の件では本当にお世話になりました。
今日は私が以前勤めていたカフェでお出ししていた料理を作ってみました。
こちらの食材を使っているので少しアレンジはしていますが、すべて地上の料理です。
みなさまのお口に合うかは分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい!」
料理はハンバーグやハムカツ、グラタンにオムライスと言った子供も大人も大好きなものから、ビーフシチュー、カルパッチョ、シーフードピザなど、お酒も楽しめるメニューまで、たくさん用意した。
一口サイズにカットしたサンドウィッチやサラダも盛り付けて、料理に彩りを添える。
もちろん、全て海で採れる素材を使っているので"もどき"なのだが、見た目は地上の料理のそれらと何ら変わりなく作ることが出来て満足だ。
あと、シェリはずっと反対していたが、今日だけは皆に給仕もさせてもらうつもりだ。
「お待たせいたしました。このお席はみなさまビールですね!
あ、ネレオ!ネレオはお酒よりもフレッシュジュース派でしたね。
えっとこちらのみなさまは……」
「リリアナ様!俺もビールがいいです!」
「俺はネレオと同じフレッシュジュースでお願いします」
「あ!マルフェスがもう酔っていますよ。
おい、お前まだ一杯目だろう」
書類仕事仲間のネレオとマルフェスは、どうやらお酒が弱いようだ。
私は彼らにミネラルウォーターも用意した。
みんなが和気藹々とご飯を食べるという光景は、カフェでのお昼時を思い出す。
夜はしっとりと恋人たちが語らう空間に変化するが、ランチ時は忙しくともお客様たちとのコミュニケーションが楽しく取れる、とても充実した時間だったのだ。
「リリアナ女神様、先程から給仕ばかりされていて全然召し上がってないじゃないですか!」
「俺たちが変わりますから、女神様はもうお座り下さい、ね!」
騎兵団の人たちは皆気さくだし、私がここでの唯一の女性ということも相まってか、とても気を遣ってくれる。
彼らの優しさに触れながら、私は懐かしいカフェの雰囲気に少しばかり浸っていた。
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「シェリ。リリアナ様の料理は本当にすごいね。どれも美味いし、盛り付けも美しい。
……おっと、君はそれどころじゃないのかな?」
ナプティムウトが見やるのは、
リリィと騎兵団の者たちがとても楽しそうに食事をしている風景
を見据えるシェリの姿である。
彼は今、大変に目が座っている。
「……兄上、私は心が狭いですか?
それとも余裕がなくて、格好悪いですか?」
シェリはリリィに視線を向けながら、ポツリとそう言葉した。
「女神の愛し子である以上、リリアナ様が他の者と接触するのは当然のこと。
しかも、この騎兵団での仕事を
なのに、今はそれを死ぬほど後悔している。
女神の間に隠して、他の男の目に触れさせなよう閉じ込めて、守人である俺とだけ逢瀬を重ねさせれば良かったと、そんなことばかり考えてしまいます」
リリィの作った料理を食しながら、シェリは少し自嘲気味に笑う。
ナプティムウトはそんな弟の様子に改めて感心した。
(何というか、シェリは本当に変わったな)
100年前までの彼と言えば、それこそ来る者拒まず去る者追わずで、特定の恋人など決して作らなかった。
女性の扱いに長けてはいたが、それは慣れているともわざとそう扱っているとも言えない、彼の天性さがそうしていたようなもの。
そのため、彼の周りにはいつも女性たちが
王家の者としての外聞は当然良くないもので、一時期は国王ですら頭を悩ませたほど。
だが、女性達がシェリを巡って壮絶な蹴落とし合いを始めたのを目の当たりにしてから、彼は女性と関わることをキッパリと止めてしまった。
お陰で、第二王子の本命は実は男なのだ、などと妙な噂まで立てられる始末だったが。
それなのに今、目前にいる弟と言えばあの頃とはまるで別人だ。
余裕があって、どんな女性の相手もうまく立ち回ることの出来る色男はどこにもいない。
代わりにここに在るのは、初めて愛したたった一人の女性のために、子供のように地団駄を踏む弱い男である。
恋は盲目そして、恋は葛藤とは、一体誰が言ったものだったか。
シェリと言えば、ついにはテーブルに突っ伏して、リリィたちを見るのを止めてしまった。
ナプティムウトがふぅ、と少しばかりため息を付き、未だ騎兵団の者に囲まれているリリィの方へと目を向けた所、何故か彼女が血相を変えてこちらへと向かって来る姿が見て取れた。
「シェ、シェリ?どうしたの、大丈夫?」
リリィはこちらのテーブルへ到着するや否や、シェリの身体を遠慮がちに揺らし、少し
食堂のテーブルに突っ伏していたシェリはというと、視線だけを彼女の方へと上げていた。
「ごっ、ごめん。そんな倒れるほど、何か美味しくないものでもあった?
あ、シェリはクリーム系の料理がそんなに得意じゃなかったよね。グラタンが良くなかったかな……」
少々見当違いの誤解をしながら、リリィは水を
シェリは彼女の姿を目で追った後、もう一度テーブルに顔を伏せ、今度はくつくつと笑い出した。
「格好悪かろうが、手段を選ぶ余裕なんてないですからね。
リリィを他の男にはやらぬと、もう決めているのですから」
そう言って顔を上げたシェリのもとに、ちょうどリリィが水を持って戻ってきた。
「シェリ、大丈夫? 体調が悪くなっちゃうほど口に合わない物があったら無理に食べなくていいんだからね!
アレルギーでもあったら大変だし」
「そんなものは一つもない。リリィが作ってくれる物は
其方が他の男とばかり話すから妬いていただけだ。もうここにいろ」
シェリはそう言ってリリィの手を掴み、自身の横へと座らせる。
シェリとリリィのそんな微笑ましい様子を見やっていたナプティムウトが、ふとたくさんの視線に気付いたため、騎兵団の者たちがいるテーブルへと顔を向けた。
……なるほど。
リリィがこちらに来て残念そうにはしているが、嫉妬や怒りの視線を投げてくる者はいない。
もう騎兵団の者たちですら、シェリたち二人を温かく見守り隊になっているということを、一体いつ弟に伝えるべきか。
真っ赤になって視線を泳がしているリリィと、そんな彼女を愛おしそうに見つめるシェリ。
ナプティムウトは二人の側をそっと離れ、騎兵団の失恋組が集うテーブルへと足を運んだのだった。
「……ふーん。ラドシェリム副団長が熱を上げる女神様、か。
ははっ、なるほど。おもしろいじゃないか」
何故だか泣き上戸の多かった今日の騎兵団員たち。
その男たちの中にただ一人だけ、妖しげな笑みを浮かべ、リリィのことを鋭く見据えていた者がいたことなど、
この時はまだ、誰も知らない。
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