京都 第3話
マンションの周りをひと通り歩き、防犯カメラの死角になるような道が何か所かあることは確認できた。
そのルートを逆に辿っていけば、犯人の足取りにも繋がる可能性は高い。
彼女のマンションから数百メートル離れた場所にコインパーキングがあるのが目に入った。
もし、犯人が車を一時的に置いておくとすれば、ここぐらいしかないだろう。
路上駐車をしておくということも考えられるが、この辺りは道幅が狭く、路上駐車してあると車がすれ違えなくなってしまう。
そうなると、車は印象に残る。
もし自分が犯人であれば、それは避けたいことだ。
あとはどうやってカメラの死角に入りながら、コインパーキングから彼女のマンションまで行くかだ。
そのルートを探しながら歩いていると、どこからか見られているような気配を感じた。
私はあえてその視線に気づかない振りをしながらも、どこから自分を見ている人間がいるのかを探してみる。
いた。コインパーキングの向こう側にある小さな雑貨店の前でタバコを吸っている老人だ。
私はさり気なく、その老人に気が付いた振りをして、雑貨店の方へと歩き出した。
「あんた刑事さんだろ。隠さなくってもいいさ。見ればわかるよ。俺も昔はそういった人たちに顔が利いたんだ」
老人は私に向かって得意げになって言った。
私は老人の発言に否定も肯定もしなかった。
「あそこのマンションで人が殺されたんだろ。もしかして、殺されたのって三十過ぎの姉さんじゃないか」
「なにか見たんですか」
「いや、それが殺人事件につながるかどうかはわかんないけどよ、何日か前にそこの駐車場で揉めていたんだよ」
「その女性がですか」
「ああ。若い男と言い合いをしていた。たぶん痴話げんかだと思うんだけどな」
「若い男ですか。車はどんな車でしたか」
「あまり車については詳しくはないんだが、シルバーのBMWだった。そのぐらいのことしかわからん」
「運転していたのは、どっちだったかわかりますか」
彼女は運転免許は持っていなかったはずだ。
しかし、この老人が見た女性というのが本当に彼女かどうはわからない。
ひとつでも疑問があれば潰しておくべきだ。
「男の方だよ。いつも、あの姉さんを送って来るんだ。マンションまで少し距離があるのにわざわざここに駐車してるんだ。だから気になって覚えてたんだよ」
私は自分のスマートフォンを操作して彼女の写真を呼び出した。
その画像は数年前のものだったが、いま手持ちにある彼女の写真はこれしかない。
「その女性って、この女性でしたか」
老人は首から紐でぶら下げていた老眼鏡を掛けると、スマートフォンの画面を覗き込んだ。
「ああ、そうだ。髪型は違うけれど、あの姉さんだよ。やっぱり殺されたのって、あの姉さんなんだな」
老人が見たというのは、やはり彼女だったのだ。
彼女と一緒にいた若い男というのは何者なのだろうか。
彼女との連絡のやり取りはしていたが、プライベートなことは何も聞いていなかった。
もし、彼女とプライベートについて話をしたとしても、彼女が私に新しい彼氏の話などをすることはないだろうが。
老人に礼を言い、雑貨店でタバコをワンカートン買うと一万円札を出して釣りは受け取らなかった。
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