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「まだ読んでるの?」


 お風呂を終えた母が熱心に手紙を読んでいる父に声をかけた。


「親父もお袋も達筆でさ。読みづらい文字はあるけど、読んでいて分かったのは、結婚する前まで2人は文通していたみたいでさ」

「文通?」

「親父とお袋はお見合い結婚でね。地方に住んでいて、中々会えないお袋と結婚式を挙げるまでずっと文通していたみたいなんだ」

「まぁ!でも今と違って携帯は勿論、メールやLINEも無いから手紙でのやり取りって時間がかかったでしょうね」

「そうだね。手紙を出しても明日返事が来る時代じゃなかったからね。そういえば親戚から聞いた話だけど、親父は見合いをしてから結納に至るまで凄く時間を要したらしいんだ。親戚の人たちは実は他に好きな女性がいて、別れ話が難航してるんだとか言う人も居たみたいでさ」

「でも実際は、お義母さんと文通していたからか、時間が欲しかったのかしら?」

「だろうね。その証拠に、親父とお袋の手紙にはそれぞれ印象的な出来事やら、時には互いの学生時代の話や、旅行先からの土産話なんかが書いてあってさ」


 そういうと父は読み終わった手紙の束の中から全てのやり取りの始まりだったであろう、一通を母に差し出した。


『市村佐江 様


 その節の見合いの席では緊張のあまり中々お話が出来ず大変失礼を致しました。お許し願えれば幸いです。


 既に仲人の方からご両親にご連絡が入っているかと存じますが、私は貴女と結婚をと考えています。

 通常なら直ぐに結納という運びになるでしょうが、私は貴女を詳しく存じていないのです。それはきっと貴女も同じかと存じます。ですので、ご迷惑でなければこうしてお手紙を交換し、しばはく互いを知り合う機会となれば。そういう考えから仲人の方に無理をお願いし、こうして手紙をしたためさせていただきました。

 もしご迷惑であればこのお話は無かったことにしていただいても構いません。仲人、御両家の両親には私から上手くお伝えしますので何卒ご心配されませんよう。


では良い返事をお待ちしております。


峰河 泰三』

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