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 母が興味津々で言うと、僕はその束の一つを取り出して見る。

 今では珍しい切手。その下に達筆な文字で


『〇〇県〇〇市高見村4365

 市村 佐江 様』


 と書かれている。


「市村佐江…って、お袋の旧姓だ」


 父はそう言うと、手紙の束を僕の手から取って確かめるように見つめた。確かに宛先は祖母の旧姓で、かつて祖母が住んでいた家に送られた手紙だ。

 差出人をみると『峰河 泰三』とあり、それは祖父の名前だった。

 手紙を縛っていた麻紐を解くと、その手紙の全てが祖父から旧姓の祖母宛だった。もう一束の手紙の方も見てみると、それは旧姓の祖母から祖父に宛た手紙の束だった。


「親父とお袋の手紙。これだけだ」

「こんな頑丈な金庫に入れなきゃいけないくらい大事なものだったのかしら?」


 そこにいた全員があれやこれやと憶測でものを言いつつ、取り敢えず手紙を一旦箱に戻して、各々の作業に戻っていった。



 今日の運び出しの作業を終え、僕たち家族は旧家から車で30分くらいの所にある宿に戻った。元々三日間の予定で運び出し作業を終える予定でいたが、今日でかなり片付いたので明日で終えられそうだ。

 宿に戻ると順番にお風呂を終え、僕はずっと出来なかったゲームをし、姉は大学の友人達からのLINEに返事をしている。

 父だけは帰ってきてから、今日金庫の中から突然発見した和紙飾りの箱に入っていた手紙を一つ一つ丁寧に読んでいた。 手紙は纏められているとはいえ、祖父が書いた分と祖母が書いた分、二つを合わせると100通近くになるだろう。

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