2022年5月9日

先生は散歩をするように言われましたよね。ですから私は散歩をしました。先生がそう言われたからです。先生がそう言われたからには、そうしたほうがよいと思ったからです。ですが、すぐに先生は意地の悪いお方なのだと気付きました。なぜなら、私に散歩をしなさいとただ投げやりに言っておくだけで、散歩のやり方については何も仰らなかったからです。そうして私は、いったいどうしたものかと考えながら、家の近所をしばらく歩き回っておりました。そうすると、ふと頭上から唸るような音が聞こえてまいりました。私には飛行機のように見えました。この音は聞いたことがあると思いました。思い出を巡ってみると、自分の部屋にいるときに時々聞こえてくる音に大変似ていることに気が付きました。そういうわけで、多分あの音も、そしてきっとこの音も、飛行機の音なのだということがわかりました。あんなに空高くからこのような閃きの感覚を与えるというのはあまりないことだろうと思いましたから、これは感謝をするべきなのだと思いました。感謝の機会というのは、一度逃してしまうとずっと逃れたままで、ああ、なぜあの時にもっと努力して言っておかなかったのだろう、そのように思うものではないでしょうか。だからわたしは飛行機に呼びかけました。ここまで降りてきてはくれないか、と(これは当然の選択だと思います。なぜなら私があの空まで向かって飛んでいくのはかなり難しく思えたからです)。しかし飛行機は降りてきませんでした。私は誰にでも事情があるということを鑑み怒りはしませんでしたが、このように巡り合わせが上手くいかないこの世というものが少々恨めしくも感じました。ですが、程なくして飛行機からの使いがこちらへと飛来しているのに気付きました。私は知らないふりをしました。あの遠くから落ちてくる間、ずっと目を合わせているようでは気まずさを感じるに違いないと思ったからです。そうしてついに使いが降りてきて、私は感謝を伝えることができました。使いは、急いでいたのでしょう、何かを言ったのか言っていないのかよくわからない印象を残して空へと帰っていきました。私は帰宅しました。結局、散歩というのが何なのかよくわかっていません。ご教授のほどおねがいいたします。

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