第四話 龍宮寺さんを幸せにするために来ました

「それではご案内します、こちらへ」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 龍宮寺さんが学校に来なくなって、数日が経っていた。RINEを送っても無視されるので、こちらから赴いたのだ。


 ちなみに、先生にお願いして、龍宮寺さんの家を尋ねたのだが、中々教えてもらえなかった。それでまぁ、土下座しつつデート中の写真を見せたことで、何とか教えてもらえたのだが……



「なぁ、あいつが……」

「だろうな。俺達のお嬢を」

「チッ、また泣かせようものなら……」



 俺は来る家を間違えたと信じたかった。


 最初、日本庭園風のデカい家ぐらいにしか思わなかったのだ。石畳が広がっており、小さな池には鯉が泳いでおり、障子で部屋が仕切られていて。


 そこまではいい、そこまでは立派な豪邸くらいにしか思わなかった。


 しかし、スーツを着た男性が妙に多いこと。しかも、その男性達は小指がなかったり、でかいキリ傷があったりした。しかも、掛け軸には『仁義』と達筆な文字が書かれていた。


 これは、あれですよね?

 龍宮寺さんの家って、もしかしなくても──


「着きましたよ。それでは失礼します。何かあったらすぐに呼んでください」


 そう言って、案内してくれた人はどこかに行ってしまった。


「アンタが……」


 龍宮寺さんの部屋の前に到着すると、スキンヘッドで、頬に切り傷を持った男性がいた。あれ? この人、どこかで見たような……。


 そうだよ! 小学生の時に仲良かった女の子の付き添いの人だよ! 

 ってことは、龍宮寺さんと俺って幼なじみなのか……じゃあ、龍宮寺さんがあの子だったのか。


「お嬢、それでは失礼します」


 優しく声をかけるスキンヘッドの男性。見た目に反して、優しい人のかもしれない。そう思っていたのだが──。


「おい、てめぇ。次、お嬢を泣かしたら、どうなるか分かってんだろうな」


 耳元で、ドスの効いた声で脅されてしまった。

 怖すぎて、意識を手放したかったのに、信じられないくらいの強さで太ももをつねられてしまって、それも許されなかった。


 あばばばばばばばば、ってそうじゃない!


「あ、あのっ!」

「あ?」


 ヒッ! やっぱりコワイ。


「龍宮寺さんを泣かしに来たんじゃ……な、ないです! 笑顔になってもらうように来ました」

「……ほーう、いい返事じゃねぇか。お嬢をたのだぜ」


 そう言って、背中を軽く叩いてくれた。エールってことだろうか? まぁ、いい人なんだよな……多分。


 そのまま、スキンヘッドの男性はどこかに行ってしまった。


「ふぅ……よっしゃ! じゃあ行くか」


 龍宮寺さんの部屋に入るまでに、ごっそりと体力を削られてしまったような気がする。


 まぁ、何とかなるだろう。


「龍宮寺さん、部屋に入るねー」


              ※


「よ! 龍宮寺さん」


 手を挙げて龍宮寺さんに挨拶する。


「い、いお……西島君? な、何で来たの……」


 口調とは裏腹に、龍宮寺さんの表情はどこか少しだけ嬉しそうにも見えた。俺が単純に、期待しているだけかもしれないが。


 数日、学校を休んでいた龍宮寺さんだけど、元気そうで安心した。


「なんでって……えーと、俺もいろいろと言わなくちゃいけないことがあってさ……どれから話していいのか分からないんだけどさ」


 ここで言葉を区切って大きく深呼吸する。


 龍宮寺さんと先のことを考えると、デートのことはきちんと謝罪しておかないとけない。勿論、龍宮寺さんが許してくれるのかは分からないが。


「デートの時はごめんなさい!」

「…………え?」


 龍宮寺さんは気の抜けた声を出しながら、俺のことを見ていた。


「実は、デートでしてたあの格好も、アニメショップを選んだのもわざとなんです!」

「わざとって……じゃあ、本当は私が服を選ばなくても、ちゃんとした服を着れるってこと?」


「龍宮寺さんよりも、いい感じに服を選べられるかって言ったら自信ないけど、少なくとも、あんなダサい格好はしないよ」


「そうなんだ……どうしてって……、聞くまでもないよね。それだけ、私に嫌われたかったってことだよね……あの時の私はそんな西島君が可愛いって思ってたのにね」


 まじかよ……あんな俺を可愛いだなんて、母性本能も強いのね龍宮寺さん。


 今度、落ち込むフリしたら、何でも言う事を聞いてくれそうな気が……っていやいやいや。そうじゃない。今は真面目な話をしているんだ俺は。


「ごめんね……迷惑だったでしょ」

「迷惑じゃなかったよ」


「あははは……今更、気を遣わなくてもいいよ。普通に考えてさ、人のラブレターを奪う女子なんて嫌でしょ」

「びっくりはしたけど、嫌じゃなかったよ」


 むしろあの時、龍宮寺さんがラブレターを取ってくれなかったら、もっとひどい事になっていたと思う。


「さ、さっきからさ……何が言いたいの……」


 龍宮寺さんは、うつむいたまま、声を震わさしていた。


「そんな優しいこと言わないでよ……せっかく、諦めようとしてるのに、諦められなくなるじゃん……それとも、あんなことした私への意趣返しの──」



「好きな子が泣きそうになってるんだから、普通は何とかしてあげたいって思うもんじゃないの?」



「…………西島君? 今、なんて……」


 あれ? 今、何て言った?


 確か、龍宮寺さんと写真の話をしてから、告白するつもりだったような……まぁ、いいか。

 最終的に良ければ、問題なしだ、うん。


「だーかーらー、好きな子が泣きそうになってたら、普通は何とかしてあげたいって……」


 その瞬間、龍宮寺さんの瞳から涙が、ポロポロと零れ落ち始めた。


 きれいだ。

 こんな時だっていうのに、龍宮寺さんに見惚れてしまった。


「う……うそだっ! 西島君は優しいから、私のことを気遣ってるんでしょっ……そんな同情心からは付き合いたくないよ……」


「うぇっ!? まさかの、ここでごめんなさいなの!? やっぱりー!」


 しまった……ここは見栄を張ってでも「まさか」とか言うべきだったか……?

 と言うか、写真のことを先に話しておくべきだったのか―!


「……だって、西島君は優しいから私に気を遣って……」 


 良かった……話しが切られたとかじゃなくて。


「龍宮寺さん、これを見てよ」

「これって……アルバム……? それに、私が破いた写真……なんで、直ってるの……?」

「だって、龍宮寺さんが最初に言ったじゃん。一緒にアルバムを作っていこうって」


 俺が龍宮寺さんに渡したのは、手作りのアルバムだ。

 龍宮寺さんが破いた写真を台紙に貼り付けて、何とか修復したのだ。


 それをアルバムに貼って、手書きで色々と書き加えたのだ。写真に矢印を引っ張って、〇月×日、今日は初デートでショッピングモールに来た! みたいな感じで。


 ちなみに、徹夜したせいで授業中寝まくって、先生に怒られたのはここだけの話である。


「龍宮寺さんは写真を破いてなかったことにしようとしたけどさ、そうはさせませんぜ?」


 重い空気にしたくなくて、少しイタズラめいた口調で話す。

 ここからは楽しい話が良い。


「俺にとってもさ、龍宮寺さん……いや、七海との思い出はなかったことにしたくなかったからさ」

「にし──伊織君……」


 頬を赤らめて、口元を手で隠す龍宮寺さん。目尻に涙が溜まって、体が震えていた。


 嬉しく思っているのだろうか、感動しているのだろうか。

 それでも、喜んでくれていたらって思う。


 大きく息を吸う。

 胸のドキドキ音がうるさすぎて頭の中で響いてしまっている。


「そ、その……さ……」


 大きく息を吐いた。


「うん」


 龍宮寺さんが顔を真っ赤にしながら、俺の顔をまっすぐに見ている。


 多分だけど、龍宮寺さんには俺の伝えたいことなんて筒抜けなんだろう。

 写真を直して、デートの時の思い出をなかったことにしたくない、って言ったしな。


「お、俺は……龍宮寺さんのことが好きです!」


 今日のために考えていた告白のセリフなんて、どこかに飛んで行ってしまった。

 代わりに出てきたのはシンプルな言葉だった。


「急にこんなこと言って信じてもらえないって言うのは分かってる。で、でも! 恋人関係を前提として、友達から始めてもらえませんか!」



──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました~

 色々と考えたのですが、ここからは一気に読んでもらった方が、読者さんに楽しんでもらえると思ったので、連続投稿になります。


 分割したのは、こっちの方が読みやすいのでは、と思ったからです。

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