第三話 龍宮寺さんちの七海ちゃんの恋愛事情(下)

「え……転校? なんで」

「すいません、お嬢……今はまだ、詳しく話すことができないんです」


「いつ! いつなの!」

「それが……今すぐにでも出発しないと行けないんで……本当にすいません」


「いやだ! せっかく友達ができたのに、いやだよ! お別れもしてないじゃん……うっ、うぅ……」

「本当にすいません……」


 後になって、教えてもらったんだけど、組のシマを荒らす一団が現れて、抗争状態に入ってたらしい。結果、私の安全のためにも離れた場所に行くことになってしまったのだ。


 結局、どれだけ抵抗しても、私は転校することになってしまった。多分、この日ほど、悲しい事はなかったと思う。


 それでも、アタシが中学の頃、抗争状態が落ち着いて地元に帰ることができた。残念ながら、私の学区と伊織君の学区は違ってて、中学は別々だった。


 それでも、どうしても一目、伊織君に会いたかった私は、伊織君の通う中学校に顔を出した。すると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。


 伊織君がヤンキーたちにいじめられていたのだ。


 私が急にいなくなってから、伊織君は何度も私の家に訪れたらしい。

 でも、ちゃんとした返事をもらえなくて、落ち込んで悲しんだところに、目をつけられたの。


 だって、私が伊織君をいじめているヤンキーたちをボコボコにして、全部聞いたから。


 だから、たまらなくショックだったし、同じ高校に入ることが出来たら、絶対に私が守ってあげようって思ってたのに……。


 高校で再会した伊織君は、私じゃない誰かを目で追っていた。


 それも、自分が騙されているとも知らないで。だからあの日、私はラブレターをこっそり抜き取った。



 ──

 ────

 ──────



「あれ……寝てたんだ」


 何か、昔のことを思い出していたような気がする。

 目覚めた直後で、上手く頭が回らないまま、ボーッとしていると。


「お、お嬢。ちょっといいですか」

「うん、なーに?」


 元気のない私を見かねた世話係の立花が、部屋にお菓子を持って現れた。


「どうです? 気分転換にお菓子でも。もし、食欲がないようでしたら、お嬢の好きな所に連れて行きますよ」

「ありがと……でも、今はそんな気分じゃないからいい」


「そうですか……チッ、あのモヤシが原因なんですよね。お嬢を泣かせて……一回、シメるか……?」

「もーう、絶対にそんな事しないでよね。第一、私が……原因で……」


 思い出すだけで、また瞼に涙が溢れそうになってくる。

 決別したっていうのに、学校に行けば会えてしまう近い距離が今の私には辛かった。


「で、ですが、お嬢……」


 その時だった。

 組の別の者が立花を呼びに来たのだ。


「なんだよ。今、大事な話をしているって言うのに……え? お嬢に客人だと? 名前は……そうか、家にあげていいぞ」


 話が終わると、立花は私に向き直って、


「お嬢、どうやら諦めるにはまだ早いんじゃないですか?」

「え?」


「そのモヤシが今、家に来てるんですって」

「伊織君が……?」


 なんで?


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 最後まで読んでいただき、ありがとうございました~

 予定通りにいけば、あと三話で完結します!

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