第七話 二人でアルバム作ろうね

「ちょっと! 何してるんですか!」


 自分でもよく分からなかったが、妙に腹が立って仕方なかった。頭が沸騰しそうな、お腹の中でマグマが煮えたぎっているような不思議な気持ちだった。


「あ、この子が君の彼氏さん? どうかな? 今からでも──」


 サングラスをかけた、長身で短髪のチャラそうな男性が話しかけてきた。

 さっきまで、龍宮寺さんをナンパしていた男性だ。一応とはいえ、彼氏の俺を前にして、飄々ひょうひょうとしたい態度で話しかけれるものだ。


 

 今から二人で遊びに行くから、龍宮寺さんのことを譲れとでも言うのだろうか。

 ふざけるなって話だ。罪悪感とか良心の呵責とかはないのだろうか。

 そんな俺の剣呑な雰囲気に龍宮寺さんはいち早く、気づいたようで話しかけてきた。


「あ、これはね、伊織君……」


 俺は龍宮寺さんの手を強引に引っ張って、自分の背に隠した。

 流石に、どんな状況かは分かっているつもりだし、女子を前に出すのも良くないだろう。一言、ハッキリと言ってやる必要があると思った。


「この子は、俺のなんでやめてもらっていいですか」



「ふぇえ………」

「ヒュ~」

 

 …………今、なんて言った俺? もっと、棘のある言葉を言うつもりだったのに、すごくキザな事を言ってしまったような気が……。


「俺のなんで、って男だねぇ彼氏さんは。こりゃあ、彼女さんも幸せだね?」

「だったら、あきらめてもらっていいですよね?」


 とてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったが、我慢だ我慢。それにしても、ナンパのわりに、妙に俺達のことをほめてくれるというか、はやし立ててくれるというか……まぁ気のせいだろう。


「けど、彼氏さんは一つ勘違いしているかな?」

「勘違い……?」


 おやおやー?


「あ、あのね、伊織君。この人は私をナンパしたとかじゃないの……」


 龍宮寺さんは頬を赤らめながら、俺の服の裾を掴んでくる。


「伊織君がご飯買っている間に、飲み物だけでも買おうかなって、グルグル回ってたら、この人に話しかけられたの」


 ふむふむ。


「そうそう。この辺、飲食店が増えたせいで僕のお店の売り上げが、めっきり減っちゃったからね。そこで、彼女さんに安くするから買いませんかってね?」


「うん。そうなの。でも、伊織君が何を買ってくるのか分からなかったから……」

「彼女さんも頬を真っ赤にして、初々しくて可愛いねぇ……そりゃあ、あんなこと言われたら嬉しくて照れちゃうよねぇ?」


 よく見れば、目の前の男性はチャラそうに見えるけど、ニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべていた。ってことは、俺の完全な早とりなわけで……あばばばばばば。


「ご、ごめんなさい……」

「も、もーう! 恥ずかしいから勘弁してください……」


 男性もとい店主さんは、気を悪くした様子もなく、俺たちのことを微笑まし気に見ていた。


「穴があったら入りたい……ついでに、そのまま冬眠したい……」

「で、でも、伊織君! 私は嬉しくて……うぅ……」


「おー、彼女さんも照れてる、照れてる。二人とも可愛いね。あはははは!」


               ※


 それから俺は店主さんへの謝罪と共に、レモネードと唐揚げを買わせていただいた。遅めの昼食を食べながら、二人で今日のことを話しながらと、ゆったりと何だか幸せな時間だった。


「ねぇ、伊織君が食べてるのは何味のクレープ?」

「これ? 照り焼きチキンだけど」

「そっちも美味しそう……ねぇ、一口ちょうだい! ほら、私のも上げるし!」


 そう言って、龍宮寺さんは俺にクレープを渡してくる。


「え、いやけどさ……」


 龍宮寺さんのは勿論、俺のクレープだって食べかけだ。こーう間接キス的なのになってしまうわけで。それになぜか、龍宮寺さんの食べかけの部分が、少しだけ光っているように見えた、いや、気のせいなんだろうけどさ。


「ん? どうしたの? もしかして、私の食べかけは気持ち悪いとか思っちゃった……」


 あわわと、絶望に染まった表情を浮かべる龍宮寺さんを見ていると、これは食べないとっていう使命感のようなものに駆られてしまった。


「い、いただきます!」


 爆発しそうな心臓の音を無視しながら、勢いよく一口もらった。口の中では、チョコバナナの甘い味がじんわりと広がっているんだけど、それ以上の何かが広がっているような気もして。


「~~っっ!!」


 変にうずうずする気持ちが、胸の中で広がっていた。


「これも美味しいでしょ!」

「う、うむ……」


 本当は、緊張しすぎて味が分からなかったとは言えなかった。


「そっか、そっか。じゃあ次は伊織君からだね」


 そう言って、口を開ける龍宮寺さん。あ、自分で食べるんじゃなくて、俺が食べさせる形なんですね……。


「あ、あーん……」


 ドキドキしつつ、龍宮寺さんにクレープを差し出した。だけどだ。龍宮寺さんが口にする直前、俺の胸の高鳴りが許容範囲を超えてしまって……龍宮寺さんに「あーん」させることなく、自分の口に運んでしまった。


「あ、伊織君のいじわるー! もーう!」


 ぷりぷりと頬を膨らませる龍宮寺さんだったけど、その表情はどこか嬉しそうに見えた。


「いいもーん。伊織君がそういうことするなら、私だって考えがあるんだからねー」

「ん、どうい──~~っっ!」


 まさかの龍宮寺さんは、俺の頬をペロッと舐めてきたのだ。自分でも顔が真っ赤になっているのが分かったし、何よりも龍宮寺さんを正面から見ることができなかった。


「んふふふふふ♪ 確かに、伊織君の食べてるクレープも美味しいね」


 頬を赤らめつつも、龍宮寺さんはとろけるような笑みを浮かべていた。多分だけど、俺の頬にソースか何かが付いていたんだと思う。それを……それを……~~っっ!


「ど、どうしたの伊織君!」

「だ、大丈夫だから気にしないで……」


 得体のしれない感情が爆発しそうになって、胸がいっぱいになりすぎただけだ。

 クソウ……自分がクソ雑魚すぎる。


          ※


 そのまま、俺たちはブラブラとまったり楽しい時間を過ごしていた。

 そして、時刻も夕暮れ時になって、そろそろ解散するかとなった時だった。


「あ、伊織君。最後にさ、ここでも写真撮っていこうよ」

「また? そりゃあ、いいけど……」


 今日一日で、散々撮ったような気がするが、まだ撮るのだろうか。

 そんな龍宮寺さんに対して、仕方ないなぁと思いつつも頬が緩んでしまう。


 それから龍宮寺さんはセルカ棒を構えて、解散場所となる駅前で一緒に写真を撮った。


「じゃ、またね、伊織君! 写真はまた学校であった時にあげるから。これから二人でアルバムを作っていこうね~」


 龍宮寺んさんは、ブンブンと手を振りながら帰って行った。


 俺は、そんな龍宮寺さんの姿が見えなくなるまで手を振り続けて見送った。

 途中、途中、龍宮寺さんが名残惜しそうに振り返るもんだから、なかなか帰ることができなかったのだ。


 今日は、かなり楽しい時間だったなぁ……。

 何か忘れているような気が。


 ………………

 …………

 ……


 はっ! そうだ!

 今日は龍宮寺さんに幻滅してあきらめてもらうためのデートだったのに、何をしてんだ俺は! 何が、楽しかった、だよ! 当初の目的を見失ってんじゃねーか!


 チクショウ! 龍宮寺さんめ、覚えてやがれよ……まぁ、それでも今日はありがとうなんだけどさ。


 あーあ、明日からどうしよう……。


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました~。

 これにて、一章が完結になります。

 

 作品の構成上、二章とエピローグで完結になる予定です。

 10話前後と言ってましたが、加筆修正した結果、15話前後になりそうです(笑)

 もう少しの間、よろしくお願いします!


 一章、完結の記念に、フォローや♡や⭐︎を頂けますと、幸いです!

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