第五話 龍宮寺さんって、実は健気な人
それから俺達は、ウィンドウショッピングをすることになった。元々、お互いの好きなお店に行くと決めていたからだ。むしろ、服選びがイレギュラーだったりする。
なんでも龍宮寺さん曰く、俺が何を好きなのか知りたいらしい。かわいいことを言ってくれるものである。
それが地獄コース直行だとも知らずにだ、ぐへへへ。
「それで、伊織君は今、どこに向かっているの?」
「ああ、今はね──」
ククク……この時を俺は待っていたといっても過言ではない。
なぜなら、俺が向かっているのはアニメグッズショップだからだ。
初デートで雰囲気台無しのアニメショップ!
これには、龍宮寺さんもドン引きだろう。
「俺が行きたかったのはここ! アニメショップのアニテイト!」
俺はできるだけ爽やかな笑顔を浮かべながら、龍宮寺さんの方を見る。案の定、龍宮寺さんは口をポカンと開けていた。
さぁ、龍宮寺さん!
言ってくれていいんだよ。初デートでこんな雰囲気台無しにする人とは、付き合うことができませんって!
さぁ! さぁ!
「へー、伊織君ってアニメとか好きなんだね。初デートで緊張したかもしれないのに、わざわざ教えてくれてありがとう」
な、なにぃいいいいいいいい!
う、うそ……だろ……?
「うん? どうしたの伊織君? はやく入ろうよ」
そう言って、龍宮寺さんは俺の手を引っ張ってお店の中に入ろうとする。
龍宮寺さんの手って、プニプニして柔らかいなぁ……って、そうじゃない!
さ、流石、龍宮寺さんだぜ……これくらいのことなら、ビクともしないか。
だが今の俺には二段構えの作戦がある。
ククク……今から、龍宮寺さんがどんな顔するか楽しみだなァ!
フェイズ2始動じゃきにぃ!
※
お店に入店すると、俺はすぐにラノベコーナーの方に向かった。
ここで、俺が龍宮寺さんもドン引きするようなタイトルのラノベを買えば、きっと彼女はすぐに俺に愛想を尽かすに違いない。
そう言えば、何で龍宮寺さんは俺に対してあんなにも好意的なんだ? 実は血の繋がってない生き別れた兄妹だったとか、昔結婚の約束を交わした幼なじみとかならだったとか、そんな理由ならまだ分かるんだけど……うーん、心当たりがない。
というか、心当たりが全部、ラノベっぽいな……。
いいんだい。ラノベは人生の教科書なんだから。
まぁ、今はいいか。そんなことよりもだ。
「伊織君って本も読むんだ。何かオススメのとかあるの?」
来た!
こういった場所に来ると、そりゃあオススメの奴を尋ねてくるよな。
「俺のオススメ? そうだなー、いっぱいあるんだけど、最近なら──」
悪いけど、今回はこっちも必死だからな。
実力学校へシリーズとか、アートオートオンラインとかじゃなくて、もっときついやつをオススメさせてもらう。
「やっぱりこれだよね!」
保健室でおっぱいもみたいって叫んだら幼なじみが彼女になった件~その日から義妹や義姉が、俺に胸を揉ませようとしてくる~
案の定、龍宮寺さんは固まっていた。
さぁ、龍宮寺さん、言ってくれていいんだよ!
こんなやべぇタイトルのラノベをオススメするオタク男子はキモいから付き合えませんって!
さぁ! さぁ!
「も、もーう! 伊織君は本当にえ、エッチなんだから……私のじゃダメなの?」
な、なにぃいいいいいい!
ど、ドン引きしてないだと……?
というか、そのタイトルのラノベを持ちながら顔を赤らめてるって、何かエロいな……。
むしろ、俺の方が恥ずかしくなってくるような……いかん、これで龍宮寺さんが俺のことをクズ虫のような目で見るなら平気だったのに、リアクションが違いすぎるから困る……。
「むむむっ……確かに表紙の女の子の胸は大きいけど、私だってまだまだ大きくなるのに……」
やばい……龍宮寺さんが可愛すぎる。
というか、表紙のヒロインと張り合ってるってなんだ……反則やでぇ……。
「けど、伊織君はこういう本が好きなんだよね、ちょっと、私買ってくる──」
「待て待て待て!」
確かに、そのラノベだって俺は大好きだけどさ、女子に読ませるには、ちょっと中身はオススメしないんだって。
それから、龍宮寺さんとひと悶着あった後、別のラノベを買ってもらうことで妥協してもらった。何か、立場が逆していたというか、本末転倒になっていたような気がするが、気のせいだろう。
さらに言うなら龍宮寺さん。普段は本を読まないらしい。なのに、俺のために無理してでも読もうとしてくれたらしいのだ。そのため、オタク向けなんだけど女の子でも読めそうな漫画を進めることになった。
何とも、龍宮寺さんは健気な女の子で──って、まただ。
俺が好きなのは竜崎さんであって、龍宮寺さんじゃない。
ほだされるんじゃない。
カムバック俺!
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