第四話 龍宮寺さんって、実は独占欲が強い女の子

「うーん……伊織君の雰囲気からしたら茶色が似合うと思ったんだけど、トレンドの緑の方がいいかも……せっかく、七分丈のパンツも着てくれているんだから折り目を隠せば、くるぶしが見えるくらいの長さになるから……」


 あれから、俺たちは近くの古着屋さんに来ていた。試着室の前で、龍宮寺さんは俺の格好を見ながら、どんなファッションにするか考えているようだった。


「じゃ、伊織君。次はこっちの服をお願い」


 渡されたのは、緑と茶色のカーディガンだった。


 冬にしか着ないイメージだったけど、春用のもあるらしい。俺一人だったら、絶対に選ばないような服ばかりだった。早速、服を着て、龍宮寺さんに見せてみる。


「悪くはないんだけど……シルエット感かな? あ、すいませーん! この服って、もうワンサイズ大きいのありますか?」

「こちらですね……今日はデートなんですか?」

「そうなんです、でも彼ってば、服装をちょっと失敗しちゃったみたいで」

「ちょっと……? い、いえ、失礼しました……まぁ、よくある話ですよね」


 龍宮寺さんの言葉に、店員さんは引きつった笑みを浮かべていた。そりゃ、そうだろう。普通、あんな格好していたらそんなリアクションになるわな。


「それにしても服を選ぶのが上手なんですね」

「そ、そうですよね……えへへ。まぁ、伊織君ってば何を着ても似合うからだと思います。もーう、本当にやばくないんですよ!」


 目をキラキラと輝かせながら、龍宮寺さんは店員さんにら俺の自慢をし始めた。やめて、龍宮寺さん! それはそれで恥ずかしいんだからね!


 そのまま、龍宮寺さんは店員さんと仲良さげに話しながら、俺を着せ替え人形にしていく。元々、服なんて適当に着ていればいいし、選ぶの面倒くさい派の俺だった。


 けど、服を選んでもらうのって悪くなかった。なんなら、ちょっと楽しいくらいだ。


「じゃ、伊織君。最後はこれを着てね」


 そう言って、龍宮寺さんは試着室のカーテンを閉める。そのまま、店員さんもどこかに行ってしまった。


 龍宮寺さんに渡されたのは深緑色のロングカーディガンだった。試着すると、恥ずかしながら感動してしまった。


 確かに、ザ・中学生のシャツはダサいのだが、それでも、足元がスッキリとした黒のパンツに、太ももまである丈の長いカーディガンが良く映えていた。こう……男子の思うかっこいいって服装じゃないんだけど、女子受けよさそうな格好なのだ。なんだっけ……こういう清潔感あるのをキレイ系っていうんだっけ? 


 そして、試着室のカーテンを開けた瞬間、龍宮寺さんの表情がパッと華やいだ。まるで花が咲くような笑みで、不覚にも見とれてしまった。


「~~っっ! いいじゃん! 清潔感あって爽やかだし、うんうん……エへへ♪」

「そんなに喜ばなくてもいいだろ……バカ」


 龍宮寺さんの顔を正面から見ることができなかった。


 八重歯を覗かせながら自分のことのように喜んでくれる龍宮寺さんを見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなった。というか、バカってなんだよ……乙女かよ俺は。


 西島伊織君じゃなくて、西島伊織ちゃんになってまうで……。


「やっぱり、伊織君はかっこいいなぁ……私、伊織君と付き合えて本当に幸せだなぁ」

「──ッッ!」


 それ以上、龍宮寺さんの顔を見てられなかった。なぜなら、自分でもはっきりとわかるくらいに顔が赤くなっているのが自覚できたからだ。


「けど、こんな格好で歩いていたら他の女の子が寄ってきちゃうかも……」

「そんな大げさな──」


 そんなことある訳ないって言おうと思っていた直後。


 龍宮寺さんは急に慌てふためきだしと思ったら、声にならない声をあげていた。

 なんだ? なんだ?


「あっ! ど、どうしよう!? え、えーと……隠れて!」

「えっ、何言って……んぐっ!」


 龍宮寺さんに試着室に押し込まれたと思ったら、急に視界が真っ暗になった。加えて、中途半端に抵抗してしまったせいで、両腕だけ前に伸ばすという訳の分からない姿勢になってしまった。


「……ん? なんだこれ」


 いろいろと事情を把握できてはいないが、俺の掌に柔らかくて甘美な感触がしてくる。その謎に柔らかいやつは、フニフニとしており、いくらでも揉んでいたくなる。

 ──フニフニ、プニプニ


「ちょっ! ちょっと……んあっ! そ、そういうのはまだ早いって……んっっ!」

「えっ!? 龍宮寺さん、なんで中にって……もしかして……」


 この柔らかい感触の正体って、もしかして、おぱーいなんじゃないんだろうか。


 う、うわっ……初めて揉んでしまった……こんなに柔らかいんだ……って、今はそうじゃなくて!


「ご、ごめん! す、すぐに外に出るから……!」

「それはだめぇええええ!」

「ちょ……龍宮寺さん……んぐっ!」


 たまらなくなって試着室から出ようとした時、なぜか龍宮寺さんから信じられない力で抱きしめられた。


「ちょ……龍宮寺さん……それはまずいって」


 龍宮寺さんの体温が先ほど以上に伝わってくる。


 胸の感触とかそれ以上に、体全体から伝わってくる龍宮寺さんの体の柔らかさとかが非常によろしくない。ついでに言うなら、俺の息子的なのもよくなかった。


 具体的に言うなら、今すぐにでも押し倒してしまいくらいにはまずい。いや、押し倒さなんいんだけどさ! ウゴゴゴゴ……。


「しっ! まだいるから……さっきクラスの──」


 せめて胸の感触だけでも良くないから、ほかのことを考えよう。落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ俺。何か考えるんだ!


 そう、こういうときは円周率であるパイ……じゃなくて、お経だ、そうお経にしよう!


 メロン、すいか、山、谷……だーめだぁ、おっぱいのことしか考えられねぇ!


「伊織君、今何を考えているの?」

「どうしたのおっぱい? 別に龍宮寺さんのこと何て考えてないよ?」

「もーう! 私の責任とはいえ……ばか……」


 あえて言うとしたなら、照れた龍宮寺さんの顔がとんでもなくかわいかったとだけ言っておく。


                ※


 試着室でひと悶着ありつつも、お会計をしてから俺達はお店を出た。


 先ほどから微妙に気まずい。いや、理由は分かっている。先ほどの試着室せいだろう。こういうときは正直に尋ねて疑問を解決するに限る。流石に、このままというのも良くないしな。


「ねぇ、龍宮寺さん? どうしてさっき試着室で、あんなことしたの?」

「だって……──たから」


「え? ごめん、なんだって?」

「だから、クラスメイトが来てたんだもん」

「???」


 龍宮寺さんの言いたいことがいまいち掴めなかった。クラスメイトがさっきの古着屋さんにいることで、龍宮寺さんに何か不都合なことでもあったのか?


「だって、こんなかっこいい伊織君見て、好きになられたら困るもん……」


 ──バキュン!


「うっ……!」


 大上さんから放たれた弾丸はまっすぐに俺の胸を貫いてきた。

 唇を尖らせながらすねる龍宮寺さんがかわいすぎた。


 第一、俺なんかの外見を見て好きになる人がいるって言うのが想像できなかった。どんだけ独占欲強いんだよ……ちょっと、グッと来ちゃったじゃん。


「ど、どうしたの伊織君? あ! もしかして、私……さっき強く抱きしめすぎたからどこか、痛めちゃった?」

「ち、違うから気にしないで……」


 龍宮寺さんが可愛すぎて、胸がきゅんきゅんしたなんて言えるわけなかった。


 このままだと、マジで西島伊織ちゃんコース直行だ……落ち着け、今日の目的を見失うんじゃない!


 俺は今日、龍宮寺さんに愛想つかさないといけないんだから、カムバックオレ!


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました~


 本日も二話投稿でございます、20:24に投稿しますので、

フォローしてお待ちいただければと思います!

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