第三話 龍宮寺さんって、実は温厚な人?
「うーん。待ち合わせ時間には早かったか?」
龍宮寺さんをドン引きさせる作戦を考えた翌日。
俺は待ち合わせ場所に向かったのだが、家を早く出過ぎたようで、待ち合わせの三十分前には着きそうだった。
ちなみに、家を出てから待ち合わせ場所に着くまでに、「ママ―、あの人」「しっ! 見ちゃいけません 」と、三回も言われてしまった。だからこそ、作戦は上手くいってるはずだ。
待ち合わせ場所でスマホでも触りながら、時間をつぶそうと思っていたのだが、
「あれって、龍宮寺さん……?」
少し離れた所から待ち合わせ場所に目を向けると、クセッ毛交じりのモフモフとした金髪が目に飛び込んできたのだ。大型商業施設の近くというともあって、人ごみが多い中でもすぐに分かった。
なんでこんな早くからいるんだ? あれ、もしかして集合時間間違えた? スマホで確認してみるが、まだ集合時間の三十分前。間違ってはいない。
って、そうじゃなくて!
「と、とりあえず声をかけないと……っっ!!」
その瞬間、俺は足を止めてしまったなぜなら、龍宮寺さんに心臓ごと奪われてしまったからだ。それほどの破壊力があった。
待ち合わせ場所で龍宮寺さんは、スマホで前髪を気にしたり、服の裾を気にしたりと、ずっと落ち着かなさそうにソワソワしているのだ。
ヤンキーとして有名な龍宮寺さんが、可愛いのは知っていた。あくまで容姿が可愛いのであって、性格はギャルのようにデリカシーが無かったり、がさつだと思っていたのに……今は、どこにでいる普通の女の子というか、むしろそれ以上に──。
「やばい、自分でも顔が赤くなっているのが分かる……どうしよう……」
だって、性格や噂がどうであれ、あんなきれいな子が、髪型は大丈夫かしら、服はおかしなとこないかなって、三十分以上前から俺のことを待ってくれていたのだから。不覚にも、胸がドキドキしてしまった。
胸の高鳴りを無視しつつ、小走りで龍宮寺さんのもとに駆け寄っていった。
「ご、ごめん、龍宮寺さん……遅くなった」
「っ! お、遅いわよ!私がどれだけ待っていたと思っているのよ……けど、今日は特別に許してあげる」
龍宮寺さんの格好は、とんでもない破壊力があった。
ネイビーのフリルブラウスに淡いクリーム色のロングスカート。それと、麦わらのハンドバッグにスポーティーなスニーカー。ただ、これだけのシンプルな格好なのに、すごい似合っていた。キメつけすぎないけど、オシャレしてきたのが分かる格好。
そういうことができるっていうのは、それだけ龍宮寺さんのセンスが良いっていうことだろう。そのせいで、周囲からの視線を集めるに集めまくっていた。
龍宮寺さんは、いつのように腕を組んで、口がへの字になっているのは同じなのだが表情だけ違った。隠しきれない、正確には抑えきれないほどの喜色が顔からにじみ出ていたのだ。
それが彼女なりの照れ隠しだと分かると
──可愛い
頭を横に振って、思いっきり自分の頬をグーで殴った。
「ちょ、ちょっと! 急に何自分を殴っているの!」
「いや、何かありえないことが頭の中に浮かんだから……」
「もーう、少し赤くなってるじゃない。ほら、ジッとしててね」
龍宮寺さんはハンドバッグからプリムラの花がプリントされたハンカチを取り出す。そして、水筒の水で軽く濡らすと俺の頬に充ててきた。
ちなみに、プリムラと分かったのは英字でハンカチに刺繍してあったからだ。
にしても龍宮寺さんが、あんなハンカチを持ち歩いているなんて意外と女子力高いんだ。
しかも、花のハンカチってちょっと可愛いし、柔軟剤の爽やかな匂いがするし……そんな意外なギャップに少しドキドキしてしまった……ん、ていうかその口調?
「ねぇ、龍宮寺さん。何か、いつもと口調が違うくない?」
「だって、あんな男っぽい口調だと嫌でしょ? それに、本当はこっちが素の口調なんだよね。家の方針で舐められないために、男勝りな口調にしとけって言われててね」
「お、おう……そうなんだ」
何か、俺の陰キャいじめられっ子レーダが深追いしちゃだめだって言ってる。何も気にしないようにしておこう。すると、龍宮寺さんの視線が俺の服装にロックオンされた。
「その格好は……?」
そうだった!
危ない、危ない……このデートは龍宮寺さんを幻滅させるためのもので、俺がドキドキしにきたんじゃない。
俺が好きなのは竜崎さん! カムバック俺!
「何って……おしゃれしてきたつもりだけど、何か変?」
ククク……今日の俺の格好は、英字と髑髏が描かれたの白Tシャツ──通称ザ・中学生。下は黒のパンツだが、裾が折り曲げれるようになっており、折り目からは、これまた英字が(ダサく)プリントされている。
高校生にもなって、中学生でも着てこないようなクソダサファッションで来たのだ。俺が龍宮寺さんの立場なら、間違いなく回れ右をしている。
さぁ、龍宮寺さん。言ってくれていいんだぜ。
あなたの格好はダサすぎて幻滅しましたって!
さぁ! さぁ!
「はっきり言って、伊織君の格好は非常にダサいわ。けど──」
しめしめ……この調子なら──
「私のために、背伸びして頑張ってきてくれたのよね、ありがとう、もうその心遣いだけで嬉しい」
な、なにぃいいいいいいいい!
う、うそだろ……普通、中学生でもこんな格好しないのに、満面の笑み……だと!?
「けど、おしゃれの仕方が間違ってるし、私が教えてあげる。せっかくだから、私の好きなファッションとかも覚えておいてよね……って、どうしたの伊織君? そんなに口を開けたままで」
「い、いや気にしないでくれ……」
あれぇ……龍宮寺さんって噂で聞くよりもずっと温厚な人?
もっとゴミを見るような目で見られるのを覚悟していたんだけど。優しくフォローしてくれた上に、服選びまで付き合ってくれるなんて、男子の理想的な女の子じゃない? それに何か、いつのまにか下の名前呼びになってるし。
心の中にふわふわとした気持ちが舞い上がる……って、何俺はほだされそうになっているんだ。
今日の目的を見失うな、カムバックオレ!
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最後まで読んでいただきありがとうございました~
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