第2話 主人公君なりの冴えたやり方(笑)

「はぁ……憂鬱だ」


 龍宮寺さんとのデートを控えた前日の金曜日。


 俺──西島伊織は、暗雲とした気持ちで、教室の窓から空を眺めていた。よく、大空を眺めていれば、自分の悩み事はちぽっけに見えてくるというが、そんなことはなかった。


 大空を眺めていても、憂鬱とした気持ちは晴れることはない。大空を眺めて悩み事がなくなるなって、どんだけ広い器を持っているのだろうか……。


「どうするかなぁ……」


 昨日、色々と考えたのだが妙案は思い浮かばなかった。勿論、俺の自業自得だから仕方ない。それでも、嫌なものは嫌なのだ。


「半殺しにされるの覚悟で、正直に伝えるしかないよな……」


 その際は、甘んじて拳を受け入れる覚悟はある。ただ、一つだけ疑問に残ることがあった。龍宮寺さんが、なんで俺の告白を受け入れてくれたのかだ。


 恋愛に憧れていたとか、めちゃめちゃ彼氏を募集していたとか、そんなタイプには見えなかったからだ。


「まぁ、考えても仕方ないか……」


 変なモヤモヤが胸の中にくすぶっていると、自然とため息が零れた。

 とりあえず、正直に伝えよう。

 そう結論付けて、俺は教室を出た。


 昼休みが終わるまで、あともう少しだ。龍宮寺さんが、教室を出て行ったのは見ていた。探せば見つかるかもしれない。まぁ、見つからなかったら放課後だな。

 それから数分もしないうちに、すぐに龍宮寺さんの居場所が分かった。


 というのも、数人の男子生徒の話声が聞こえてきたからだ。


「今日も龍宮寺さんは荒れてたなぁ……空き教室にいる子大丈夫なのかな」

「そうだけどさ、やっぱり可愛いよな」

「分かるー! 彼女に欲しいよなぁ。絶対にああいう子は、彼氏にだけデレるんだって!」

「お前、いっつもそれ言ってるよな……」

「けどよ──」

 

 空き教室か。

 すぐに向かうか。


 空き教室前につくと、龍宮寺さんの怒声が響いていた。


「もう一回、言ってみろよ!!」


 その瞬間、自分の事ではないのに、凍ってしまったように体が固まってしまった。軽く手足だって震えてきて、冷や汗が顎を伝う。まるで、その怒声に支配されてしまったような感覚だった。


 胸の動悸が、嫌に頭の中で響いていた。


「落ち着け、落ち着け……もうあの時じゃない……」


 ゆっくり深呼吸をして、心を落ち着ける。胸の動悸がおさまってから、空き教室のドアに手をかけた。


「大丈夫だ……俺にはナナちゃんがついている」


 スマホの待ち受けだけじゃない。今日は、制服のシャツのインナーにナナちゃんのキャラTを着ている。


 体全部に、ナナちゃんを感じられる俺ならいけるはず!

 いざ、戦場へ──


 空き教室のドアを開け、部屋の中を除いた時だった。隙間から覗き込む形だったので、龍宮寺さんしか見えなかったが、明らかに誰かの胸倉を掴んでいるのが分かった。


「ヒッ!」


 ダメダメ、俺の負けだ。

 ここは俺が戦っていい戦場じゃない。


 あ、昼休みの終わりのチャイムが聞こえてきた! あー、これは仕方ないかぁ……自分への言い訳ができてしまった俺は、回れ右をして、そのまま教室に戻った。


           ※


「昼休みがダメなら放課後!」


授業の間、先生の目を盗んでナナちゃん成分を補給した俺は、やる気に満ち溢れていた。


 今なら、何でもできそうな気がするのだ。

 幸か不幸か、俺の隣の席が龍宮寺さんだ。


 終礼のHRが終わった直後、俺は龍宮寺さんに声をかけた。


「龍宮寺さん、ちょっと話があ──」


 龍宮寺さんは、人差し指を口にあてて、静かにしてというジェスチャーをしてきた。


 そんな龍宮寺さんらしくない行動に、思わず固まったしまった。そのまま龍宮寺さんは、指でスマホをさしていた。

 つまり、スマホを確認すればよいってことだろう。


 確認すると、龍宮寺さんからメッセが来ていた。ちなみに、ラブレターの件の後、龍宮寺さんとRINEを交換したのだ。


『明日は楽しみしてるね(ハートのスタンプ)』


 ファッ……!? ど、どういうことだって……ばよ……? ハートのスタンプ? 


 いやいやいや、龍宮寺さんは火を吐く龍のスタンプとか血祭りにあげるようなスタンプがお似合いなんじゃないの!? 何か、俺のイメージが崩れてるんだけど、そこん所、大丈夫なのか?


一体、どんな表情で龍宮寺さんはこのスタンプを送ってきたんだろうか? 


 チラッと横顔を伺うと、龍宮寺さんは仏頂面のまま頬杖をついていた。ただ、隣の席からなのでかろうじて分かったのだが、口元がピクピク動いていたし、頬も真っ赤だった。


 それに、足をめっちゃばたつかせていた。


 りゅ、龍宮寺さん!? あなた、もしかして浮かれているの?


 そのまま、龍宮寺さんはいてもたってもいられなくなったのか、飛び出すように教室を出て行ってしまった。


 あー結局、放課後も無理だったかぁ……


                  ※


「どうすればいいんだ……」


 俺は一人、自室で頭を抱えていた。

 明日のデートまで、12時間を切っていた。

 考えろ、考えるんだ俺。


 何か、これまでの中に何かヒントがなかったか……


 なぜか、告白をOKしてくれた龍宮寺さんが俺を自然と諦めてくれるような……すると、視線がとある情報誌で止まった。


 その情報誌は『これで彼女はメロメロ! イケてる男の定番ファッション100』『ここに行けば彼女はあなたにメロメロ確定! デートで行きたい定番スポット100』の二つ。


「………………………………」


 ハッ! そうだ!

 その瞬間、頭の中に電流が奔ったような錯覚が奔った。

 

「そうだよ! 逆にいしたらいいんだ」


 俺は竜崎さんとの脳内デートや予行練習をするために、これらの情報誌で勉強した。言い換えるなら、この情報誌と真逆のことをすれば龍宮寺さんは俺のことを諦めるに違いない!


 ククク! デート中、俺が情けなくてクソダサい所を連発すれば、龍宮寺さんはきっと幻滅するに違いない。そうすれば、愛想尽かして俺のことを振るだろう。


ガハハハ、これなら誰も傷つかない。いや……主に俺が龍宮寺さんから殴られるかもしれないな……まぁ、ラブレターを間違って送ってしまったのが原因だし仕方ないし、その際は甘んじて受け入れよう。


 早速、俺は明日のために準備を始めた。


──────────────────────────────────────



 最後まで読んでいただきありがとうございました~

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