オタクの俺が間違えてラブレターを送った相手が、クラス最強のヤンキーだった~なぜか告白をOKした彼女に振られるために頑張るが、好感度が上がってしまう~

光らない泥だんご

第一章 一つの冴えたやり方(笑)

第1話 どうしてこうなった……

「告白ってこんなに緊張するもんだったのか……」


 大きく息を吸って吐き出すが、胸のドキドキは全く収まらなかった。


 夕陽さす放課後の屋上は、少しだけ特別な雰囲気がした。エモいって言うか、ムードがあるって言うか。


 俺は肩想い相手の竜崎さんに告白するために、手紙で呼び出していた。

 本当は、RINEで呼び出したかったのだが、それはできなかった。連絡先を聞いても、スマホが充電切れになっていると言われ、叶わなかったのだ。 

 タイミングが悪かっただけだろうし、仕方ない。


「まだなのかな……」


 腕時計を確認すると、もうそろそろ来てもおかしくない時間だった。


 入学してすぐ、俺は竜崎さんに一目ぼれした。


 竜崎さんは、清楚で、はにかんだ笑顔がとても可愛いい、いつも誰かの中心にいるような女の子だった。陰キャで、オタクの俺にも気さくに接してくれて、よく会話をした仲だ。


 これで、惚れない方がおかしいに決まっている。

 俺とは不釣り合いだって分かっている。

 それでも、告白したかった。


 ガチャリ。


 屋上のドアが開かれる音が聞こえた瞬間、一気に体が硬くなった。

 コツコツと、地面を叩く靴音が近づいていき、やがて音が聞こえなくなった。

 振り返らないでも分かる。後ろに竜崎さんが立っているのだ。


「す、好きです……! 突然の手紙でびっくりしたと思いますが、俺と付き合ってもらえませんか!」


 振り返って、一告白した。

 言った。

 言ってやったぞ。

 隅からウジウジと見てる奴らとは違う。俺は告白したぞ……っって、あれ?


「りゅ、竜崎……さ……ん……?」


 竜崎さんの髪型は黒髪ボブだ。

 しかし、目の前の髪型は、クセッ毛交じりのモフモフとした茶髪だった。


 竜崎さんは人の良さを感じさせる垂れ目をしている。

 しかし、目の前には気が強いと一発で分かる勝気な釣り目があった。


 あれぇ……おかしいぞ?


 品行方正で可愛い竜崎さんじゃない。なんでヤンキーとして有名な龍宮寺さんなの……?


 龍宮寺さんと言えば、俺の通う末吉高校で、とてつもない美人だけどヤンキーとして恐れられている女子だ。


 その噂は数知れない。


 100人を相手に無傷でボコボコにしたとか、カツアゲの常習犯だとか、窓ガラスをバットで叩き割ったとか、とにかくたくさん聞く。勿論、全部が全部、本当だと思っているわけではないが、いくつかは真実なんだと思う。


 それでも、一部の男子からはモテている。しかし、ほとんどの生徒ができるだけ近づかないようにしているくらいには恐れられている。


 お、終わった……キモオタ陰キャのくせに生意気よ、とか言って殺される……そう思っていたのだが、


「と、特別に付き合ってあげてもいいけどよ……?」


 まさかの告白の返事がOKときてしまった。

 な、なんでぇ……?


 今、起きていることが理解できなさ過ぎて、頭が真っ白になってしまった。

 分かっているのは、目の前の人物が、竜崎さんではなくて龍宮寺さんってことだけだ。 


「な、何だよ……何か言えよ……少しくらい、喜んでくれたっていいんじゃねーのかよ!」


 頬を赤らめながら、もじもじと指を絡ませる龍宮寺さんは俺の返事を伺っている。

 しかし、今の俺にはその眼力が草食動物を狩る肉食獣の目にしか見えなかった。


 最強のヤンキーとはいえ、龍宮寺さんは美人だ。あの龍宮寺さんに食べられるならそれはそれで……って、いやいやいや何を考えているんだ俺は。落ち着け、落ち着くんだ俺……一+一は? 答えは田んぼの田! よしっ! ……いや、駄目か?


「おい、何か言えよ!」

「……ヒッ」


 龍宮寺さんから飛んできた鋭い眼光に、小さく悲鳴を上げてしまった。だけど、運の良いことに龍宮寺さんには聞こえてなかったようで安心した。


「あ、あー……付き合えると思ってなかったから、固まって……あはは」


 お父さん、お母さんごめんなさい……龍宮寺さんの眼力が怖くて私は逆らえませんでした。


「そ、そう……なら、最初からそう言えよ……バカ」


 俺から視線を逸らす龍宮寺さんの顔が、リンゴのように真っ赤に染まっているのは気のせいだろうか。いや、きっと気のせいだよな。あの龍宮寺さんが、俺に惚れているわけないだろうしな……。


「と、とりあえず、今日から私達は恋人なんだよな……?」

「ま、まぁ……そうなるね……」


 やばい、どんどん引き返せなくなってる……どうやってラブレターが誤解なんだって伝えよう……。


「な、ならさ……お互いのことを良く知るためにも、ウィンドウショッピングってどう……?」

「え、いや……けど、それは……」


 考えろ、考えるんだ俺。

 今なら、まだ間に合う──


「何よ、せっかく提案しているって言うのに、何か文句でもあるの?」

「ヒッ……た、楽しみにしておきます!」


 この時、俺の気持ちは蛇に睨まれた蛙と言えば伝わるのだろうか?


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 タグにもある通り、こちらの作品は必ず完結します。というのも、完成したのを分割投稿しているからです。


 予定では、10話前後になりますので、少しの間よろしくお願いします。


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