第4話 重ね重ね(お題「出会ったもの、出来事を面白おかしく伝える」奥沢一歩様)



 文月。某日。

 汗をかく季節が始まり、使っていたミニタオルを追加で欲しくなった私はネットで注文することにした。


 二枚組を色違いで二セット。

 

 その日は週の真ん中。週末には三連休を控えているので遅くても一週間後には届くだろうとワクワクしながら到着を待つことにした。


 お気に入りのミニタオルは洗濯して使い込めば使い込むほどふわふわになり、フェイスタオルを半分にしたちょうどいいサイズ感で、親しい人にはプレゼントしまくりたいほどの逸品である。

 ここで商品名を出していいものかどうか分からないのであえて書かないが、気になるという方がいらっしゃるならお声がけしていただければこっそりとお伝えすることもやぶさかではない。


 そうやって楽しみに待っている私に全く別件の問題が訪れたのは注文後四日目のことである。


 建築に詳しくないので垂木なのか母屋なのか判断はつかないが――屋根の方向的に母屋だと思われる――その部分の一本の根元がスカスカになって軒天の白い部分が見えているのを発見。


 これはかなりまずいのでは?


 慌てて家主へ連絡してもらい大工さんを派遣してもらったところ、まさかの「手の施しようがない」というお言葉。


 まじで?


 聞いたところ私たちが引っ越してくる前に住んでいた方はずいぶんと長い間この家に住んでいたらしく、退去した後に床下をシロアリでやられており畳からフローリングに改装したが、すでにその時には屋根の方までやられていたかもしれないとのこと。


 この家に越してきて三年。

 どうやら私たちはシロアリと一つの家を共有していたらしい。


 怖すぎる。


 引っ越すか、分かっていててこのまま住み続けるかの二択しかない現状。更に台風シーズンを控えているという恐ろしい事実。


 途方に暮れたまま始めた物件探し。

 探そうにもこの時期は物件が少ないと様々な不動産で言われた通り実はまだ難航中だが、その間にのろのろ台風に直撃をされたにもかかわらず屋根も吹き飛ばされずに済んだことは運が良かったと感謝するばかりである。


 そうこうしている間に三連休が明け、注文から一週間が経ったがいっこうに発送された形跡がない。店舗出荷準備中とあるが一体いつになったら準備ができるのか。


 さすがに遅いと某SNSで呟いた二日後ようやく「発送しました」という案内メールが届いた。郵便局の追跡サービスのURLがあったので調べてみたが追記されていた番号は追跡番号ではなかったため配送状況を確認することができないという首を傾げるようなものだった。


 おいおい、どういうことだい?

 でも発送したというメールがきたのだから届くに違いない。


 おとなしく待とうと決めて二日後。


 母を助手席に乗せて車を走らせていた私の耳にピシッ!というなにかがガラスに当たった音が響いた。

 ルームミラーでリアガラスをチェック――問題なし。後部座席のガラス、異常なし。運転席助手席のガラス正常。

 一見して不具合はなさそうだと意識を前に戻した私はフロントガラス、右側ワイパーのすぐ下に小さな星型の傷に気づく。そこから五センチほど上向きに罅が入っていた。


 なにが飛んできたのか全く見えなかったし、一般道路なので対向車もそんなにスピードは出ていなかったはず。


 おそらく当たり所も運も悪かったんだろう。


 お世話になっている車屋さんに連絡して台車を用意してもらい、愛車は新しいフロントガラスを得るために旅立っていった。


 こうも悪いことが立て続けにあると頼んでいたタオルが届くのか怪しくなってきて、居てもたっても居られずに問い合わせフォームで「いつ注文したのか」「荷物追跡URLが使えない」ことを記し発送からどれくらいで届くのか教えていただきたいと頼んだ。


 すると翌日「大変失礼いたしました。商品は明日発送予定となっております。今しばらくお待ち願います」という返答が二十二時五十五分に届いた。


 問い合わせの内容から若干ズレた内容。

 戸惑いと不信感。


 「発送しました」のメールが来たのは五日前である。なのに明日発送予定とはなんぞや???


 もしかしたら発送した後に荷物が行方不明になった可能性もあるからと「元々発送していなかったのか、発送したが何事かあったのか」を確認してみる。


「手違いで発送のご連絡を入れてしまった」


 ああ、なんということだろうか。

 こんなことならもっと早く問い合わせしておけばよかった。


 でも注文して二週間も届かないことがあるとは思わないではないか。


 そう。皆様お気づきだろうか。

 これは僅か二週間ほどの間に起こった出来事である。


 お気に入りのタオルを注文し、シロアリに蝕まれているのが発覚し、フロントガラスに罅が入り、注文したものが二週間たっても届かない――そのうちのひとつであれば「そういうこともあるだろう」で済む。


 それが三つである。

 え?私なにかやっちゃいました?


 悪いことは重なるとは昔からよく言われているけどここまでとは。


 でも大病を患ったわけでもないし、事故を起こして誰かを傷つけたわけでもない。

 タオルはその後無事に届いたし、車だって戻ってきた。家探しをして引っ越すという作業が残ってはいるが、台風さえ来なければなんとかなるだろう。


 生きていれば色々ある。

 何事も面白がって笑い飛ばせるような余裕のある人生を送りたいものだが、果たして台風で屋根を飛ばされてもそう思えるかは微妙だ。


 小さなこともそれなりのことも重なればダメージは大きい。

 願わくば皆様の元にこのような珍妙な出来事が起こらぬように祈るばかりである。


 どうぞネットでご注文後発送準備中が一週間続いたらお問い合わせはお早めに。

 白い悪魔は密やかに忍び寄っておりますので家の周囲は頻繁に確認したほうがよろしいかと。


 そして運転中に飛来してくるなにかにくれぐれもお気をつけて。





最後に。

今回奥沢様にいただいていたお題は「今日のご飯」「今日すれ違ったあのヒト」「今日摂取した作品」でありました。

 ですが”出会ったものやできごとを、面白おかしくあるいは深く伝える”というコンセプトであるとも添えられておりましたので、お題に沿って書くというものからはズレてしまいましたが、我が身に起こった二週間の出来事をぜひ書き残したいとこのような形をとらせていだたきました。

 いずれまた機会があれば本来のお題に挑戦したいと思っております。

 お題の提案誠にありがとうございました。

 


 

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