第3話 節目の晴れ着 お題:「和服(着物)」冴吹さん
少しざらついた、たとう紙の表面を一撫でしてから手前側の紐を解く。そっと上部の紙を外すと緑の色が鮮やかに目に映った。
左右の紙を止めている紐も解いて現れた着物の柄は定番の松竹梅と毬と組紐。松竹梅は生命の強さや輝きを、毬はすべてが丸く収まり弾むような幸せが長く続きますようにという願い。そして組紐は魔除けを意味する。
娘の初節句のために実家から送ってもらった着物は二十数年前のものにもかかわらず色褪せずに目の前にあった。
虫に食べられたり、カビが生えたり、色素沈着したりと着物の扱いは気を遣うし手がかかる。こうして娘に自分が着たものを着せてあげられることができるのは着物を愛していた母が手入れを怠らずに大事にしてくれていたからだ。
懐かしさに胸の奥がきゅっと甘く痛む。
「古典柄って流行りがないから助かるなぁ」
最近では洋風の花や柄も多く見られるけれど、二十年後に見た時に流行遅れに感じてしまう可能性はある。
最近の柄は華やかで色味も綺麗だし目鼻立ちのはっきりとした若い子たちが纏う姿は素直に綺麗だと胸が高鳴りはするが、個人的には古典柄や落ち着いた色合いの方が好みである。
普段から着物を好んで着ていた母の姿を見ていた影響が大きいのは否めない。
「ピンクとか赤とかじゃないのもお母さんらしい」
初節句で仕立てた着物は七五三でも着ることになる。
三歳の時は窮屈で早く脱ぎたいとぐずった記憶しかないけど、七歳の時に自分の着物が他の子たちと色が違うことにほんのちょっぴり優越感を抱いた。
赤やピンクではなく緑の着物に赤いちゃんちゃんこを合わせているのは自分だけだったから。
人と違うことがうれしかったんじゃない。
―—あんたは色が白いから緑が似合うよ
そう言ってくれたから誇らしくてたまらなかったんだ。
「そういえば振袖も緑だったな。さすがブレない」
あの時も緑を着ていたのは自分だけだったと笑う。
袖を切っても着られるように鮮やかさよりも少し深い緑色を選んでくれたけれど、そのままにしてある。
「ありがたいことに娘も色が白いからね」
母親のお古はイヤだと言われたら仕方がないから諦めるけれど、夢を見るくらいは構わないじゃないか。
大切な節目をそうやって特別な思いと着物で祝いたいという母の気持ちは、自分も同じ立場になったからこそ実感できるものでもある。
「どうか健やかに幸せな人生を」
そう願って。
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