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「誕生日おめでとう」

「昨日はごめん」

「おれ、ほんとは自分の姿覚えてなくて、っていうか、生きていたころの記憶もなくて」

「だから正直、自分がほんとうに幸輔なのか自信ないんだ」

「ケンが、自分をよく見せようと偽ってるみたいなことを言うから、ついムカッときた」

「ごめん」

「偽ってるわけじゃなく、覚えてなくて。妹のブログで見たことはあるんだけど、実感できない」

「もしかしたらおれはAIかなんかなんじゃないかって、ずっと考えてる」

「なんにも覚えてないんだよ。学生のころなにしてたかとか、なにが好きでなにが嫌いだったとか」

「おまえが好きだっていう記憶しかなくて。でもそれだって、チャット履歴がネット上で全部閲覧できたからそう思い込んでるだけなのかもしれないし」


「おれってなんなんだろうって、ときどきすごく不安になる」



「それで、器があればおれはおれでいられるような気がして」



「だからごめん。ほんとはおれのためだった」



「嘘ついてごめん」



「おまえと話せるの、すごく楽しくて幸せなんだよ」



「でも声かけちゃいけなかったと思う」



「だからおれのこと忘れていいよ」



「ごめん。見たら返事してほしい」



「仕事終わってからでいいから!」



「今って仕事中?」




「うるさくてごめん」





「ねえ怒った?」





「やっぱおれいないほうがいいよな」





「雨大丈夫?」





「ごめん。待ってる」





「はやく帰ってきて」







「ケン」






「戻ってきちゃってごめん」









「好きだよ」






「ごめん」












「ケン、」















「生きてるよな?」




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