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 たとえばの話。VRの技術が発達して、3Dモデルの幸輔とセックスができるようになったとする。でもおれの肉体がこちら側にあり幸輔のいれものが向こう側にある以上、互いの肌に触れることはできないから結局は平行線だ。幸輔の姿が目の前にあったところで、おれはおれの手で射精をうながすしかない。それのどこがセックスだろう。

 肉体がなければ欲望もない。たましいは睡眠もセックスも求めない。それでも不機嫌になることはあるようで、おれが無断で朝帰りしたことに幸輔はめずらしく腹を立てた。それでずっとネットカジノに入り浸り、溶かした七万を十二万にして、夕方までクレーンゲームで遊んだと言った。

「オンラインで遊べるクレーンゲームのサイトがあって、ずっと気になってたんだけど、ものはいらないから悩んでてさ。でも、ケンの家に送っちゃえばいいって気づいたから、しばらくしたらぬいぐるみやらキャラクターグッズやらがいろいろ届くと思うよ」

 最近はネットでなんでもできる、と幸輔は嬉しそうだった。ぜんぜんなんでもじゃない。事実、おれが望むものはどうしたって得られないし、得られたとしても幸輔が与えられるものではなかった。

「あ、でもこれは誕プレじゃないから安心して。誕生日にはもっとちゃんとしたもん買ってあげる。ほしいものある?」

 とくにないと答えたのを幸輔は遠慮と捉えたらしい。そういう前向きに解釈するとこ、ほんと根アカだよな。なんで幸輔はネットなんかしてたんだ。現実世界で居場所なんていくらでも作れそうなのに。

 誕生日まであと四日に迫っていた。たぶんネット通販でなにかしら買うつもりなんだろう、好きに使える金があるのはいいなと思った。おれもまとまった金があるなら、死ぬ前に一度は海外に行ってみたい。言葉の通じない遠い国ではおれの言うことなんかただの雑音だ。男が好きだと叫んだっていい。

 匿名は人を自由にする。そのせいでネットはほとんど無法地帯、どこもかしこもバカで溢れている。好きだった俳優が映画の共演者と不倫して、Instagramのコメント欄が炎上したときもそうだった。羅列するむき出しの本音がこぞって正義を武器にして、見えないところから攻撃する。集団リンチだと思った。人間はグロテスクなショーを安全な席で眺めるのが好きだから、こういうのはぜったいになくならない。

 陰惨な少年時代を過ごした人間にとって、インターネットは唯一の逃げ場だ。イルカが水面に浮上して息継ぎをするように、ときどき顔を突っ込んでただ息をしている。幸輔もおれと同じだろうか。ネットの海に沈む幸輔のたましいを思う。

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