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敷きっぱなしの布団に寝転がると、ベランダの窓から青空が見える。暗い部屋でブラウザを立ち上げたときの真っ青なスクリーンに似ていた。幸輔はあの窓の向こう側にしかいないのだと思った。
幸輔の返事は来ない。あれから家に帰ってスマホの電源を入れると、「終わった?」「まだ仕事?」「いまどこ?」「遅くない? もう家?」「心配だから連絡して」と数分おきにメールが来ていて、幸輔は夜通し待ってくれたらしかった。
「ごめん、充電切れてた。もう家ついてるよ」
十分以上経っても返事はなく、やがておれは眠ってしまった。それで、夢を見た。幸輔といつものように映画を観る夢だ。
その映画には先輩が俳優として出ていて、マフィアに潜入する警察の役を演じていた。知らないうちに映画にも出るようになったんだなと思った。これはおれの職場の先輩だと幸輔に教えて、おれはなんだか得意げだった。
しばらくして、今度は警察に潜入するマフィアが登場した。顔が映ったと思ったらおれだった。幸輔はおれの姿を見たことがないので気づかない。上司役の宇津々さんが、ハッテン場には行ったことはあるかと尋ねた。ないです。おれの声が答えた。心臓がばくばく言った。祈る気持ちで観ていた。
宇津々さんが背後からやってきて、突然画面の中のおれを抱き締める。皮膚が触れあう感覚を思い出し、全身が熱くなった。やばい。この先は見ちゃいけない。幸輔はずっと沈黙していた。頭の上で雨が降りはじめた。そういえば梅雨入りしたんだった。幸輔、部屋が水浸しになってるよ。幸輔はなにも言わない。スクリーンの中で、宇津々さんがおれのケツをガンガン掘りまくっていた。
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