4
【信じてくれた?】
ブログのページを開いていたところに突然ポップアップウィンドウが現れて、「はい」と「YES」で返答を迫られた。
なんだこれ。
むかついたのでスマホからメールを送ると、返事はすぐに届いた。
「セキュリティの警告文ごっこ」
「イラッとした」
右上の×マークをクリックしてメールボックスに戻る。すかさず「なんで消すの!」と文句が来た。
「なんで今さら連絡してきたの?」
ちょっとキツい言い方だっかもしれない。送ってしまってから悩んだって遅いのに、会話が途切れるたびに自分のレスを読み返して、もっとうまい表現があったとかいらないことをしゃべりすぎたとか考える。頭の中でこねくりまわしたところでもう文字は相手に届いていて、そうなるともう待つしかなかった。おれはいつだって軽率すぎる。
思考が行ったり来たりしているうちに一生のような時間が過ぎ、スマホの振動で我に返った。新着メールの一件の通知が光る。
「なんだろうな、漠然とした後悔みたいなのはずっとあって、まあ幽霊だから当然か? でもそれしかなかったから我慢した。九年。そのうちおまえはほかの誰かと付き合って、もしかしたら結婚して子どもだってできるかなーと思ってた。それならしょうがない。おれはたぶん、おまえのこと幸せにできないから。なのにいつまで経っても、結婚どころか恋人すら作らないじゃん。もうすぐ三十だろ。さみしがりのくせに。いつまでもぐずぐずやって、なんか心配なんだよな、余計なお世話だと思うけど。それで連絡しちゃった」
なんで知ってんだよそんなこと。ほんとうに余計なお世話だよ。
もしかしてこいつ、おれが死ぬつもりだってわかって連絡をよこしたんだろうか。そういえば、中学のころのブログを全部読んだとか言ってたな。なに書いたかなんて覚えてないけど、だいぶイタいことになっているのはわかる。
「どこまでおれのこと知ってんの」
「まあ、ネットでわかる範囲のことはだいたい? Twitter、Facebook、mixiもやってたな。××高等学校出身のバドミントン部所属。放置するならコミュニティー抜けてからのほうがよかったかもね。オトモダチのヨウヘイくんは大学時代のバイト仲間だっけ。カツ丼屋で働くのは楽しかった? ちょっと前までバカッターとか話題になってたのに、リプライに店名入れちゃうのは危ないんじゃねーかな。まあ、そんなウカツなとこもかわいいけどね。あと、ツイート内容と写真の背景で実家の住所もある程度割り出せちゃったから、そこも気をつけたほうがいいと思うよ。それからAmazonの購入履歴、ケンって結構カタチから入るタイプだよなあ。完全自殺マニュアルは勉強になったか?」
背中にどっと汗がわいた。メール画面を一度手放し、新しいタブでAmazonにアクセスする。幸輔の話す内容はほとんどが大学中退までの情報で、おれがそれなりに友だち付き合いをやっていたころの話だが、自殺完全マニュアルについてだけは違った。購入履歴まで行きつくと、くそ、やっぱり。購入日は三月八日、幸輔が最初のメールを送ってきた日付と一致する。
「ネトストじゃねーか。訴えるぞ」
「へえ。アナルビーズを買おうがそれをどうしようが、おれはべつにいいと思ってるけど」
「死んでくれ」
きつい。こういうことになるのがいやだからすべての履歴を消していたのに。
「それで、ケンさえよければだけど、おれはまた前みたいにやり取りしたいと思ってる。もともと顔も見ず声も知らずの付き合いだったんだし、幽霊だって同じだろ? なんにも変わんないよ。たまにでいいからさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます