第11話 きばって行こう体育祭

 体育祭なんて嫌いだった。


「何で運動音痴の僕が騎馬戦なんてやらなきゃいけないんだ。誰だよ僕が寝ている間に推薦したの……」


 愚痴っていてもしょうがない。先生に呼ばれて、僕は慌ててグラウンドに向かった。




『それではこれより、1年A組対1年C組の騎馬戦をスタートします』


 アナウンスと同時に、わぁっと歓声が上がった。

 俺達のクラスと他のクラスの男子生徒が集まっていて、暑苦しい熱気を感じる。

 応援席にいる女子達の黄色い声援が届いてくる。

 その中心には、当然のように僕の想い人である姫乃の姿があった。


――くそぉ……可愛い過ぎるぜ……いいところを見せたいよな……


『各騎馬、所定の位置についてください』


 放送委員の指示に従い、僕達は指定された場所に立った。

 この騎馬戦、なぜか僕が上で、馬をクラスでも運動が得意で人気のある龍馬君がやっていた。

 正直あまり話したことがないから不安はあるけど、彼はスポーツ万能だから大丈夫だろう。


「すまない。僕なんかの馬を君にやらせて。正直罰ゲームだよな」

「全然気にしてないし大丈夫だよ! それより、絶対に勝とうぜ!」

「ああ、そうだな。じゃあよろしく頼む」


 そしていよいよ競技が始まった。

 最初はゆっくり様子を見ようと思ったけど、龍馬君達の馬はすぐに敵に向かって突っ込んでいった。


「今だ! 敵の鉢巻きを取るんだ!」

「ああ!」


 龍馬君はまるで別人みたいに大きな声で叫んだ。すると、それに答えるように周りの騎馬も勢いよく向かっていく。


「いけぇー!」


 龍馬君の掛け声と共に、僕はただ必死に手を伸ばしていった。それはあっという間の出来事だった。


「やったぜ! 俺たちの勝利だ!!」

「僕……何かやったか?」

「ああ、凄かったよ!」


 どうやら僕でも出来る事があったようだ。そんな僕に姫乃さんが近づいて声を掛けてくれる。


「あのね、頑張ったねって言いたくて……」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンッと大きく跳ね上がった気がした。


 ――うわっ……何これ……めっちゃ嬉しいんですけど!!


 こんな風に褒められたことなんて一度もなかった。だから余計に嬉しかったのだ。


「姫乃さんの応援のおかげですよ!」

「うん、本当に良かった。私も推薦したかいがあったよ」

「推薦したのお前かい」


 いけないつい突っ込んでしまった。でも、照れている姫乃さんは可愛くて。

 それからリレーが始まるまで、僕たちは少しだけ会話をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る