北九州成人式ウォッチング
きょうかちゃん
北九州成人式ウォッチング
北九州に旅行に来た田中家の三人、父の誠二、母の優子、息子の太郎はなぜか双眼鏡で、成人式の様子を見ていた。
「ねぇ、パパなんで北九州にまで来て知らない人の成人式を見ているの」
「それはね、九州文化の中で北九州の成人式はとても重要なイベントだからだよ。九州に旅行に来たら北九州の成人式は見逃せないイベントだよ」
「そうね、見逃せないイベントね」
家族は双眼鏡を覗き込む。
「どうだい、今年の成人式も荒れているだろう、太郎あそこにいる眼帯をした両腕に包帯を巻いている青年が見えるかい」
「うん見えるよ、あのお兄ちゃん大丈夫かな、眼帯に包帯ですごい怪我をしちゃったんだね」
「いや彼は病気なんだ、もう六年も闘病しているんだ、中二病という病に侵されてしまったんだよ、彼の名は中島悠人、大学にも行かず、働きもせず、自宅で右腕が疼くとか言いながら毎日魔法を唱えているんだ、最近は左目が魔眼になったらしいよ」
「そうなんだ、大変だね、そういえばパパ、パパは常に左手に包帯をしているけど大丈夫?」
「大丈夫だよ、この包帯はパパの内なる力を封印するための物なんだ、この包帯を外さない限りは地球は平和さ」
「そうね、平和ね」
家族は別の新成人を双眼鏡で覗き込む。
「パパ見て、ヴィトンのスーツを着て、ロレックスの腕時計をして、フェラーリに乗って、たくさんの女の人を連れている新成人がいるよ、きっとすごいお金持ちなんだね」
「そうね、すごいお金持ちね」
「いや、それは違うんじゃないかな、2022年北九州成人式パーフェクトブックには、彼の家はごく一般的な家庭でそんな余裕はないはずだよ、それに彼は大学生だ、彼自身にもあまりお金はないだろう、ガイドブックには最近クレジットカードを5枚も作ったって書いてある、もしかするとリボ払いで買ったのかもしれないね」
「そうね、リボ払いなら買えるわね」
「リボ払いはそんなに優しいものじゃないよ、リボ払いはとっても利子が高いんだ、彼はリボ払いで相当使ったみたいだけど、そのお金を全て払うのはとても大変だと思うよ」
「それは大変だね、だけど彼には女の人がいっぱいいるよ、とってもモテるんだね」
「確かに女の人がいっぱいいるけど、所詮全員、金目当てさ、もし彼が全てリボ払いで払っていると知ったら、女の人は全員彼から離れて行くと思うよ、彼の将来を考えたら目も当てられないね」
「そうだね、目も当てられないね」
「そうね、目も当てられないわね」
「そう言えばパパ、一昨日、近所のお兄ちゃんが全身ブランドに包まれて、たくさんの女の人とピンクのハートの描いてあるホテルに入って行くのを見たって言っていたよ。ブランド品って高いのにお金はどうしたの」
「リボ払いだよ」
「パパ、後で重要な話があるわ」
「ハハッ」
家族はまた別の新成人を双眼鏡で覗き込む。
「パパ、すごい人がいるよ、赤い袴に紫色の帯、金色の旗を背中に背負って虹色のリーゼントをしている人がいるよ」
「彼の名は橋本紳助君、フリーターだよ、別にヤンキーでもないのにすごい格好だね」
「パパ、彼はあれでかっこいいと思っているの、そうだとすればとんだ勘違い野郎だね」
「しょうがないよ、彼は高校を卒業して別にやりたいこともないから、フリーターになって、何も考えずにダラダラ過ごしているんだ。だけど何かやりたいことがあるわけでもないのに、何者でもない自分が嫌だからヤンキーでもないのにヤンキーの格好をしているんだ。ほら彼を見てみな、元々ヤンキーじゃなかったからヤンキー連中の輪の中には入れないし、ヤンキーみたいな格好をしているから普通の格好をしている人たちの輪にも入れないでいるよ、滑稽だね」
「そうだね、滑稽だね、何者でもない自分に格好を変えてまるで自分が何者かであるように取り繕っているんだね」
「太郎、彼のようになってはいけないよ、どんなに自分が何者でもなくてもそれを隠してはいけないよ、何者でもない人間なんていないのさ」
「そうね、何者でもない人間なんていないわね」
「そう言えばパパ、近所のお兄ちゃんが一周間連続で公園のブランコに乗っているパパを見たって言っていたよ」
「パパも何者でもなかったね」
「太郎、向こうでアイスでも食べてきなさい、まま、パパと重要な話があるの」
「わかったよママ、僕はアイスを食べているよ」
「ハハッ」
太郎はアイスを食べに行った。後ろでは鈍い音と共にパパが3メートル後ろに飛んで行った。
北九州成人式ウォッチング きょうかちゃん @1a1a1a234
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