第10話 勇者カリム

 遂に勇者の前に姿を現したテムズの顔は黒々と宵闇を取り込み、月明かりにに照り輝いていた。健在なデニスとサイガは、変わり果てた彼の現状を飲み下せないでいるようであり、武器をそれぞれ構え直している。


「ご主人様が来てくれた!」


 囚われているエリアルは彼が側にいると分かるや、使えない足と腕に頼らない、地面を転がる形で驚く敵対者の合間を颯爽と抜け出した。


「二人も倒してくれたか。良くやったな」


 テムズは例によって仕事を果たしてくれたエリアルの頭を撫でてやる。彼が描いたシナリオからは外れた展開だが、それ以上に奴等を苦しめていたようなので、テムズには文句の一つも浮かびようがなかった。


「ご主人様、あたし鮮明に思い出したんです。あたしに付けた傷、これを付けてくれたのはご主人様だって!」


 エリアルが腕に残っている傷を見せびらかしながら、舞い踊る。テムズの解除魔術、フォーマットにてエリアルの自由を奪う光の輪を取り去ると、その動きは更に激しさを増した。

 まるで飲んでいた毒が効いていないような軽いフットワークで彼の周りを駆け回り、最終的にはエリアルの腕にしがみ付く。

 

「テムズなのか……」

「ああ、死の淵から一度は蘇ってきたよ。もうこの世から肉体は消えたがな」

「どういう事!」


 テムズが着込んでいたローブを勢い良く振り払う。そこに見せるは件の魔術の傀儡と化した、人間の肉体とは構造そのものが乖離している、魔物と呼ぶべき男が下着以外は裸で立っていた。テムズの若々しく多量に生えていた髪は抜け落ちており、優男らしく細かった胴体魔力を取り込んだ結果、山のような筋肉が付いていた。


「この俺の姿を刮目していろ。直に分かる事だ」


 テムズの腕から黒い魔力が刃物のように発せられ、左手に聳え立っていた木々をひたすらに薙ぎ倒す。


「あの強力な魔物と遭遇した時、足手纏いだと切り捨てた男が、まさか魔物に成り果てるとはな。手段を選ばなければこの悪意が覆う世界を生き残れると言えば聞こえは良かったが、現実はそう甘くないという事か」

「貴様も俺も運命に翻弄された身だ。自分だけを悔いる必要は無いだろう。あの選択は間違いではなかった。俺がそのまま商人になってやろう」

「じゃあその刃を今すぐに収めろ。かつての仲間だった縁だ。ここは見逃してやる」


 サイガの忠告をテムズは無視し、黒き刃を彼の聖剣とかち合わせる。ああも擁護したにもかかわらず、テムズの殺意は本物であり、それが収まる事も無いまま、悪戯に振り撒いていく。


「俺にも腐ってはいながら、矜恃というものがあってな。俺自身としてはお前たちの行い自体を咎める気は無くとも、殺されかけた奴と同じ世界で息を吸うのは御免なんだよ。俺が今後を生きるためには、俺の名誉を辱めたお前たちは邪魔でしかない」


 テムズの剣は次第に勇者を追い詰める。防戦一方のサイガに容赦せず、緩まぬ剣筋が彼の鎧にひびを入れていき、テムズの欲を一つ、また一つと満たす。


「ただ殺すだけでは詰まらなくてね。この身体になってから色々と思案したんだ。俺が主催する宴、是非受けてくれないか」


 木に背中を預けたサイガを追い詰めたテムズ。高揚していた彼は剣を大きく振り被り、らしからぬ隙を晒している。百戦錬磨の勇者はその隙を逃さない。

 サイガの一閃が彼の成れの果てを斬り捨てる。それからすぐに彼の上半身と下半身は同一の存在を保てなくなり、上半身が滑るように崩れ落ちる。


「残念だが君の申し出は断らせて貰うよ」


 物言わなくなり、散りとなるだけのかつての仲間を背に、サイガは厳しく言い放つ。


「そんなこと言わずにさ、付き合ってよ、サイガ!」

「カリム、いつの間に」

「さ……い……」

「デニス!」


 麻痺毒で動けなくなっていた筈のカリムは仲間であるはずのデニスの背中を剣で刺していた。

 カリムが掴んでいた彼女の髪を放し、地面に崩れていく。


「そんなこんなで、テムズはこのあたし、カリムとして貴方に復讐しまーす!」

「貴様は……!」


 デニスに隠れていた彼女の左目には、それを裂くような黒いひびのような痣ができていた。そして右目にあった健在な宝石のような赤目は鳴りを潜め、全体に魔術を刻み込んだ魔眼がその座を席巻している。


「もちろんさっきみたいに断らせないよ。たっぷりと苦しめてやるんだから」


 マントを靡かせる彼女は彼女らしい、軽口が自慢な男勝りの言葉遣いでありながら、中身は先程滅んだ筈の修羅そのものであり、笑みを携えながら手に持った剣で、躊躇い無く彼の鎧を二つに引き裂く。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


 カリムによって負傷したサイガを相手に、彼女はもちろん、手を緩めずに殺す気でとどめを狙う。彼が呼吸をしなくなり、心臓の脈動も途絶えるまで、彼女たちが踏み付けている土の奥にまで根を張っているかのごとき、血が塗り付けられた剣に宿る執着は無くならない。


「このアタシの手で殺してあげるよ」


 カリムの剣がサイガの背後にある木を突き刺す。サイガには刺さっておらず、彼の脇を抜け、木に風穴を空けているのが彼女には見えた。

 負傷しているサイガが油断していたカリムを蹴り飛ばす。


「痛っ。あはっ、酷いなぁ。散々アタシをこき使っておいて、お礼の一つも無いなんてね」


 左目に魔術を宿すようになったカリムは、一人逃げ出したサイガを緩慢な足取りで追う。いつでも殺せる。そんな余裕が垣間見られる彼女は


「行かせんぞテムズ。あいつはこの世界に必要。均衡のためにも殺させるわけにはいかんのだ」

「均衡……」


 彼を逃がそうと、暴走するカリムの前に立ちはだかるダルク。麻痺してしまい、動かない身体でありながら、世界を守る重要な存在である彼のための砦となる。


「死に損ないはそのまま眠っていてよ」


 木槌を振るう彼を、カリムは剣の一振りで斬る。


「がはっ」


 麻痺している身体を無理を承知で操り人形として使役するカリムと、それができていないダルクとでは、先に見える勝敗は分かっているも同然。血を噴き出し、倒れていく彼へ振り返ろうともせず、彼は森の奥へ消えていた。


「ダルク、確かにアタシは、いやテムズはもう死んでいる。でもこうして地に足を着けているんだ。新しいこの肉体に定着してね」


 そう、使役である。このカリムはカリムであって、カリムではない。カリムの名と身体、そして力を持った別人となっている。中身は先程名乗ったように、テムズの概念を取り入れていた。


「ケホ、ケホ! テムズさん。こんな事はもう止めて下さい」


 カリムに背中を疲れたデニスは武器を構え、対抗する意思表示をしていた。もう彼女に抗う力は無い。カリムには周りを飛び交ううざったい羽虫と同列にしか映らなかった。


「ご主人様のローブ、良い匂い。病み付きになっちゃうよ!」

「アタシにも寄越せ。独り占めは許さん」


 血の色を帯びた、テムズが着ていたローブ。それを奴隷であるエリアルとベルカが仲悪そうに取り合っている。

 カリムの背中で鬩ぎ合う騒音が耳で震える。彼女は剣を一旦仕舞い、彼女たちの方へ足を運ぶ。


「貴女はご主人様!」


 到底分からないであろうと決め付けていたカリムだが、彼女たちの鼻を侮っていたようだった。


「アタシ、女になったんだけど。そうやって擦り寄られると、まるで恋人みたいで、ムズムズする」

「貴女が例え何者となろうと、あたしたちの目は誤魔化せません」

「わん! あたしはご主人様の匂いが貴女から感じられるので気付きました」


 彼女たちはこの通り、テムズの匂いには鋭敏らしく、それを頼りに現在のカリムの正体を看破する。こんな事はテムズにも想定不能な珍事であり、身の危険を覚えた彼は思わず彼女たちから飛び退く。


「ご主人様、怖がらなくて良いです……」

「あたしたちは貴女の一生の味方。貴女のためなら、この身体をすぐに壊しても良いんですよ?」


 手負いのサイガを再び追い詰めるには、特別な力も何も要らない。地を抉るような大胆不敵な足運びで丁度良い。

 カリムのその安直な考えは見据えた先に適合している。傷を帯びた彼が、口に溜まった血を飲んでも彼女から逃げようとしているのが肉眼に捉えられたのだ。

 剣を携える彼女の足は、速さを何段か引き上げる。

 気持ちが逸る。

 早く殺したい。

 無論、ただ殺すだけでは飽き足らない。

 サイガを殺したとて、テムズの復讐は幕を閉じない。それが始まりの鐘。カリムの身に宿った魂の行く先は、これから殺す彼に代わり、世界のバランスを担う事である。


「助けてくれ……」


 ダルクが死に際に宣った事はごもっとも。彼は有力な勇者。倒れでもしたら魔族と人間が互いに保っていた均衡が崩れ去る。自らの命を捨ててでも、一人さっさと敗走していった勇者をダルクが庇う理由はカリムには納得が行く。彼女も後先考えずに暴挙に出たのとは訳が違っていた。

 それでも彼女は命乞いに聞く耳を持たず、剣を死にかけのサイガへ向ける。


「俺を殺したら、人間の世界が、秩序が崩壊する」


 勇者パーティを潰すようなこの悪魔に掛ける言葉としては、生温くて抱腹絶倒。カリムは抜ける筋力から剣を落としそうになる。

 支えるは殺意。心中で織り成す獄炎が支柱となり、彼の胸に刃を食い込ませる。


「がはっ……げほっ」


 即死はさせない。存分に苦しませる。カリムの嗜虐主義を助長するように、血の海が草木を侵食し、腐海を生み落とす。


「楽しいな、楽しいな」

「俺の命運もここまでなのか」


 命を強欲にも欲する彼へ僥倖が訪れる。デニスが増長する彼女の背後から忍び寄っていた。目を丸くする彼と同様、カリムにもそれは見えていたが、彼女を彼から突き放すには効果的である事には疑いの余地は無い。


「デニス、今だ!」

「任せて下さい、サイガさん」


 彼女はサイガの叫びに呼応し、魔術を発動する。カリムとサイガの足元にまでそれは拡大し、小賢しい魔物すらも逃がさない結界が展開される。

 それが何になるというのだろう、彼を助けるという結末へは結び付き難いこの結界。確かにカリムは出られないが、サイガも同じ空間へ幽閉させられている。

 そこに疑問を投げ掛けるように、彼はデニスを睨み付ける。


「どうかなさいましたか? 私はちゃんと手助けしましたよ。貴方が死ぬ手助けをね」


 頰を引きつらせるデニスの目にも魔法陣が浮かんでいる。彼女もすでに、カリムの軍門に下っていたのだ。そんなデニスがカリムの手伝いをする事があれ、サイガの命を救う道理は無くなっていた。

 そこには更に、ベルカとエリアルが肩を連ねる。彼を取り巻く結界が仮に無くなったとしても、包囲網が解かれるという道は消え去っている。つまり、彼はどう転がっていっても、死に行く運命。

 先が分かれば、悪戯に弄ぶのは時間をドブに捨てているようなもの。


「がっ」


 苦しんでもらった分、とどめは一瞬で終わる。心臓部を一突きすると、彼の目は虚になった。彼の言った、保ってきた均衡が静かに崩壊を迎える。まだひび割れ、しかし日が経てば海溝のような深い溝へ変遷する、避けられない現実がカリムの目に浮かぶ。


「これはあたしが世界の機構にとって代わる幕開け。さあベルカ、やっちゃって」

「ご主人様の命令ならば、喜んで」


 それから誰にも有無を言わさず、カリムの胴体を斬り裂かせる。血飛沫に隠れようとする瞳が最後に見たのは、これより彼女が大きな足跡を残す、この大陸を覗き込んでいた夜空の星々であった。


「あはっ、カリム様を急いでギルドへ輸送しなければ」


 勇者ここにあり、サイガを祭り上げていたアルマの街に訃報が拡がる。

 サイガの一行が強大な魔物に二度も襲われた。一回目に一人。二回目には二人。二回目には世界にいなくてはならないバランサーでもある勇者が死亡した。

 デニスとカリムは重傷。回復術師デニスの方は命に別条が無く、彼女たちが所属しているギルドのベッドにて快方に向かっているが、もう一人、魔法剣士カリムは回復術の効果も虚しく、生死の境を彷徨っている。


「カリムは大丈夫ですか?」

 

 デニスは弱々しい声色で、カリムを助けようと魔術を行使している魔術師に尋ねる。彼は汗を掻きながら、血が未だに止まっていない彼女の回復に魔力を注ぎ込んでいる。


「なんて深い傷だ。生命を保っているのが奇跡だぞ」


 カリムの出血は甚だしく、いつ死を迎えても不思議ではない、そういった旨の宣告を涙を飲むデニスに突き付けた。


「そんな! テムズ、ダルク、サイガに続いて仲間をまた失うなんて、私はもう耐えられません!」


 泣き崩れる彼女から目を背けるように、手を尽くした彼は部屋を後にしようとする。カリムの左目や胴体には包帯が巻かれ、とても痛々しい。血が滲んでいればなおさらであり、彼女の惨状にデニスの口からは言葉が一切出ない。


「おそらく今夜が山場だ。それ相応の覚悟はしておけ」


 気が重くなるような忠告を置き去りに、彼は下の階へと降りて行く。せめてもの計らい。彼女の最期を、仲間であったデニスに見届けさせる。残酷、それでありながら粋な計らいを彼はデニスにもたらしたのだ。


「ぅぅぅぅ! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……要らぬ心配ですよ。カリム様は死にません」

「ふふっ、痛いけど、その分すっきりしたね。こうしてカリムとして潜り込めたんだから」


 眠っていた筈のカリムが一転して元気に目覚めた。あの時受けた重傷で一旦は意識が飛んだ。だがカリムの身体とテムズの精神は普通の人間と違って僅かに離れており、その分身体から精神へ及ぶ影響を抑制できていた。

 傷だらけの身体を無理やり起こし、血を床に垂らしながら、カリムが立ち上がる。


「デニス、傷治して」


 命令口調でデニスへ出される指示。奴隷となり、テムズに屈した彼女には断る理由は皆無で、更には優秀な魔術師ですら匙を投げたこの傷を治せる自信もあるようだ。


「はっ、お任せ下さい」


 膝を着き、頭を下げた彼女は魔力の感知を妨げる魔術と、それを使う名目である回復魔術の発動を同時並行で行う。

 デニスは対象が死んでいなければ、即座に傷を治せる魔力をテムズから授けられた。

 テムズが繋ぎ止めていた、命を落とすようなカリムの重傷を、デニスは怪我を嘲笑うように修復する。

 魔術の行使が終わり、カリムに安寧が訪れた。胸の部分を除き、包帯を剥ぎ取る彼女が刮目するは、眉目秀麗が際立つ美少女の身体。


「あたしの新しい身体。元気になって何よりだよ」

「それでも、当分活動は自粛された方が。誤魔化すためにかなりの深手を負ったので」

「分かってるよもちろん。あたしはテムズだよ。ちょっと彼女の性格に引っ張られた感じだけど、根っ子は“俺"の頭脳が支配しているから」


 デニスの提案を反映し、しばらくは静養しながら次にやろうとしている事を綿密に練り上げる。

 こうしてしばらく経ち、巷で騒がれたカリムの奇跡、と言う事になって広まっていた彼女の復活劇が落ち着いた頃、アルマの国王から勅命が下る。


「勇者サイガの死亡から魔物の動きが活発化……その元凶、あたしだけどね」


 左目に魔力の放出を妨げる眼帯を装着し、胸元を露出した鎧でむさい男の注目を集めるようになっているカリム(テムズ)はあたかも支えるべき勇者を失った哀れな被害者、そして彼の代行者として、二律背反の役割を一手に引き受けようと欲を張る。


「デニス、そして新たなる勇者カリムよ。西に蠢く魔物の、今後の動向を含めた調査を命ずる」

「王よ。必ずや前任であるサイガの意思を引き継ぎ、崩れた均衡を立て直してみせます」


 気高い騎士でもあるアルマ王をも、邪悪なる意思は欺き、嗤う。


「その心意気や良し。存分に使命へ励むが良い」

「ふふっ、あたし、強ち嘘は吐いていないからね」

「そうですね、カリム様」


 アルマの門を出ると、ローブを被った元盗賊と、首輪を着けた獣人が彼女たちを出迎えてくれていた。お尋ね者のエリアルにローブを授け、引っ込んでもらっていたのはカリムは勇者になるまでのこの数ヶ月間。その間にエリアルはともかく、ベルカも大分染まり切っていて歯止めが効かない。なまじ嗅覚が飛び抜けていたのが原因だろう。定期的に、互いにローブを鼻腔に押し付けて匂いを嗅ぎまくる始末だ。


「待たせたね」

「問題ありません。ご主人様の匂いに囲まれていたので、我慢において苦労は無かったので」

「あたしもエリアルと同意見です。エリアルの臭いが混ざって若干不快ではありますが」

「喧嘩売ってるの?」

「あれ? あたしというご主人様の所有物に手を出そうというの? エリアルって短気だね。それで果たして、ご主人様への務めが為せるのかな」


 その一言でエリアルの反撃の手が止まる。


「チッ……後で覚えていろよ。あたしの後追いでしかない勘違い女」


 あまりに大きな舌打ちと、後々への反撃宣言と引き換えに、どうにかこの場だけは終息した。


「ご主人様、えへへ、好きぃ」


 エリアルが怒ったままだと思ったら大間違い。彼女は主人とその他で態度をころころ変える策略家。主人に取り入ろうと、歩いている途中でも腕を絡めてくる。好感度はその辺りの嫁よりも重く、カリムですら手に余る。

 溜め込んだ怒りは一悶着あったベルカへ向けられている。


「ご主人様はワタサナイ。ベルカにも、デニスにも」

「カリム様はエリアルちゃんに本当に好かれているのですね。私より年下の子供だからって甘えて……妬ましい」

「ご主人様の心はあんな狐に盗まれない……あたしはそう信じている」


 奴隷たちの仲は嫉妬に満ちている事から険悪の一色。殺し合いがどうたら、と主人のいる側でも争う気を隠さない。カリムは彼女たちを放任していて、特に注意したりはしない。

 別に怠慢とは違う。

 彼女たちは本当の殺し合いをする。デニスも、エリアルも、ベルカだって。

 強さが拮抗しているお陰で確実に勝負は決まらないのだ。吐き出し終えたら、次は今度こそ……と自分を高めようとする。

 つまり放っておく事こそ、彼女たちの強さの上昇に寄与していると解釈し、下手な真似はしない。


「ご主人様、なでなで、あぅぅ」


 背後から舌打ちが聞こえる中で、エリアルの頭を撫でるカリムが行く先は、魔王の一人が構える魔都パルテコアであった。


「貴様、何者!」

「そう身構えないで下さい。あたしも貴方たちと同じ、魔族です」


 門番に見せびらかすように、彼女は眼帯に隠した魔眼を開く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る